fbpx

(文 井上英樹)
人はどれほど限界に挑戦できるのか。水泳の北島康介選手は、そんな人類の可能性を見せてくれる希有なアスリートの1人だ。アメリカ合衆国アリゾナ州北部に位置するフラッグスタッフで高地トレーニングを続ける北島選手に、トレーニングや水泳に対する思いを聞いた。
 

sample alt

アリゾナ州フラッグスタッフの標高は2000メートルを超える。「体に負荷のかかる高地トレーニングは生きるか死ぬか。どれだけ可能性があるかトライしたい」と、4月に行われる日本選手権への思いを熱く語る。日本選手権で2位以内に入れば、5大会連続となるリオデジャネイロオリンピックへの出場も見えてくる。「これまでの水泳人生を振りかえると、なにが印象に残っているか」と問うと、北島選手は栄光よりもトレーニングのつらさをあげた。
 

sample alt
  • sample alt
  • sample alt

「振り返ってみると、オリンピックで金メダルを目指している時は、毎日の練習が本当にきつかった。僕たちアスリートは、それを乗り越えていく。だけど、なんでこんなにきつい練習をやっているんだろう?って、やっぱり思うんですよね。練習は華やかな世界とはまったく別の場所。単調ですし、正直言って『本当に意味あるのかな……』と思うことだってある。だけど、たくさんの人が自分のために動いてくれている。手を抜くことは決してできない。それでも、練習での感覚と試合結果が一致している時はいいんですよ。一致しない時は、……本当につらいですよね」

そのつらさをどう克服していくのだろうかと質問を投げかけると、「克服はしないんです」と、意外な答えが返ってきた。

トップアスリートとして、強いメンタルをもつために

「無理に克服しても、またそこにつらさが乗っかってくる。だから僕はつらさを受け入れて、『つらい!』『きつい!』と声に出す。それでも、本当につらい時は1度休んで『なんのためにこの練習をやっているんだろう』と、きちんと考える。本当につらすぎると、逃げ出してしまう。だから、時には逃げないための休みも必要だと思います。……でも、休ませてくれないのが水泳の世界なんですけどね」

sample alt

コーチ、スタッフ、家族、仲間、スポンサー。今や北島選手を多くの人が支えている。北島選手は多くの人々の期待をバネに世界で活躍をしてきた。水泳で世界を目指すようになったのも、中学生時代のコーチの『オリンピックに行きたいか?』という言葉だった。

「オリンピックの舞台を見せてくれたのがコーチの言葉でした。その時はコーチの言っている意味がわからなくて、『オリンピックって、……なにを言っているんだろう』って思ったんですよ(笑)。だけど、そう思い、僕の背中を押してくれるのはコーチだけではなかった。家族や仲間、応援してくれる人たちが自分に期待してくれた。自分がオリンピックに出場して活躍できたのは努力だけではない。そういう人たちの応援や期待のおかげだと思います。どうしても、人は自分のキャパシティを知らないうちに決めてしまう。期待は、自分が考えるキャパシティ以上のものを与えてくれたような気がしますね」

sample alt

泳ぐことを、水泳界全体の底上げとして考える、選手だけにはとらわれない活動の幅
今後、北島選手は自身の泳ぎだけではなく、水泳界全体の底上げを考えている。その1つが、大人から子供までスポーツ科学的な練習プログラムを取り入れたスイミングスクールKITAJIMAQUATICSだ。
「水泳は生涯スポーツです。KITAJIMAQUATICSでは、幅広い世代に取り組んでもらえるように開発した練習プログラムを提供しています。特に子どもたちには水泳に興味を持って続けて、体力をアップしてほしいですね。そこから裾野が広がって、日本から多くのメダリストが生まれたら最高。また、KITAJIMAQUATICSではオープンウォーターのレッスンもしています。自然の中で泳ぐ楽しさを知ってもらいたいんです。海で泳ぐって、プールとはまた違った開放感を味わえるのと同時に、潮流や足がつかないといった、自分ではコントロールができない“自然”という環境の中で泳ぐ経験も得られる。そういった意味でオープンウォーターでは泳力や泳ぎ方がプールとは全然違います。海で泳ぎ忍耐力や思考回路を鍛える事で、水泳をより楽しく、さらにライフスタイルを考えさせられるスポーツになると思います」

