(写真 松本昇大 / 文 倉石綾子)
2003年のプロ入り以来、長きに渡って全日本年間ランキング上位を死守する添田豪選手。強烈なサーブ&フォアを武器に、添田選手を猛追する内山靖崇選手。そんな二人が12月のある日、アディダスが主催するテニスイベントに出場。エキシビションマッチの前にそれぞれのトレーニング論を語り合った。早速、日本を代表するテニスプレーヤーによる対談をお届けしよう。
——まずはお二人がトレーニングで重視していることを教えてください。現在はどのようなトレーニングに取り組んでいますか?
添田 走り込みで心肺機能を高め、筋トレで筋力アップ。フィジカル全般を仕上げているところ。昔はがむしゃらにトレーニングをしていたけれど、年齢的にはベテランと言われる域に達したこともあって、質の高い練習を心がけています。
内山 テニスの場合は他の競技と比べるとシーズンが長いから、まとまったトレーニングの時間を取れないという悩みがありますよね。ツアーの合間にどれだけのトレーニングができるから、ハードな日程をこなす中でいかにフィジカルを落とさずコンディションを保つか。その辺りのバランスに苦労します。
添田 そういう意味で質の高い練習、つまりいかに集中力を保ったまま取り組めるかというのがポイントになると思う。トレーニングのメソッドも日々進化しているし、いろいろなアスリートのトレーニング論を聞くのも参考になるよね。
内山 そうですね、ツアーで一緒になった選手から有益な情報を得ることも。あとはトレーナーと相談しながら、負荷の高い走り込みや体幹トレで弱いところを地道に強化しています。
添田 僕は強化に加えて回復を意識していますね。トレーニング後のクールダウンや関節をやわらかくするトレーニングは筋トレと同じくらい重要だから。
内山 添田さんは僕より8歳年上で、僕がプロ入りする前からトップレベルを守っている。おまけにその間、大きな怪我もしていないですよね?長年、トップを維持しつつ身体のキレも保ち続けるってすごいこと。その秘訣は、そうした日頃の積み重ねなんですよね、きっと。
——試合でベストのパフォーマンスを引き出すためにトレーニングで心がけているのはどんなことですか?
添田 勝負において最大の力を発揮するというのはつまり、日々のトレーニングの効果を持続させ、そのピークを試合に持っていくということです。年間を通して心がけているのは、自分のギリギリを見極めながら持続できるメニューを自分で組むこと。これは自分の身体と向き合うことになるのだけれど、大会前で身体が少し鈍いなというときはキレのあるトレーニングを増やす工夫をしたり、試合に勝って、疲れているけれどキレがあるなというときはトレーニングを増やさないようにしたり。
内山 そうですね、僕も試合から逆算してトレーニングを行っています。本番まで3、4日以上開くようなら強度高めに行いますが、試合が近づくにつれて強度を落として。その時々のコンディションもありますが、試合の日に自分のベストを持っていけるよう心がけています。
添田 内山くんは練習で追い込んだ後も、さらにもう一歩、限界までやっているな、という印象。僕は疲労が溜まってくるとついつい練習を軽めにしちゃうので、えらいなと思いますよ。
——アスリートにとっての「トレーニング」ってどんなものなのでしょう?普段、どんな気持ちでトレーニングに向き合っていますか?
添田 僕たちはテニスプレーヤーなので、あくまでもテニスが本分。でもトレーニングって、テニスの練習と同じくらい重要だと思うんですよ。それはどのスポーツにおいても言えること。1日トレーニングを怠れば確実にフィジカルは落ちますし、フィジカルをあげるのは時間がかかるくせに落ちるスピードはすさまじく速い。つまりアスリートの本懐は、いかに「フィジカルを落とさずキープするか」に尽きると思うんです。10代の頃はまだそこまでトレーニングに意識が向いていなくて、漫然とこなしていました。意識が芽生えたのは18歳くらいから。逆に20代になると、やらないと落ちる!という危機感を抱くようになったほど。
内山 僕はテニスの練習とトレーニング、それぞれに向ける意識はそこまで変わらないんですが、トレーニングって効果を体感しづらいとは思います。おまけに、テニスに必要とされるのは地味なトレーニングが多いですし。ただ、トレーニングなしに成功はありえないというのも確かなこと。トレーニングで強いフィジカルを手に入れれば連戦に耐えられるタフさも身につく。それは選手としての息の長さにも通じると思うんです。
添田 トレーニングがハードな分、それ以外の負荷はなるべく省きたいというのが本音。だからウエアやギア選びも重要ですね。
内山 ウエアだったら軽くて着心地がいい、肌触りがいいもの。とにかく余計なストレスにならないものがいいです。それから冬は暖かいインナーも重要。怪我の防止になりますから。
添田 それに加えて動きを妨げないもの。身体にフィットして、でも引っかからない。テニスはひねったり肩周りを動かしたり、意外に動きが大きいんです。とにかくスムーズに動けるものがいいな。
内山 あとは身につけた時にモチベーションになってくれるようなデザインも。やっぱり見た目の良さは大事ですよ。
——最後に2017年の目標を教えてください。
添田 2016年後半は身体にキレがあって調子も良かったんです。ですから、その状態を維持するために何をやってきたのか、そこに至るまでのプロセスを振り返りながら緻密にトレーニングやコンディショニングの内容を詰めていきたいですね。目標はもちろん、2016年の成績を超えること。自分の限界値をさらに高めてレベルを上げていけるよう、日々チャレンジしていきたいと思っています。
内山 目標は、まずはグランドスラム本戦。そのために世界ランクを上げていかないと。まずは何戦も戦い続けられる強いフィジカルとメンタルが必要だなと思っています。トレーニング、そして練習。積み重ねが自分を強くしてくれる、そういう実感を伴う毎日が自信につながると信じています。