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Patagoniaにはなぜ定番が多いのか

markを含めたメディアでは、一般的に、これから注目を集めそうなニューブランドや、斬新なテクノロジーを用いた新製品に目を光らせていることが多い。でも。トレイルで〈Patagonia〉のアイテムを着こなしているトレイルランナーとすれ違う度に感じるのは、真に優れたギアはスタンダードとして愛用され続けるのだな、ということ。

ツバの短いソフトなメッシュキャップ、家からトレイルヘッドの移動時に着用しても違和感のないシンプルなロングパンツ、シーズン毎にお気に入りのカラーをつい買い足してしまうフーディ。

パタゴニアのトレイルランニングアイテムは、何シーズンも展開され続ける定番に事欠かない。そしてそれらは、私たちのアクティビティに、なんだかとても、ちょうどいい。だからつい手にとってしまう。

いったいどうしてなのだろう。そのことが少し不思議だったから、パタゴニアのトレイルランニングアンバサダーとして20年選手となる石川弘樹さんと、東京でトレイル&ランニングショップ〈Run boys! Run Girls!〉を構えてもうすぐ10年になる桑原 慶さんに、声を掛けた。

集合場所はオープン前のRun boys! Run Girls!。石川さん、桑原さん。Patagoniaのトレイルランニングアイテムに定番が多いのは、どうしてだと思いますか?

石川 桑原さん、どうもお久しぶりです。

桑原 今日はわざわざありがとうございます。

石川 僕はアンバサダーになってかれこれ20年になるけれど、桑原さんのお店も10年目に入るんですね。なんだか時が経つのは早いなぁ。

桑原 今日はPatagoniaの話ということで。

石川 はい。

桑原 弘樹さんが最初にPatagoniaの製品を着始めたときのことって覚えていますか?

石川 よく覚えていますよ。トレイルラン用のウェアとしてPatagoniaを着始めたのは、1996、7年かな。

桑原 アンバサダーになったのは2002年ですよね。その前から着ていた、と。

石川 1999年の第一回〈北丹沢12時間耐久レース〉で準優勝したときの写真が残っていて、〈バギーズ・ショーツ〉を穿いていました。頭には〈ダックビル・キャップ〉を被って。足元はNIKEのACGだったんですけど(笑)

当時はマラソンの延長のようなスタイルで走る人が大半だったなか、石川さんはパフォーマンスとスタイリングの両面で注目を集めた

桑原 Patagoniaのウェアを着るようになったきっかけは何だったんですか?

石川 今もそうかもしれないですけど、僕らが大学生のころって、また少し違うアウトドアカジュアルファッションのブームがあったじゃないですか。

桑原 確かに、Patagoniaを普通に街で着ていましたよね。Gramicciのパンツを穿いて。

石川 KAVUのキャップを被って。

桑原 足元はシャカサンことSHAKAのサンダルで。

石川 カッコよかったんですよね。だから元々Patagoniaっていいなぁというのがあって、ジャケットなどは普段着として着ていました。

桑原 僕も〈DASパーカ〉を街のアウターとして着ていたなぁ。

石川 桑原さんっぽい! で、自分がアドベンチャーレースやトレイルランニングを始めたタイミングで、Patagoniaをリアルにフィールドで着る、汚して使い倒すのがカッコいいだろうなと思ったんですよね。

桑原 機能面だけでなく、見た目というか、スタイルから入っていたんですね。NIKEのACGもきっとそこですね。

石川 最初はファッション目線で手に入れたんだけど(笑)

乾きのよさが段違いだった

桑原 とはいえ、実際に使ってみて、今日ここまで浮気せずに着続けている。当然、機能面でも優れていると感じました?

