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はじまり

「ノリ、これだよ!この100マイル走ろうよ!」

いつかどこかのタイミングがきたら走ろうと思っていた100マイル(160km)のトレイルランニング。ある日、友人で国内外のトレイルレースを撮影などで周り、おそらく日本人で最もコアでセンスのいいトレイルラン情報をもっているであろう田中嵐洋氏 @ranyo_tanaka(以下ランヨウ君)に言われた言葉。

僕はトレイルランに関して情報もないし、ランヨウ君を信頼しているから、「あ、そうなんだ、オッケー!」って軽く受けてエントリーする事に。なぜかそのエントリーのためには作文の提出が必要で自分の想いを綴った作文を提出、狭き門をクリアして無事に当選して、このBAMBI100(以下BAMBI)という奈良県生駒山で行われる100マイルを走れることになった。

僕がなんだかBAMBIに惹かれた理由、それがこのBAMBIはレースではなく、順位もつかない、全員で完走を目指すトレイルランニングであることだった。それ以外はこの時点で何が起こるのかまったく想像できていなかった。

夏場のトレイルトレーニング期

これまでにアイアンマントライアスロン数度、フルマラソン数度、ウルトラマラソン100km、そしてトレイルでは昨年のITJ70kmを走っていたけれど、「100マイル、どんな感じなの?」って聞ける相手が先出のランヨウ君と、同じく僕にトレイルランニングの魅力を教えてくれ、「ノリさん、このBAMBIを走りましょう!」って太陽のような笑顔で僕にすすめてくれた日本を代表するトレイルランナーの宮﨑喜美乃選手(以下キミノ選手)@miyazaki_kimino しかいなかった。2人はなんとも軽ーい感じで色々とアドバイスをくれ、「当日までに大体この位走っておいてね」、っていうざっくりのプランをくれた。

とにかく想像ができないから仕事の調整をしスケジュールを組み立て7月下旬からいつも真剣に走り込まなくてはいけない時期に引っ張ってくれる僕の絶対的なランニグマスターであるGTC @go.gtc 主宰の平田文哉氏(以下平田さん)に相談、というよりも懇願。

「平田さん一緒に走ってください!」それで2人でカレンダーを広げ日程を組んでBAMBIまでの約2ヶ月間、週1、2でトレイルに連れていってもらい山の中で引きずり回ってもらう日々がスタート。

「平田さん、切羽詰まっています。今の僕は山が綺麗だとか、自然が美しいとかそういうことではなく、アクセスが良い、そしてとにかく練習効率の良い山で走り込みたいからお願いします」

東京近郊の青梅や飯岡高尾の山やムーミンバレーパークの周囲の山、一番痺れたのは移動の時間もあまり取れなかった時の「代々木クロカン6時間走」いやー痺れた。とにかく平田さんに導いてもらい、時間を作り、クロスカントリーを長時間走った夏だった。

生きたエネルギーで動きつづけること

今回も、最も大きなテーマ、それは「補給」以前この記事で書いた通り、今回もオールナチュラル、そしてほぼローフードのエネルギーでこの100マイルを走ることにした。体の消化に極力エネルギーを使わず、自分の持っているエネルギーを走ること動き続けることに集中させる、そして体にとってクリーンな栄養(fuel)で走りたい。

持久スポーツでは当たり前に使われているジェルや化学合成されたエナジーバーやスポーツドリンクの類。僕の考えと、そしてこれまでの体験では、(少なくとも僕の体は)自然のものを極力エネルギーを変換させずにそのままの状態で食べたり飲んだりした方がよりよく動いてくれる。100マイルも走ってくれる体に、さらにプロセスするのに負荷が高い化学食品を摂取しながら走るよりも、少しでも自然に近い状態のものだけをraw(エネルギーが生きている状態)で摂りたい。今回も迷いなく、自作ローフードエネルギーで走ることにした。

具体的には、アーモンドとカシューナッツをベースに、糖として体に効いてくる早さと「効き」が違う、デーツ、蜂蜜、ドライフルーツを混ぜ込んで低温乾燥させた3種のエナジーバー。それぞれにビーツパウダーや、ヘンプシード、ココナッツファインやカカオニブなどを加えて効きと歯応えのバラエティも増やす。

