険しい谷間に吹き集められたように雪が溜まり、クーロワールと呼ばれるそのわずかな“溝”を滑り降りてくることに新たなスタイルを見出すスノーボーダー、渡邊雄太さん。カナダのウィスラーを生活の拠点とし、雪山の状態を鑑みながら、自分の限界に挑戦していく。なぜ、深い雪をかき分けながら山を登り、自らの身を危険にさらしてまで、クーロワールにこだわるのか?
カナダでのライフスタイルについて聞きました。
自然のなかにいると、
自分の身体を100%動かしたくなる
まったく山と接していない人には分かりづらいかもしれないですが、山には人を惹き付ける魅力があって、僕もその魅力に取り憑かれた一人だと思います。だから、クーロワールに挑んでしまうんです。自然を克服すること、あるいは自分の恐怖心に打ち勝つこと。挑戦には、両方の要素が含まれると思うんですが、自然は常に自分のレベルにあった課題を与えてくれるんです。
初めてスノーボードをする人にも、そこは平等です。でも、人間には絶対に太刀打ちできないような自然もある。クーロワールではなくても、ちょっとゲレンデを外れてバックカントリーに歩いていっても、あるいは斜度の緩いようなときでさえ、自然の中にいると常に状況判断を迫られますよね? その中に、張りつめた空気感があるんです。クーロワールが楽しいことかと言われたら、もちろん好きでやっているんですけれども、楽しいと思える瞬間があると危ないと思っていて。緊張して張りつめている感覚を楽しまないようにしているというか。楽しんでいると、油断がどうしても入ってしまうから。その分、張りつめた緊張感から解放された瞬間の喜びは大きいですね。
普段は、冬のシーズンのために自然と遊びながら身体を作っています。バーベルを上げるようなトレーニングを取り入れたこともあるんですが、身体はでかくなっても、あんまりスノーボードに違いが出なかったし、むしろ身体が硬くなって動きづらくなったんです。今は、ヨガを多くしていますね。1月から5月くらいまでのシーズンが終わってからはロッククライミングをやったり、家からすぐの場所にトレイルがあるのでマウンテンバイクでビレッジまで行って仕事をして、また帰って来たり。ウィスラーには自然が溢れているから。自然のある環境に住んでいると、身体が100%自分の動かしたいように動かせないと、何だか嫌な感じがするんです。自然の中に身を置くことが、身体的にも精神的にも、コンディションを整える上でいい気がしますね。
自然のエネルギーを感じながら
スポーツする、その先にある答え
自然のエネルギーを感じながら身体を動かすことに集中していると、自分自身に意識が向かっていることがあるんですよね。走ること自体はあまり好きじゃないんですが、トレイルランニングでもちょっと走ると、気がつくと自分に対して集中している。疲れてくると集中できなくなってしまうけれども、集中しているときは身体が充実して、誰よりも速く走れる気がしたり、挑戦できる、自分の限界をプッシュできるっていう状態になるんです。自然って危険な場所もいっぱいありますけど、もしかしたら一番安心できる場所なのかもしれないなと思いますね。
でも、スノーボード以外のスポーツは、危険なことをやっていいレベルにまで達していないというか、コントロールできないのが分かっているので、挑戦する資格がないと思っています。スノーボードの場合は、すごく集中しているけれどもリラックスしている瞬間を感じることがあって、クーロワールのような危険なことに挑戦できる状態に自分がいることが、幸せだったりしますね。
挑戦する課題が見つからないのに、挑戦を強いられればものすごく大変だと思うけれども、自然の中で生活していると自分が魅力的に思う雪山の斜面がどんどん出てくる。それはもうエンドレスに。そこに意識が集中していれば、挑戦する人生が過酷だとは思わないですね。自分の気持ちが昂るような対象が自然の中にある限りは、挑戦が辛いとは思わないし、きっと一生楽しめる。自然が存在する限りは、新しいことを続けていけると思うんです。
挑戦する、ということとはまったく別に雪山の楽しさもあって、何度も通っている場所で地形も把握することができていれば、100%の安全はありえなくとも、今度は楽しもうっていう滑り方に変わってくる。純粋に楽しいですよね、友だちとワイワイ言いながら滑るのも。日常では味わえない感覚ですから。深い新雪を滑るときも、辛いよりも、気持ちいい方がはるかに多いですから。でも実は、ちょっと辛いくらいの感覚の方が楽しかったりするんですけどね、僕の場合は(笑)。自分に負けないようにしながら滑っていくような、自分と対話するような、そんな感覚が好きなのかもしれません。
(文 村岡俊也 / ムービー撮影 小林進也・斎藤正隆)