石川 印象的だったのは〈キャプリーン・シルクウェイト〉。今は〈キャプリーン・クール・デイリー〉と呼んでいるのかな。軽さと速乾性が段違いでした。それまでは大手スポーツメーカーのランニングウェアを着ていたのですが、汗の抜けがもう全然違う。

桑原 スポーツメーカーのランニング用ウェアとは、クオリティが一段階違いますよね。

石川 Tシャツ一枚で4~5000円と、決して安くはないんだけど。乾き方が比べ物にならないですね。当時、アウトドアブランドで他にトレイルランニング向け製品を出しているところは皆無だったんじゃないかな。

桑原 強いて言えば、先ほどから何度か挙がっているNIKEのACGですかね。ACGカテゴリーの中にランニングアイテムがあって、僕もウインドシェルを持っていました。

石川 Patagoniaは既に1990年代から、ヴェロシティというカテゴリー名で、エンデュランスアクティビティ用のアイテムを展開していた。今思えば相当早いですよね。

桑原 僕がトレイルランニングを始めたのは2010年代に入ってからですが、石川弘樹という存在は、その前から情報として目に入ってくるんですよ。カッコいいなと見ていましたね。2000年代かな。

石川 恐縮です(笑)

桑原 実際に走り始めた2010年代の中盤には、もう周りのトレイルランナーが普通にPatagoniaを着ていましたね。当時だと〈キャプリーン・シルクウェイト〉の他に、〈エア・フロー〉シリーズとか。その少し前の2000年代はどんなアイテムをよく着ていたんですか?

石川 それはもう断然、初代の〈ダックビル・キャップ〉と〈フーディニ・ジャケット〉。

2002年に前身の〈ドラゴンフライ・ジャケット〉として登場。2004年より今の名称へ。卵2個分の軽さで、風や小雨のパラつきを防ぐ。〈フーディニ・ジャケット〉1万4800円

トンボの羽のように薄くて軽いシェルが斬新だった

桑原 〈フーディニ・ジャケット〉は当初、違うモデル名だったんでしたっけ。

石川 〈ドラゴンフライ・ジャケット〉という名まえで、最初に手にしたときは、なんだこの薄くて軽いジャケットは、オモチャみたいだと驚きました。

桑原 それまでも防風防寒のシェルというアイテムはあったけど、発汗、発熱が激しいアクティビティ向きの、薄くて軽いシェルというのはなかったんですね。

石川 まさにそう。こういうスペックのものは斬新だったんです。シンプルで、でもフードはついていて。フードによる頭部の保温は個人的に欠かせないんですよ。山で遊ぶアクティビティをしている身としては、必要な機能が詰まっていました。

桑原 当時のランニング用シェルは、トラックジャケットのようにフードなしが当然で。

石川 そう。そのうえで薄くて軽く、コンパクトになる。当時はかなり新しかったんですよね、それって。今では当たりまえのように類似製品が山ほどありますけど。

桑原 もっと軽いモノや、同じくらいの薄さで防水のシェルも登場していますよね。それでも〈フーディニ・ジャケット〉はいまだに売れ続けているし、実際に周りで着用している人も多いです。

石川 機能的に次の次元に行っているシェルもあると思う。〈フーディニ・ジャケット〉も、機能的なスペックは徐々にアップデートはされているんです。実は。でも大まかパッと見た感じは変わってない。なんていうか、ちょうどいいんですよ。これより薄すぎると耐久性が不安だし、走るだけでなく乗り物移動でちょっと羽織るなど、普段から携行しています。

桑原 日常生活でもサラッと着られるシンプルなデザインですし。ペラペラすぎるシェルだと肌への貼りつきが気になることもありますが、着心地も抜群ですし。

石川 暑すぎず、薄すぎず。そこが便利なんですよ。

狙っていなさそうで、核心をついてくる

桑原 Patagoniaって、狙ってないのに後の定番が出来上がる、そういうアイテムが多い気がします。マーケットにまだその手のアイテムが無かった段階で、そういうアクティビティをする人に向けたアイテムを作る。だから最初は突拍子ないかもしれないんだけど、ちゃんと残る。核心をついているんだろうなぁと思います。

石川 一般の方からすると、新製品にいたっても取り立ててセンセーショナルでもなく、サラッと登場しているのかもしれませんが、着てみるとそのよさが身に染みて、しっかり定番になっているのだと。