これに、友人が協力して作ってくれたカフェイン入りのナチュラルエナジーボールを主に用意し、合わせて血管を拡張させ体内の酸素運搬能力を高めるミラクルベジタブルであるビーツをコールドプレスしたサンシャインジュース、イチジクやみかん、柿といった生のフルーツを走るための栄養源とした。

僕のローフードの先生であるパナマのAris LaTham @aris_latham がいつも言う、

“Its not food in your life, but LIFE IN YOUR FOOD that nourishes” (あなたに栄養を与えるのはlife(暮らし)の中で食べる食べ物ではなく、食べ物の中に存在するlife(生命)である)

を自身の体験で実感しようというのが今回の試み。結果的には自然のエネルギーのみ、ほぼローフードで走り切ることができて、内臓への負担は皆無。今までの長いレースだと翌日もむくんで、食べられなくなることが多かったけれど今回は翌日も普通に食事ができた。

カロリーや糖質をどう摂るかにフォーカスするのではなくトータルで体にできるだけ負荷のかからないものを食べたり飲んだりしながら長時間動きつづける事に体のエネルギーを向けさせてあげることが結果的には良いのではないかと思う。

草レースのすすめ

前日に会場である生駒山に入り前泊する。今回友人のトレイルランナー野田さん(以下ノダさん)@nodacci も同行してくれてた。普段からあまり炭水化物を摂らない僕は特に意識して前日のカーボローディングもせずに2人で様々な話をしながら食事をして、かなりリラックスした状態で早めに眠った。

当日のスタートは朝8時。自分がこれからどんな旅をするのか全く想像もできないまま、他の参加者とスタートに並ぶ。参加者は総勢36名という規模で、スタートゲートも全体の雰囲気も手作り感満載。すごくリラックスした雰囲気でよい時間だった。BAMBIの主催者である土井陵氏からスタートにあたっての挨拶を聞いてから、一斉にスタートする。僕はとにかくわからないことだらけだったから、40km x 4周回のトレイルの内1周目はどんなトレイルなのかを知ることにフォーカスして、他の参加者の方とグループで走った。

他の皆さんはこのコースで試走もしていて、コースもばっちり頭に入っている様子。試走ができていない、そしてナビゲーション時計の使い方を最近覚えた僕には不安であったが、本当に親切な方ばかりで、間違いやすい箇所を教えてくれてとても和やかな雰囲気で話しながら走りはじめた。

1周40kmを4周、そして20km地点にエイドステーションがあるセットアップ。こう書くとなんとも伝わらないが最初の半周20kmがすでにとても長く感じてしまった。最初の20kmのエイドで待っていてくれたノダさんに「ノダさん、これ長いから無理かも!」って伝えたのを覚えている。自分が今いる地点に集中せず、先のことを考えてとてつもなく長く感じてしまいネガティブになっていた、というのがその時。やはり普段から意識しようとしている、「今」に意識を向けることってすごく重要だと体感した。

エイドステーションも和やかな雰囲気でのサポートがあり、一緒に走っていた他の参加者のランナーと思い思いの補給をしたり給水をしてしばし休んでまた走りだす。競技的な雰囲気ではなくそれぞれが山を楽しみ、そして完走を目指している一体感が素晴らしい。1分でも早く走りたい!という競技としてのランニングではなく、他の要素を楽しむ、自分にとってそれは目に入ってくる自然の美しさであったり、自然由来のものを補給しながら動き続けて体とコミュニケーションすることだったり、つらい局面がきたときにそれと向き合って感じてみることであった。

ランニングには早く走ることや、順位を競う「競技的」な楽しみもあるけれど、それ以外にも、より「ホリスティック=全体的な」楽しみや美しさがある。そんな楽しみ方を見出して走ってみることができるとまた新しい「走る魅力」を感じられるのではないだろうか。そんな楽しみができるのも草レースならでは!

