(文 倉石綾子/ 写真 松田正臣/ 動画 TOTAL TIME 01:14 記事最下段 )
「ロゲイン」あるいは「ロゲイニング」と呼ばれる競技をご存知でしょうか?
トレイルランナーやアドベンチャーレーサーらを虜にしているロゲイニングは、オーストラリア発祥の大規模スコアオリエンテーリングのこと。2〜5名の参加者で構成されたチームが競技地図とコンパスを使ってフィールド内に設置されたチェックポイントを回り、それぞれに付与された点数を獲得。制限時間内に獲得できた点数を競います。
オリエンテーリングと異なるのはチェックポイントを回る順番が決められていないこと、そしてチェックポイントの数が多く、対象となるフィールドが広大であること。優勝チームでさえ全てのポイントを回りきることは到底不可能だとか。
その点でオリエンテーリングより戦略的と言われており、競技者には野山を駆け回る体力に加え地図の読解力、グループ内のチームワークやコミュニケーション力、自然への深い理解が求められるのです。
オリエンテーリング界の第一人者にして読図、オリエンテーリング関連の著書を多数発表している村越真さん(静岡大学教授)によれば、「ロゲイニングの魅力は1分1秒を競って走るタフなロゲイナーから、ハイキング感覚で参加するファミリーまで、全参加者が同一のコースでそれぞれの楽しみ方を見つけられるところ」だそう。世界大会などで適用されるフルロゲイニングのルールでは制限時間は24時間に定められていますが、ハーフ(12時間)やクオーター(6時間)のレースも多く、国内では初心者向けに制限時間2、3時間という短縮版の大会も開催されています。
まずは実践、いざ朝霧高原ロゲイニングへ
先日、朝霧高原で行われた「朝霧高原ロゲイニング」に、4名から成るonyourmarkチームも初参戦しました。今年で4年目を迎えるこの大会は、前述の村越さんがイベントディレクターを、コースディレクターをオリエンテーリング日本代表の小泉成行さんが務めています。国道139号線を境に西は古い歴史を偲ばせる、情緒あふれる里山エリア。対して東側は富士山の裾野の広大な森がフィールド。地図とコンパスだけを頼りに道なき森を進むという、アウトドアの醍醐味が満喫できるエリアです。常連ロゲイナー曰く「西と東で趣きの異なるフィールドを一度に楽しめる、それがこの大会の魅力」だとか。
開始10分前に競技地図が支給されると、いよいよ作戦会議がスタート。里山から森林まで、二つのエリアの要所要所に高得点のポイントが設置されています。高得点のポイントは獲りづらく、ポイントが低ければ獲りやすい。それをいかに効率よく攻めるのか、スタートからゴールまでどういうルートを選ぶのか。ルートの組み立てが勝敗を左右するゆえ、各チームは真剣に作戦を練ります。
onyourmarkチームでは得点の取りやすそうな里山エリアをあえて捨て、森林エリアを林道沿いに順に攻め、次第に山の中へ入って行くという作戦に。とはいえこれはあくまでも机上の空論。山中でのナビゲーション力、標高差を攻める体力ともに不安のあることから、まずは1時間後にどこまで来られたかを確認、その時点で以降のルートを再設定することとしました。
コンパスと地図を片手に、森の中をさまよう
午前9時、競技スタート。制限時間の5時間で全35カ所、計630点のチェックポイントのうちいくつを廻れるのか。制限時間を過ぎると1分につき10点ずつ減点されてしまうので、何が何でも時間以内にゴールしなくてはなりません。
キャメルバックを背負った上級ロゲイナーはスタートと同時に全力疾走。一方で、家族連れはのんびりと出発します。
林道沿いのポイントから順番に廻ったら、次はいよいよ森の中へ。コンパスを設定し、道なき木立の中を進みます。林道の分岐からまっすぐ森に分け入るポイントまでは予定通り。運良く地図の読み通りにポイントを見つけたときは、まるで数学の難問を解いたあとのような爽快感を味わえます。
その後、直線距離にして約3キロ先、標高差100メートルの山中のポイントへ向かう過程で地図上の目標物を見失い、イバラに行く手を阻まれ、1時間近くのロス。
山の中で自分がどこにいるかを見失うなんて体験、なかなかできるものではありません。団体競技、そして明るい時間帯であることに感謝しつつ、心おきなく迷います。
その後、地図から読み取れる沢尾根を目標物とすることに思い至りますが、時すでに遅し。スタートから3時間が経過し、もはや復路のルートを探り始めなくてはなりません。その後、林道から沢を下って山中にある高得点のポイントを獲得してようやく舗道に出ましたが、残り時間は1時間強。ゴールまでの緩やかな坂道をジョギングするはめに。チーム内の走力はある程度平均化する必要性を痛感したのでした。
結局8つのチェックポイントを廻ってスタートから4時間53分後にゴール。得点123点、踏破距離19.8kmは村越さん曰く、「ファミリーチームの平均得点」。高得点を狙える里山のポイントを捨て山にチャレンジしたのは、「得点を狙うゲーム性より山での経験値を重視したい」というもくろみゆえでしたが、走力とナビゲーション力を合わせて初めて「戦略」と言えるのだと、実感させられた結果となりました。
「ロゲイニングの帝王」の圧倒的な走り
全98チームの頂点に立ったのは、「ロゲイニングの帝王」こと柳下大さんとその相棒の松本高幸さんのチーム。スタート地点から半時計周りで里山を廻り主立ったポイントをゲット、後半は山側を攻め「狙っていたポイントは全てミスなく獲りにいけました」。結果、1分の遅刻ながら50kmを走り抜け566点という驚異のハイスコアを叩きだしました。ちなみにルートは「競技地図上のポイントの散らばりを見て、一筆書きで廻りやすいルートを選ぶ」そう。
9年前、日本で最初に開催されたロゲイニング大会から参加している柳下さんは世界選手権に二度、出場経験もあるという筋金入りのロゲイナー。月間平均400キロの走り込みと年間5〜10戦の大会に出場して養ったナビゲーション力で、今大会でも圧倒的な力を見せてくれました。
というわけで山好き、ラン好き、ウルトラマラソン挑戦中、あるいはただのハイキング好きにもおすすめのロゲイニング。ランナー、ヨギー、トレッカーを寄せ集めたonyourmarkチームの結果はイマイチでしたが、パズルを解いていくような解放感はクセになること請け合い。
年内は香川、所沢、横須賀での大会が予定されています。今から初めても「日本代表」になれるかもしれない、そんな可能性をはらんでいるものロゲイニングの魅力なのです。