桑原 核心をついていた定番品という意味では、弘樹さんから「裸に着る」と教わった〈キャプリーン4〉、今の〈キャプリーン・サーマルウェイト〉もそうですよね。

石川 ははは。登場した当時、桑原さんに「ダマされたと思って素肌の上から直接羽織って下さい」と言いましたっけ。

桑原 凹凸のあるグリッドフリースを、中間着でなく、ベースレイヤーに使っちゃおうというのが新鮮でした。やがてトレイルランナーがその利便性に気が付いて、ヤバいぞと。自分たちが求めていた体温調整に完ペキに寄り添うぞと。

〈キャプリーン4〉ばかり着ていた、と桑原さん。ちなみにショーツは〈ストライダー・プロ・ショーツ〉

石川 走ると風が抜け、停止すれば空気が溜まってちゃんと暖かい。

桑原 ブランドとして製品ラインアップが多岐にわたって、その中にこういうアイテムがポーンとあるから気がつきにくいんですよね。でも実際誰かが気付くと、口コミでヤバいなってなる他メーカーもモディファイしたパワーグリッドのフリースアイテムで追随していますが、その原点は全てこれ。

石川 アンバサダーとしてイチ早く試していたのですが、光栄でした。僕らは使用感のフィードバックやリクエストはしますけど、自分で生地のチョイスはできない。この生地をハイインテンシティなアクティビティ用に持ってきたのが凄かった。

マルチポケットパンツの完成例を見せてくれた

桑原 それと〈ストライダー・プロ・ショーツ〉も思い返せばすっかり定番になっていますね。僕が走り始めた当初は、マラソン用に買ったパンツにポケット沢山ついていたんだけど、トレイルランには使いにくいサイズで。そしたらこのマルチポケットパンツが出てきた。

Patagoniaの中で最もテクニカルなランニング用ショーツ。ウエストの後部中央にジッパー式ポケットを、両サイドに伸縮性のある封筒型ポケットを2個づつ備えている。裾のスリットの仕様などは何度かバージョンアップが重ねられている。〈ストライダー・プロ・ショーツ 5インチ〉9,350円

石川 これはUSAのアンバサダーの意見が反映されていますよね。アメリカのガレージブランドで似たようなマルチポケパンツがあったじゃないですか。

桑原 ありましたね! でもそれは縫製が甘すぎて。〈ストライダー・プロ・ショーツ〉完成度の高さ、作りの確かさ、ニーズの押さえ方と言ったら。このアイテムが分水嶺になって、以降、マルチポケットショーツが充実してきたなと、ショップを運営する身としては感じています。

石川 ポケットに〈フーディニ・ジャケット〉入っちゃいますから。他にはジェルやバー、カギ、スマートフォン。あとは拾ったゴミを入れたり。スマートフォンが年々巨大化していくので、入る、入らないで意見をフィードバックしたこともあります。

桑原 腰にモノ入れてもけっこう安定するんだって気づかされました。

石川 このパンツが出るまで、どうして世の中に定着していなかったのか……。それまではみなさん、ショーツ穿いて近所をランニングするときは、ベルト状のポケットのようなものを身に付けていたりましたよね。

桑原 それもありましたね! でも、今はマルチポケットパンツがすっかり定着して、完全に不要となりました。現代は情報が氾濫しているから、ガレージブランドのようにフックの強いものに吸い寄せられるところがあるけど。

石川 そういう側面はあると思います。

桑原 だからといって、新しいモノ好きやシリアスなトレイルランナーがPatagoniaを離れているわけでもなくって。例えばこのグリーングレーの〈ダックビル・キャップ〉、もの凄い勢いで売れてません? ウチでは一瞬で売り切れてしまって、Patagonia側にも在庫がないと聞いていて。

石川 このカラー、いいですよね。僕も先日、これはすぐ在庫がなくなりそうだと焦ってリクエストしました。ギリギリ間に合ったようです(笑)

桑原 ショップを営む身としては、定番として定着してくれているアイテムが非常に多いなと思うんですよ。ここ最近だと〈テルボンヌ・ジョガーズ〉とか。

石川 はい。

長年求められていた、ちょうどいいロングパンツ

桑原 シルエット、カラー、穿きやすさが絶妙で、ちょうどいい。棚に並べているだけでどんどん売れていくし、年々ファンが増えていく。他のブランドはマーケティング上の理由もあって、半年サイクルで商品がどんどん切り替わっちゃうところがあるんですけど。どんなアイテムでも、目ざといモノ好きの人たちが反応して盛り上がってから、それがより幅広い層にリーチするまで、1年2年とかかるんですよ。