初体験!最高のトリップアウト・ナイトラン

2周目の後半で日が落ち始める。2周目にもなるともう人と走る感じではなくソロで走っていた。もちろん道を一度で覚えられるはずもなく迷子になっては時計がピーピーの繰り返し、この迷子でだいぶロスになったのと、精神的にも張っていないといけなくてかなりのストレスだった。晩秋の生駒山、空気がとても澄んでいて光が綺麗に入る。夕方から夜を迎えほぼ満月の大きな月があがる。まわりに誰もいない山の中でどんどん暗くなっていく山道を走る時間は奇跡のようだった。頭になんの思考も浮かばず、ただただ自然を感じて、そして時間とともに変化する目の前の色や風景、光と一体化しているような感覚で、こんなに夕暮れから夜の闇までの時間の移り変わりにだけフォーカスして楽しめたことはなかったように思う。

そしてそこから始まる夜のセクション。静かな山の中でヘッドライトで走る。本来は人間がいない時間なのにその日はランナーが多数山に入っている。なんだか本当は森の木々たちが「人目をきにせず」自由になって解放する時間なのにその日はまだ人がいる。中には油断して心を許している植物もいたような気配がした。合わせて山にいる動物たちも、「あれ、今日は夜中も人間がいるよ!」って思ったんじゃないかな、本来人間が活動していない時間、自然界の他の植物や生物たちのための時間であるはずなのに、彼らが心を許してリラックスしている時間を邪魔して悪いな、っていう思いもしていた。

焦らず、腐らず、諦めず

3周目以降はランナー1人にペーサー2人まで、一緒に走ることができる。3、4周目をノダさん、3周目後半にランヨウ君、4周目前半にキミノ選手、そして4周目後半には応援に駆けつけてくれた友人たちも一緒に走る豪華布陣のペーサーラインナップだった、そしてこれがとてつもない力を発揮してくれた。

3周目のスタートは真っ暗な夜、おそらく22時前後。トレイルランナーであるノダさんと2人で走り始める。それまで80km走ってきてやっと人と走れて嬉しい!と思いながらも始まってみると割と無言で2人走。でも、ノダさんが適度な距離を保ちながら先導して走ってくれるだけですごく心強くそれまで気を張り巡らせて走っていた僕にとってはその気を緩めて走ることに集中できるのは大きなプラスだった。

3周目の後半には右膝裏の激痛で走るのがだいぶキツくなってくる。時間が経つにつれて痛みは増して、豪華ペーサーのキミノ選手と走る時はもう痛すぎてほぼ走れない状態。歩くとより長く感じるトレイルだったが、キミノ選手も一緒に歩いてくれ、途中途中でマッサージをしてくれたりテーピングをしてくれ、「ちょっとでも走りましょう」という声がけのおかげで、なんとか前に進み続けることができた。エイドステーションに着いたら応援に駆けつけてくれた友人たちもいて、笑顔もでて喋ることもできたが、走って(歩いて)いる最中はそんな余裕は一切なく、ほぼ無言で頭の中もネガティブな思考に襲われては戻り、の繰り返しだった。

4周目には他の参加者の方からポールを貸していただきポールを持って走った。本来レースでは人から物を借りて走ることはできないらしいが、それが許されるのもこのBAMBIのよさ。見ず知らずの方からポールを借りてポールウォーキング初体験。亡くなった祖父が80を超えたくらいからポールをもって散歩をしだして「このポールがあると歩きやすいんだよ!」と言っていたのを思い出していたが、本当にその通りでポールに救われた。あと暗い山道で僕が間違ったコースに行きそうになったところを遠く後ろにいるランナーが「そっちじゃないよ!」って言ってくれる。助け合いながらみんなで完走を目指す雰囲気を味わうことができて温かい優しさにあふれていた。

最後の半周が始まるときはもはや想定していた時間よりも何時間も遅くなっていた。こちらの都合で遅くなっているのに、それにも合わせて応援しにきてくれた友人たちには本当に感謝しかなかった。最後の半周はたくさんの友人が一緒に山を伴走してくれた。僕もノダさんも寝ていない。もちろん眠い。そして天候も変わってきて途中から雨ざーざー、風びゅーびゅー、寒い、そして日も暮れ始める。友人たちとのせっかくの山時間も、僕は口数少なく、ポールを使いただただ足を前に出して動き続けることしかできない状態だった。「余裕で昼前にはゴールしてると思うよ」とか言ってた自分がまさかの制限時間もギリギリ、2日目の夜を迎えていた。

とにかく長かった。最後の半周は果てしないほど長く感じたけれど、ついに走り始めて35時間をちょっと超えたくらいで辿り着いた。2日前のあの和気藹々としたスタートゲートがこの壮絶だった100マイルのフィニッシュゲートになっている。関係者やサポートしてくれた友人たちが集まってくれていて、でも、やっぱり草レース感満載であるが、本当に温かい空気に包まれた中で、ベルを鳴らして僕の初100マイルは終わりを迎えた。

