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自転車ロードレースのシーズン初め、春の季節に世界中のファンたちが熱狂的になるのはクラシックと呼ばれるワンデーレース。その中でも100年以上の歴史を誇る最も格調の高いレースはモニュメントと呼ばれ、プロ選手がこのタイトルを獲れば生涯の勲章となる。モニュメントに含まれる2つのレース、「ロンド・ファン・フラーンデレン」「パリ〜ルーべ」を見るため現地へと足を運び、この地の独特な自転車文化を肌で感じてきた。
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ロンド・ファン・フラーンデレンは『クラシックの王様』、パリ〜ルーべは『クラシックの女王』と呼ばれる。そんな名が付くのはどちらのレースもロードバイクで走るのが非常に困難な「パヴェ」(100年以上前からずっと使われている石畳)の区間が多く盛り込まれているから。パヴェの石の塊は大きく、間隔や段差もいびつでとにかくバイクが跳ねるしその衝撃からくる身体への負担は尋常ではない。それに加えて少しでも濡れようものなら容赦無く滑り落車を呼ぶ。このように難易度の高いセクションなのでレースの大きな展開やドラマはここで起きる。道幅もとても狭く、選手の息遣いが聞こえるほど近い距離を走るので、観客が最も多く集まる観戦スポットとなる。

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4月1日、ロンド・ファン・フラーンデレン(ベルギー)

まずはベルギーのフランドル地方で4月1日に開催されたロンド・ファン・フラーンデレンへと向かった。イースターの休日ともあって朝から街はお祭り騒ぎ。ベルギーでは自転車レース観戦にはビールとフリッツ(フライドポテト)が欠かせない。アントワープからスタートしたレースが目の前へ到着するまでには時間があるので、中継を見ながらとにかくビールとフリッツで仕上げて高めていく。

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この日の最初のパヴェセクションをプロトンが通過。沿道にはびっしりと観客たちが並ぶ。レースはまだまだ序盤だが、選手の気迫や上がる歓声でその迫力は凄い! 子ども達も大人に負けず好きな選手が通れば全力で応援する。

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ロンド・ファン・フラーンデレンはパヴェの激坂が20ヶ所ほど組み込まれるのが特徴。アイコニックな坂がいくつかあるが、その中で最も人気のある、頂上の教会へと向かう坂「ミュール・カペルミュール」へ向かった。大人気のスポットなだけあってすでにものすごい数の観客。そしてビールとフリッツで仕上がっているのでレースが到着するまでまだ30分以上もあるのにすでに大騒ぎだ。

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コースチェックをするバイクや、目立とうとして坂を登ってくるシティーバイクの若者がその前を通ろうものならレースが来たのではないかと言わんばかりの大歓声。

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そしてこの熱狂の渦の中を選手たちが通過する。

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地が揺れんばかりの歓声に圧倒される。トップで通過する選手への大きな歓声はもちろんだが、遅れた選手への応援の方が皆熱くなるのだ。それは250km以上の距離をパヴェを含め走ることがどれだけタフかを、100年以上も続いてきたこの地のファンは肌で知っているからなのだと思う。このレースを走る全ての選手をリスペクトしているのだと感じた。

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4月8日、パリ〜ルーベ(フランス)

翌週はパリ〜ルーべへと向かった。こちらはフランス北部で行われる。パヴェは29箇所のセクターとして組み込まれており、ロンド・ファン・フラーンデレンと異なり平坦であるものの激しさはこちらの方が圧倒的に上。前の週のロンド・ファン・フラーンデレンの開催地とほど近い場所だけど国が違えば観戦スタイルが違うのも面白い。こっちはビールではなく、早めにコースに到着したら仲間とラジオを聴きながらシャンパンやワインで乾杯して待つ。

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レースの待ち方は人それぞれ。

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まず最初のパヴェセクターであるトロワビルで待ち構えた。観客の熱狂具合はベルギーもフランスも変わらず圧倒される。コースにフェンスなどがほとんどなく、選手との近さはこちらの方が上でみんなより近くで見たいのでとにかく寄る(観客のジャケットが選手に引っかかって落車するという事件が過去にあったほど)。

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次に向かったのは伝説的なパヴェセクターであるアランベール。ロードレースを知っている人ならば一度は見たことのある場所だと思う。最も難易度の高い5つ星のセクター、僕も前日にプロと同じコースを走る市民レースに参加したがこのパヴェは段違いにハードだ。道の激しさはもちろん苔と地味な登り基調でとにかく進まないしまっすぐ走るのが困難なのだ。余裕を持って到着したけれどもうすでに沿道にはものすごい数の観客がずらりと並ぶ。

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モニュメント、特にこのパリ〜ルーべはプロ選手にとっても特別なもの。どんなにトップから遅れてもメカトラブルやパンクがあっても完走を目指す。これは前週のロンド・ファン・フラーンデレンと同じで観客たちは遅れてしまった選手にこそ最大の声援を送る。このレースを走ることの凄さ、選手へのリスペクトはこの地にずっと根付いているからなのだと思う。

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この日の最後の観戦ポイントでレースでは最後の5つ星セクターのカルフール・ド・ラルブルへ。色々と観戦ポイントを移動して気がついたのは、フランスのファンたちは車でレースを先回りして観戦する人が多く、行く先々で同じ人に会うこともしばしば。この辺もベルギーとちょっと違うのが面白い。

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残り50kmでアタックしたペテル・サガンがシルヴァン・ディリエを連れて逃げているという情報もあり、この最後の難所の観客数はこの日一番だった。

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そして砂埃で顔が汚れながらもギラついた鋭い目をしたペテル・サガンが目の前を物凄いスピードで通り抜ける。歓声、向けられる無数のiPhone、拳、観客の熱狂もこれが最高潮でこれが本場のロードレースなのかと鳥肌が立った。これを見て不思議な感覚もあって「あ、サガン勝ったな」と思い、そして実際に彼が勝ったのだ。

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現場で生で触れてみてこれらのレースは何か特別で神聖なものに感じた。待つのは長く、来たら目の前を一瞬にして通り過ぎてしまうけど中継では決して映らない空気や熱量、雰囲気が間違いなくあるし毎年これを楽しみにして足を運ぶのは納得だ。またこの100年以上続く祭に参加しに来ようと心に誓った。

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Nobuhiko Tanabe aka nb

約15年前に自転車にどっぷりとハマりどんどんと自転車カルチャーの奥深くへと入り込んでいく。東京のバイクショップBlue Lugで約10年間働き現在はフォトグラファーとして活動中。自身もレーサーとして走るシクロクロスを中心に、世界中の自転車カルチャーの濃い部分をフォーカスした写真を撮る。 Instagram @nobuhikotanabe HP nobuhikotanabe.com/