石川 そういうものなんですね。

スリムフィットで薄く、適度に伸縮性のあるアクティビティ用パンツ。2018年の登場来、年々カラーバリエーションの展開が広がっており、ライフスタイルにも寄り添う。〈テルボンヌ・ジョガーズ〉1万2,100円

桑原 ショップからすると、みんなに利便性が知れ渡るまで継続して展開してくれる、そういうよさがあります。そのうえで核心をついているから、一度着たら、あ、これいいねとファンになっちゃう。ダマされたと思って着用してみてほしい、というのはありますね。

石川 スタイルの変化というか、ちょっと前まで冬でもみんなショーツで走っていたじゃないですか。僕は元々タイツが好きで、タイツを穿こうよと提案していたんですけど。ショーツは寒いし、寒いと筋肉にもよくないし。

桑原 かといってピタピタのタイツは抵抗のある人も相当数いて。

石川 でも〈テルボンヌ・ジョガーズ〉が出てくれたんですよ。まさにちょうどいい。使い勝手か良く、着心地もしなやかで。

桑原 僕らのショップは、オープン時から「シルエットのきれいな走れるロングパンツ」を探し求めていたんですけど、その意味では〈テルボンヌ・ジョガーズ〉はこのカテゴリーにおいて一番先に出たフロンティア的なアイテムではなかったけれど、後からポンと出てきてファンの掴み方が凄い。やっぱりバランスがちょうどいいんですよ。シルエットだけでなく、軽く、しなやかで、おまけにプライスも。

石川 素材使いが巧みですよね。これがストレッチの思いっきり効いた生地になるとまた敷居が高くなっちゃうので。

桑原 見た目や雰囲気がテクニカルすぎると、敬遠する人も出てきますから。

石川 家着でもいい快適さ、着心地のよさがありますね。その一方で、濡れてもすぐに乾くなど、素材的にはちゃんとテクニカル。〈フーディニ・ジャケット〉のような。だから普段からよく着用していて、先日のトレイル整備でも穿いていたんですけど、廃盤になったお気に入りのカラーに防腐剤をこぼしてしまって、ショックでした(笑)

桑原 無地でシンプルなのになんかこれいいね!ってなるデザインですし。2010年代後半は、ライフスタイル寄りのスタイルが人気でしたからね、その流れで言うと〈ナイントレイルズ・シャツ〉。

石川 現行の〈キャプリーン・クール・トレイル・シャツ〉ですね。

桑原 杢調で、普段着のコットンTのように見える速乾生地のシャツ、あれをあのクオリティで出したのもPatagoniaが最初でしたね。その辺も気分をとらえていました。

コンセプト自体がスタンダード。だから定番になる


ウルトラランナーのアドベンチャーを手助けするため、2014年に復刻。使用されているナイロンは漁網をリサイクルしたもの。〈ダックビル・キャップ〉。各3,960円

石川 さっき桑原さんが言及された〈ダックビル・キャップ〉も、この手のツバがソフトなメッシュキャップって以前は世の中になかったですよね。

桑原 本当にそう。僕は2014年に復刻されたときからの出会いになりますが今振り返ればこれもタイミングが最高だった。

石川 それまでのキャップはトラッカーハットのようにみんなツバが硬くて、長い。もしくはバイザーを被っていましたよね。

桑原 そこにコレが出てきた。メッシュで熱がこもらず、ツバが短いから視界がオープンで、おまけにソフトだから脱いだときに丸めて持ち運べる。なんじゃこりゃ、トレイルランに最高じゃん!と。復刻された2014年や2015年の、僕の走ってる写真を見ると、ほとんどコレを被ってると思いますよ。

石川 ヘッドライトも装着しやすいんですよね。

桑原 今あるメッシュ生地×5パネルの、ソフトなツバ短のキャップは、すべて〈ダックビル・キャップ〉のフォロワーなんですよね。単に形がスタンダートいうことではなくて、商品の考え方、コンセプトがスタンダードだったのだと思います。

石川 〈ダックビル・キャップ〉、すなわちアヒルの口のような形ということですけど、1990年代に展開されていた初代はカヤック用だったんですよ。

桑原 へぇ、それは知らなかった! 水が抜けるようにですか?