正直、もうこれ以上無理っていうくらい、足も痛いし気力も疲れ果てていた、そして眠さもあってなんだか朦朧としているなかで、もちろん「達成感」は感じた。でも、とにかくもっと強く感じていた感情は「感謝」だったように思う。尊敬するアーティストのSHINGO★西成さんの曲にある言葉「焦らず、腐らず、諦めず」の大切さを実感した、そして途中何度も腐りかけて、というかぶーぶー腐っていたけど、そこを止めてくれたのが周りからのサポートだった。

肉体、精神、そして魂の成長

Perci Cerutty という伝説的なランニングコーチが残した言葉にこんな言葉があるそうだ。

「私が教えるランニングには、スポーツや身体活動というよりも、肉体(フィジカル)、精神(メンタル)そして魂(スピリチュアル)に関わる自己の完全な表現だ。私が教えるランニングとは、アスリートの完全かつ完璧な成長である」

今回100マイルを走ってみてそれを実体験をもって学ぶことができた。35時間という長い長い旅を通して本当に色々な局面があった。肉体的にも苦痛であったが平田さんとの準備の期間があったからこそなんとか成し遂げることができた。精神的にも長い長い時間自然の中で苦しみと喜びが次々に押し寄せてくる中でもやりきることを考えて向き合って平穏を保っていられた。そして、自分のいる環境で自然のエネルギーを感じ、そして体に取り入れるものにも自然のエネルギーが溢れ僕を後押ししてくれていた。さらに、周りにいてくれたサポートの皆さんからの愛のあるサポートは目には見えないんだけど本当に力強く魂を振動させてくれ動き続けさせてもらえた。月なみな言い方になるが、「サポートの力ってこんなに強いんだ!って今回ほど感じさせてもらえことはなかった。

最後に、僕が走りながらずっと頭の中に響いていた言葉で締めくくりたいと思う。これはBAMBIのあの和やかなスタートの時に主催者の土井さんが参加者に向けて喋った言葉。

「BAMBI 100は制限時間を40時間に設定しています。この時間内ならばきっと歩いてでもゴールを迎えることができます。必ず辛い瞬間が訪れますが、その辛さは必ず消えて無くなります。諦めずにどんなに辛くても歩いてでもゴールに帰ってきて、僕たちに完走を祝わせてください!」

この言葉が具現化していたBAMBI、最高の草レースだったと思う。そして彼が言った通り、痛すぎて走れなくても止まらなければればゴールに辿り着くことができたし、幾度となく訪れたつらい、やめたいと思うセクションも時間が経てばどこかに消えてなくっている瞬間が訪れるのを何度も体験できた。これ本当。

レースがあるわけではないのに練習に付き合ってくれた平田さんに。寝ないでずっとサポートし続けてくれたノダさん、ランヨウ君、キミノ選手に。そしてみんな忙しいのに何時間も僕の走れない山歩きに付き合ってくれて声援を送り続けてくれた友人たちに。今回のチャレンジにあたりサポートしてくれた各ブランドの皆さんに。そして、こんな壮絶な体験をさせてくれたBAMBI100チームに。一緒の体験をした参加者のみなさんに。SNSなどで応援のメッセージをくれた家族や友人たちに。走るためのエネルギーになってくれた植物たちに。自分のフィールドなのに迎え入れてくれた生駒山の植物や動物たちに。関わって何かしらのエネルギーを届けてくれたみなさんに、心からの感謝と愛とリスペクトを伝えます。

みなさんなしではこの体験もできなかった。そしてこの体験を必ず他の誰かのために、植物のために、美しい環境のために、健康な食のために、pay forwardしよう。間違いなく言えるのはこの体験ができてよかったこと。そしてより良い社会や未来のために微力ながら生かしたいと思うこと。走り終わってよく聞かれる質問。「さあ次はどの100マイル走る?」しばらくは保留させてください。


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NORI KO

NORI KO

サンシャインジュース代表。アメリカ、日本、台湾での生活を経て日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」をオープン。できるだけ良い素材を探すため日本各地の農家を訪問。自身の日常生活にスポーツは欠かさず、趣味は持久スポーツ。フルマラソンは毎年サブスリーを達成。

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