fbpx

(文 礒村真介/写真 松田正臣)

富士山をぐるり一周するUTMFの興奮さめやらぬGWだったけれど、第3回となる今年の大会には、本当に多くの外国人ランナーが来日した。その中で、個人的に最も注目していたのが、ジョー・グラントとトニー・クルピチカ(ともにアメリカ)の2人。残念ながらトニーは怪我からの回復が遅れ、大会の出走自体は見送りとなったけれど、せっかくの機会なので、UTMF前の2人に、西湖のほとりで、お互いのこと、日本のことについて聞いてみた。

夏場は上半身裸で走る“ネイキッドガイ”であるトニー。そのスタイルに共感するファンは多い。発売中の『mark』02号では彼のインタビューも掲載中。

「出会いは確か5年ほど前かな」「共通の友人が紹介してくれたんだ」

アメリカのトレイルランニングの情報にあたると、コロラドの急峻な山々をともに駆けるトニー&ジョーの写真をまま目にする。ビックレースではお互いのペーサー、サポートクルーを務めあうなど、トレイル界きってのBUDDY(仲間、親友の意)と言ってもいい2人。聞けば住んでいる街も、年齢も、トレイルランニング歴もほぼ同じのようで……

ジョー・グラント(手前)とトニー・クルピチカ(奥)。風貌も似ていれば、年齢も一緒の二人。コロラド州ボルダー在住で、週に3、4回は一緒に走るという。

ジョー「じつは同い年じゃないよ。僕の方が年上なんだ」

トニー「たった2ヶ月ちょっとだけど(笑)。同じ30歳だよ。で、2人ともコロラド州のボールダーという街に住んでいて、大体10マイルくらいの距離」

ジョー「正確には、うちはボールダーの少し西で、標高もほんの少し高い。空気も薄い!えっと…トニーは“ビーチ”に住んでいるんだっけ?」

トニー「いやいや、クライミングやランニングが盛んなのはうちの周りだけどね」

--なるほど(笑)。じつは2人が一緒に山に行っている写真をよく目にします

ジョー「トニーが走るときは大体いつも一緒に走ってるよ(笑)。レーススケジュールや、怪我がちなトニー次第だけど、平均したら週に3,4日くらい。走らないにしても、ほぼ毎日会ってるかな」

トニー「…今のところ、ジョーの方が真面目でしっかりしているように聞こえてるかもしれないけど、じつはそうでもない。何だか知らないけど、ジョーは午前中をダラダラするのが好きみたいで、昼過ぎまで待たないとランニングに出かけられないんだよ!」

ジョー「そういうトニーは、物理学と哲学を専攻してたからか、数字に強くって、練習時間やタイムをしっかり記録しているのがマメというかなんというか……。僕は哲学のみの専攻だったから(笑)、そのときのフィーリングや気持ちを重視してるのかも。それと、2人で走ってると、どんどん先に行っちゃって、待ってくれない! ごくまれに僕の方が速いときは、ちゃんと待ってるんだけどね」

型破りなスタイルで知られるトニーだが、実際に会ってみると意外に内省的だ。

--本当に仲がいいですね(笑)。お互いをアスリートとして尊敬していますか?

ジョー「もちろん。トニーは目標に向かって突き進むパッションがとにかく半端じゃない。それが連日のハードトレーニングの原動力になってると思うし、だからこの世界のトップレベルで競えているんじゃないかな。もっとも、打ち込みすぎて今回みたいな怪我をしてしまうこともあるけれど」

トニー「ジョーの、100マイルやもっと長いレースを走るそのモチベーショには本当に凄い。アラスカの雪原の中を100マイル走る(注:ジョーは数週間前に同レースを大会新記録で優勝)なんて、自分にはまったく興味が沸かないよ(笑)。でも、長いレースほど気持ちが大事だし、ジョーはそんな強い気持ちを持っているんだ」

日本のトレイル、食、街を経験して--

この日はトレランショップ『Run boys! Run Girls!』主催、『BUFF』の協賛でグループランが行われた。日本のファンも彼らとのコミュニケーションを楽しんだ。

--日本の印象はどうですか? 例えば食べ物は

ジョー「日本食はどれも新鮮な食材を使ってるから、大好き! スシもよかったけど“ほうとう”のようなローカルフードもみんな美味しかった」

トニー「“熊肉ほうとう”にはたまげたよ! アメリカじゃ違法になるから、熊肉は食べられないからね。熊肉はガムっぽい食感だったけど(笑)、麺も野菜も美味しかった。あの日本流ピクルスはなんて言ったっけ……、そう、野沢菜! 日本食といえば今までアメリカ流のなんちゃってスシしか食べたことなかったけど、ハマりそうだよ」

ジョー「ところで、トイレに色んなボタンがあって難しくなかった?」

トニー「トートー・ウォームレット!(笑)。ウワサの“ウォシュレット”は清潔で快適だったけど、トイレの中にスリッパがあるのが不思議だったよね」

ジョー「あと、東京の街にはマスクしてる人が多くて、これも不思議だった」

トニー「花粉症の予防なんだって? アメリカではみんな錠剤を飲んでるだけだから」

彼らにとって遠く離れた、似て非なる文化圏の日本滞在はなかなかに刺激的だったよう。そんな2人のアスリートも、根っこの部分は「ただ走ることが好きなだけ」の、気のいい“あんちゃん”だった。

ジョー「UTMFというレースで、富士山を一周できることには本当にワクワクしているよ。(注:男子13位タイで見事フィニッシュ)日本のみんな、とにかく外に出て、自然を楽しもう!」

トニー「レースでも普段のランでも、辛い局面が訪れることもあるけど、進み続ければ必ず目的地にたどりつく。それがこのスポーツのいいところさ。ネバーギブアップ!」

(左)トニー・クルピチカ/Tony Krupicka
1983年生まれ。コロラド州ボールダー在住。2010年ウエスタンステイツ100マイル総合2位、2007年、08年レッドヴィル100マイルを連覇。
WEB:http://www.antonkrupicka.com

(右)ジョー・グラント/Joe Grant
1983年生まれ。コロラド州ボールダー在住。2012年ハードロック100マイル総合2位、2014年ホワイトマウンテン100マイル優勝。
WEB:http://alpine-works.com