2010年にスイスで生まれたスポーツブランド、On(オン)。ユニークでスタイリッシュなデザイン、世界特許技術のCloudTecシステムを軸としたシューズの高い機能性が支持され、現在では60か国を超える国で700万人以上のランナーに愛される存在となっている。

そのOnから今年6月に登場したCloudboom Echo(クラウドブーム エコー)は、エリートランナーに向けて開発されたレーシングシューズ。従来のシューズとは何が違い、どんなランナーに適しているのか。フルマラソンで日本歴代9位の記録を持ち、ハーフマラソンの日本記録保持者でもある小椋裕介選手に、そのパフォーマンスを検証してもらった。

インプレッション取材の前から、すでにCloudboom Echoをトレーニングで活用し、ある程度の距離を走りこんでいた小椋選手。実際、どのような練習の際にCloudboom Echoをチョイスしているのだろうか。

「ある程度のスピードを出す練習、僕の中の基準ではキロ3分30秒が最低ラインで、それ以上のペースでよりレースペースに近づけば近づくほど、このシューズの良さを感じられるなと思っています」

キロ3分30秒ペースでフルマラソンを走れば、2時間半を切ることになる。つまり、エリートランナーの要求を満たしたシューズだと言えるだろう。とはいえ、それよりも遅いペースで走る市民ランナーに適していないわけではないと小椋選手。
「これは他社のカーボンプレートを搭載した厚底シューズにも言えることですが、ゆっくりとしたペースで走ろうとすると推進方向ではなく、上に跳ねてしまうんですよね。キロ3分30秒というのはあくまで僕の感覚で、伝えたいのはレースペースやそれに近いペースで走るトレーニングのときに適したシューズだということです。キロ5分ペースだとしても、それがそのランナーのレースペースやスピード練習のペースであれば、シューズの恩恵を受けられるのではないかと思います」

小椋選手自身、練習内容によってシューズを使い分けている。
「速いスピードで走る必要がある練習、心肺を追い込むことを目的とした練習では、Cloudboom Echoを活用しますが、距離走のような走るための筋力強化を目的とする場合は、推進力よりもクッション性と安定性を重視したベーシックなモデルを選びます。Cloudboom Echoのようなシューズだと脚が楽をしてしまうので、脚に十分な負荷をかけようとすると距離が延びてしまうんです(笑)」

Onは昨年、カーボンファイバーを配合したスピードボードを初めて搭載したCloudboom(クラウドブーム)というシューズをリリースしている。それと比較すると、どのような進化を遂げているのだろうか。
「まったく違うシューズと言っていいぐらい進化をしていますね。ミッドソールの厚さが増して、ソール全体の構造も変わったことで、かなりクッション性が高くなり、圧倒的に走りやすくなりました。前のモデルは硬さを感じましたが、それもありませんし、とても良いシューズだなと思います。アッパーも薄くて軽く、フィット感が良いので、とても快適です」


ミッドソールに採用されているのは軽量性と反発性に優れたHelion(ヘリオン)という独自素材。Cloudboomに使用されているHelionよりもソフトな配合になっているのもポイントだろう。CloudTecシステムはミッドフットから踵にかけて2層構造になっている。さらに前足部にも高いクッション性を持たせ、フォアフットで着地するランナーにも対応している。
スピードボードも見直され、つま先部が競り上がるように湾曲した形状になった。シューズを手に持ち、屈曲させてみるとすぐにわかるが、このスピードボードはかなりしなる。ソール構造の大幅なアップデートにより、優れたクッション性とパワフルな推進力を両立しているのだ。

「まだCloudboom Echoを完全に使いこなせてはいない」という小椋選手だが、そのポテンシャルを高く評価している。
「Cloudboom Echo特有の転がっていく感じを上手く使いこなせれば、よりスピードが出せるのではないかと思っています。僕はどちらかというと足を置くような接地をするのですが、少し蹴るような走りをするランナーの方はものすごくマッチするかもしれません。グリップ力が高く、路面をしっかりと噛んでくれるので、蹴ったときに力が逃げないんです。厚底シューズのフワフワする感覚や、沈んでブレる感じがしっくりこないという人にも、ぜひ試してもらいたいですね。現時点でも10km、ハーフといった距離のロードレースで使うのは面白そうだなと感じています」

小椋選手は、マラソンこそが自分が生きる道だと捉えている。2020年の3月の東京マラソンで2時間7分23秒、2021年のびわ湖毎日マラソンで2時間6分51秒をマーク。着実に記録を伸ばしているが、まだまだやるべきことが残っているという。
「五輪競技でいえば、5000m、10000mもありますが、自分が勝負できるのはマラソンだろうと思っています。去年、今年と一定の成果が出ているので、進んでいる道は間違っていないんだなとは思いますが、体作りもまだ道半ばです。肉体改造もフォーム作りも一朝一夕でできるものではありません。マラソンは、地道に積み上げることができた選手が一番強い競技だと思うので、妥協することなく日々の練習に取り組んでいきたいですね」

目指すのは、五輪、世界選手権といった舞台に日本代表選手として出場すること。現在は、2022年7月に開催予定の世界選手権の選考レースの1つになっている3月の東京マラソンに標準を合わせて、トレーニングを積んでいる。
「日本代表として世界の舞台に立つことで見える景色があると思うんです。 MGCを走ることは叶わず東京五輪には間に合いませんでしたが、今は五輪や世界選手権を目指すと言える位置にいると思いますし、自信もあります。とはいえ、勝つための秘策や裏技があるわけではありません。絶対に負けないと思えるだけのものを積み重ねて、スタートラインに立ちたいなと思っています」
オン・ジャパン PR&イベントリーダーの前原靖子さんにCloudboom Echoの最新テクノロジーを訊いた。アスリートからのフィードバックを取り入れ開発されたシューズには、より速く走るための革新的な技術が詰め込まれている。
Onの世界特許技術であるソール構造、CloudTecシステムを2層に配置したことで、より高い衝撃吸収性とレスポンスを実現。スムーズな体重移動と足運びをサポートしてくれる。
左:ミッドソールには軽量性と反発性に優れたOnの独自素材、Helionを採用。Cloudboom Echo用に配合がアレンジされており、Cloudboomに使われていたものと比較すると、ソフトで軽くなっている。
右:カーボンファイバーを配合したスピードボードは、前足部が大きくカーブするスプーンのような形状に。エネルギーリターン効率が高まり、爆発的なスピードを生み出すことが可能になった。東京五輪で、OnのアスリートたちがフルマラソンやトライアスロンでCloudboom Echoを活用していたことからも、ポテンシャルの高さが窺える。
左:アッパーのメッシュ素材は、100%リサイクル素材が使われており、通気性と軽量性とストレッチ性にも優れている。ラスト(足型)も見直されており、フィット感、快適性も高まった。
右:アウトソールのパターンも改良されている。濡れた路面でもしっかりとグリップし、カーブでも確実に路面を捉えてくれるので、余計なスピードの上げ下げを抑えられる。