運動パフォーマンスの向上には、身体のファンクション=機能を高めることが重要です。そして、そのためにはまず自身の運動能力のファンダメンタル=基礎、つまり底辺を広げることから始める必要があります。今回登場するトレーナーの吉田輝幸さんはパフォーマンス・スペシャリストとして、様々なアスリートから日本を代表するパフォーマンス・グループEXILEまで幅広いプロフェッショナルたちを、専門スタッフによるチーム体制でサポートしています。そのメソッドとそこに至る経歴を、吉田さんに聞きました。
2002年、アメリカのトレーニングに衝撃を受ける
学生時代にお世話になっていたトレーニング・ジムで10年ぐらい住み込みで修行して、その間にアメリカに行って勉強させてもらったんです。そこで当時の最新トレーニング方法を目の当たりにして衝撃を受けたんですね。
最初に行ったのが2002年。アリゾナのアスリーツ・パフォーマンスという施設でした。
当時、日本はようやくトレーニングに火がついてきたころで、筋肉をつける=パワーが上がる=パフォーマンスもアップ! みたいな、ビルダー的な発想が主流だったんです。
そんな時にアメリカの最先端のトレーニングセンターに行ったら、まず筋トレのマシーンがなかったんです。
端のほうに少しだけスクワット用の器具などが置いてあるだけで、後はだだっ広いフリーのスペース。「えー!! ここで何するの!?」ってビックリしましたよ。
キーワードは「ファンダメンタル」と「ファンクショナル」
そこでの講義で良く出たのが、「ファンダメンタル(Fundamental)」と「ファンクショナル(Functional)」という言葉でした。
「Fundamental」は「基礎的」、「Functional」は「機能的」。 人が身体を使ってベストのパフォーマンスをするためには、正しい動きができることが底辺に必要なんです。100kgの重いウェイトを持ち上げられることよりも、まず正しい可動域で動けたり、正しく動けるかだったりがベースに必要で、そこに筋力だったり持久力だったりが積み重なることが大事だと。
いまでこそ日本のジムでもファンクショナル・ゾーンとかって言いますが、当時は聞いたこともない概念だったんです。でも、アスリーツ・パフォーマンスでは、機能的に身体を使うことがパフォーマンスの大前提、だと唱えていたんですね。
最初は「なるほどね」ぐらいの気持ちだったんですが、僕が勉強した3ヶ月間で、彼らのメソッドでトレーニングした選手のパフォーマンスがどんどん向上するのを目のあたりにして、これはスゴい!と実感しました。
チームでの対応で選手を多角的にサポートする
でも日本に帰ってきてからそれを実践しようとしてもなかなか理解してもらえなくて、相変わらずパワー、パワー(苦笑)。最終的に5~6年前に独立しました。でも、2~3年すると今度は僕一人での選手サポートに限界を感じるようになったんです。
結局、チームでやらないとすべてを管理できないんですね。
チームっていうのは、栄養士がいて、理学療法士がいて、トレーナーーー僕らはパフォーマンス・スペシャリストって言うんですけど、パワーをつけたり、スタミナをつけたりする役――がいる。そういうチームが、多方面から選手をサポートしてパフォーマンスを高めていく、と。 それでじゃあ会社を作ってチームとして、アスリートやプロフェッショナルなパフォーマーから一般の方まで、多角的にサポートできるようなサービスを提供しようと思ったんです。
ファンダメンタル=底辺を広げるのが仕事
ウチではまず、ファンクショナル・テストを受けてもらいます。競技特性やそれぞれの個別特性をしっかり確認した上で指導を始めるんです。僕らの仕事はその人のファンダメンタル、つまり運動能力の"底辺"をいかに広げるか、ってことなんですね。
底辺が広ければ広いほど、その上に色々なモノーー心技体っていう言い方をしますけど、スキルだったりメンタルだったりとかを乗せられる。
たとえばお客さんの希望が「マラソンでもっと速くなりたい」だったとすれば、そのテストと同時に、理学療法士が身体の動きをチェックしたり、栄養士が3日間の食事を分析して何が足りなくて何が多いか、あるいはサプリメントをどのタイミングで摂取すべきかなど、それぞれの立場からデータを元に分析していって、どういうサポートをするかを決めていきます。
「教育」「啓蒙」をして知識をつけてもらう
僕らスタッフは常にクライアントごとのバインダーを持っていて、そこには解剖図であったり様々なデータが入ってるんですね。それは結局、一生サポートを続けることはできないので、クライアント自身に勉強してもらう必要があるからなんです。
だから、みんなトレーナーじゃないかって思うぐらい、筋肉とか身体の部位に詳しくなります(笑)。知識を付けてもらえば、僕らがサポートできなくなっても自分で対応することができるようになりますよね。そういう意味では、僕らの場合は指導というより、教育とか啓蒙というほうが正確かもしれません。
まずは「正しい姿勢」から
ただそれは一般の方にはなかなかできないことだと思うので、たとえば最近DVDをリリースしたんですが、こういうモノを通して、多くの方のファンダメンタルを広げるサポートになればと思ってます。
本来は人それぞれの身体の個別特性があるので、一概には言えないんですが、身体能力を高めるために大切なことの一つに「正しい姿勢」があります。DVDではそこに重点を置いたコアトレーニング・メニューを用意しました。その一部を今回紹介しますので、皆さんぜひ実践してみて下さい。
サイド・ブリッジ+ヒップ・フレクション
身体の安定性(スタビリティ)を高めるトレーニングです。10回を1セットで行います。 やり方:身体を一直線になるようにします。(頭から足先まで)脊椎を安定させたまま、股関節を屈曲、進展させます。
フォワード・ランジ
股関節の可動性(モビリティ)を高めるトレーニングです。6~10回を1セットで行います。 やり方:正しい姿勢を意識します。まず、一歩足を前に大きく出します。後ろ足の膝を伸ばすようにします。背中は丸まらない様に。次に腰を高くし、腿の裏を伸ばします。最後はバランスを取って元の姿勢に戻ります。
(撮影 松田正臣/文 坂野晴彦)