石川 抜けると言うか、落としたときに浮くんです。メッシュだと。短いツバはパドリングの妨げにならないように。それがランニングにもちょうどいいなと、使い始めました。

桑原 その使い勝手を身をもって知り、使い続けていたトレイルラニングアンバサダーの皆さんのリクエストを受けて、今の復刻バージョンが登場したと聞いています。そうして今やランニングキャップの一大スタンダードですからね。今出ている各社のものはマネしている認識すらないかもしれません。スタンダードになりすぎていて。

石川 なんだ、そういう話をするなら昔の愛用品を全部持ってきたらよかったな(笑)

桑原 毎年仕入れて、当たり前のように毎年売れています。

石川 バリエーションとして、〈ダックビル・ショーティ・トラッカー・ハット〉もあります。

〈ダックビル・キャップ〉の特徴をクラシックなトラッカー・ハットスタイルに落とし込んでいる。丸めて容易に持ち運べる。〈ダックビル・ショーティ・トラッカー・ハット〉4,950円。

桑原 弘樹さんはどう使い分けていますか?

石川 トレイル整備などの作業や、イベントのとき、リラックスしたランでは〈ダックビル・ショーティ・トラッカー・ハット〉。ケガの治療中でなかなか機会が無いのですが、本気のレースに出る場合だったり、シリアスなトレーニングでは〈ダックビル・キャップ〉ですね。

桑原 なるほど。アンバサダーということで、一般に流通する前のアイテムも先んじてテストされていると思いますが、今シーズンのニューアイテムで他にオススメってあります?

機能とデザインが一体となった、社内がザワついた完成度

吸湿発散性と速乾性を備え、通気性に優れた新しいランニング用トップス。トレイルで長時間を過ごすのに最適。〈リッジ・フロー・シャツ〉7480円

石川 Patagonia関係者のなかでザワついているのは〈リッジ・フロー・シャツ〉。これ、抜けがいいのに寒くはないんですよ。

桑原 メンズはウェーブ状のテクスチャーが特徴的ですね。

石川 パッと見の印象よりも軽く、速乾性が素晴らしいです。スースーとするように見えるかもしれませんが、そんなことはなく、風は防いでくれますし。何といってもウェーブ状で白っぽく見える部分が、汗を完全に吸うのではなくて。

桑原 疎水性があるんですかね。

石川 それでよく乾くんですよ。通気する部分と、吸汗する部分のジグザグで。

桑原 かざすと向こう側が透ける!

石川 吸汗させる部分と、その汗を発散させる部分とのコンビネーションで、乾き方が段違いです。

桑原 僕はまだ試せていませんが、編み組織の切り替えをここまで細かいパターンでやっているのはさすがで、機能がデザインになっている。おまけに着心地の良さにもつながっていそうです。ウチではウィメンズを仕入れています。

石川 ぜひ着て走ってみて下さい。ビックリすると思いますから。

桑原 ビックリといえば、〈リッジ・フロー・シャツ〉はもう当然のようにとして、他の定番アイテムも、気がつけば当然のようにリサイクル素材へと切り替わっているじゃないですか。

石川 〈フーディニ・ジャケット〉も人知れずリサイクルナイロンに、人知れずPFCフリーに。

桑原 一般のユーザーに向けてそこまで声高にPRしていないけれど、これだけの物量が流通しているなかで、そのインパクトは小さくないと思っています。

コアランナーだけが気づいている新定番候補

石川 桑原さんのお店では、2年前から展開している〈ハイ・エンデュランス・キット〉も取り扱っていますよね。

桑原 あ、これも着ればよさが伝わる系のアイテム群かもしれません。トータルコレクションの大半がコアなアイテムだけど、ショーツ以上タイツ未満な〈エンドレス・ラン・ショーツ〉は、僕の周りでは少なくないトレイルランナーがヘビーユースしています。

石川 〈エアシェッド・プロ・プルオーバー〉は着ますか? これが特に気に入ってまして。

桑原 Patagoniaお得意の、素材切り替えハイブリッドですね。

速乾性と通気性を備えた超軽量なウインドシャツ。同色の薄手カットソー素材を袖とフード周りに使用している。〈エアシェッド・プロ・プルオーバー〉1万8150円

石川 はい。本体はエアシェッドというウインドシェル素材なのですが、肘から先の腕部分と、フード部とが〈キャプリーン・クール・ライトウェイト〉と同じカットソー素材になっていて。

桑原 どんなときに使いますか?

石川 桑原さんと僕の共通点であるサッカーでたとえると、ユーティリティプレーヤー的存在なんですよ。

桑原 なるほど(笑)

石川 ウィンターシーズンも含めて、脱がずに着続けられる。さすがの春夏の炎天下では無理ですけど。

桑原 いわゆるミッドレイヤーですね。

桑原 通気性がよく、保温力もあって。ベースレイヤーに半袖Tシャツやスリーブレスを着込んだら、その上に羽織って、そのまま着通しです。

桑原 〈エアシェッド・プロ・プルオーバー〉を着たらウインドシェルの出番が減るという側面もありますか?

石川 そうですね。この上に走り始めだけ〈フーディニ・ジャケット〉を着て、暖まったら脱ぐ、みたいな。〈キャプリーン・サーマルウェイト〉や のような使い方ですが、あれだと風が吹くとちょっと肌寒かったりするんですよね。

桑原 分かります! それが良さでもあるんですけど。

石川 〈エアシェッド・プロ・プルオーバー〉はいい意味で風をしっかりシャットアウトしてくれます。こもるような湿気はちゃんと排出しつつ。

桑原 マーケットでトレンドになっている「着続けられる系」ウェアの新たなアプローチですね。

石川 素材の切り替えによって、風をブロックしたいところと、風が抜けて欲しいところを分けていて。そのバランスが絶妙ですね。

桑原 パッと見ではわかりにくいというか、マニアック!

石川 シェルのように見えるかもしれないけど、違うんですよ。伝わると嬉しいですよね。このスペックで、しかもトレイルランナーとしてはフード付きという点がやっぱり嬉しい。今、もっとも着用率の高いウェアかもしれません。

桑原 こうやっていくらでも話せそうなんですが、そろそろ時間も時間なので(笑)。

石川 つい話すぎてしまいましたね。ありがとうございました。

桑原 今日ここに集めてもらったPatagoniaのアイテムを眺めていると、他にない絶妙なところをついているアイテムが多いと実感しました。当りまえすぎて認識していなかったところがありますが、〈ダックビル・キャップ〉のあの形も、〈ストライダー・プロ・ショーツ〉のマルチポケットも、そういえばPatagoniaがフロンティアでした。

石川 注力アイテムになると、開発段階でアンバサダーにテストをさせてくれるんですよ。完成したモノを先行して提供されるのではなくって。素材選びのテストから携わらせてもらえるんです。そこで気に入った点を伝えると「このディテールは弘樹が気に入ってると言ってくれたから残しておいた」とか。サムループのディテールとか、そうですね。

桑原 そうなんですね。だからこそ、今後もしれっと“次の定番”が登場していくのでしょうね。

右/石川弘樹(いしかわひろき)

パタゴニアのトレイルランニングアンバサダー。日本初のプロトレイルランナーにして、日本にトレイルランニングカルチャーを紹介したパイオニア。2007年Rocky Mountain Slam総合優勝など、フロンティアとして海外でも活躍

左/桑原 慶(くわばら けい)

東京のトレイルラン&ランショップ「Run boys! Run girls!」店主。2011年よりトレイルランニングを始め、〈UTMB〉を完走するまでに。ギアやその周辺カルチャーへの造詣が深く、2022年の6月に数年振りとなる100マイル〈ビッグホーン〉へと挑む予定