北島選手自身はどんなトレーニングや食事法を取り入れているのだろうか。
「食事法は取り入れていません。僕は食べたいものを食べます。それは、『体が欲している』んだから、食べたいものを適度な量を食べるのがいいんじゃないかな。

水中以外では体の使い方や、水の中での連動性を考えながらトレーニングをしています。主にファンクショナルトレーニング(ファンクショナル=機能的。スポーツや運動の動きに則した形で行うトレーニング法。筋力や動作の協調性を高めるトレーニング)を行っています。アメリカにあるリハビリやスポーツパフォーマンス向上のために必要な道具、知識、技術を提供する『PERFORM BETTER』を、『PERFORM BETTER JAPAN』として日本で立ち上げます。色々なジャンルのトレーニングや知識を多くの方に幅広く伝えていく仕事もしていこうと考えています」

sample alt

北島 康介(きたじま こうすけ)日本コカ・コーラ所属
1982年生まれ。5歳から水泳を始める。2000年シドニーオリンピックに初出場し、4位入賞。2004年アテネオリンピックでは100m・200m平泳ぎで金メダルを獲得。
2008年北京オリンピックでも両種目で金メダルを獲得し、競泳での日本人初となる2種目2連覇を達成。
2010年にパンパシ2冠、2011年世界水泳出場を経て2012年、4大会連続出場となったロンドンオリンピックで4x100mメドレーリレーにて銀メダルを獲得。
また競技活動の傍ら、2011年には子供から大人までたくさんの人達に水泳を好きになってもらいたいとの想いからスイミングスクール「KITAJIMAQUATICS」を設立。競技者としてだけでなく、水泳の普及活動、アパレルプロデュースまでを積極的に行っている。

スイマーをかっこよくしたい、かっこよくすることで水泳の魅力を多くの人に伝えたい

sample alt
  • sample alt
  • sample alt

北島選手の活躍はスクールや指導者育成に留まらない。スイミングをコアとしたブランド『アリーナ』にも、プロデューサーとして参画するほど深く関わっている。
「僕がプロデュースしているのはアリーナの『+K(プラスケイ) arena by KOSUKE KITAJIMA』というラインです。スイマーっていつも、だぼっとしたジャージのイメージってありません? 良い体型を持っているのに、ファッションに生かしきれていない人が多い。実際、何を着ていいのかわからないという声もあったので、今の時代のスイマーに合ったウェアがあっていいのにな、と思って。

『+K』の水着は多くのスイマーが着用してくれています。自分らしさが一番出ているアイテムは『Vタフ』でしょうか。そもそも、『+K』のはじまりは『もう1回、Vラインのパンツを流行らせたい』という思いからでした。最近はボックスタイプやスパッツタイプが主流なのですが、Vパンは動きやすく、体のラインもかっこよく見えるんです。『Vタフ』はVラインを現代流のカッティング・デザインで蘇らせました。水着ではこのほか、最近主流のLラインを作ったり、デザインも考えて作らせてもらっています。
水着だけではなく普段でも着られるようなウェア作りもしています。スポーツブランドだからこそできるアパレルを作っていきたいですね」

水泳を生業とする北島選手がなぜ、ファッションにこれほど興味を持つのだろう。その答えは、やはり北島康介らしい芯のある言葉だった。
「ファッションの面白さって、人のマネをすることではない。だから、ほかのブランドとは違ったウェア作りを意識しました。それに、スポーツウェアが一般のファッションにもっと近づいていってもいい。世間ではスポーツウェアと一般のファッションを分けがちじゃないですか。+Kでは自分らしさがちょっとでも出せるようなアイテムを提案していきたいですね。せっかくこういうブランドをプロデュースする機会をもらったので、+Kを通じて、スポーツウェア全体をかっこ良くしていけたらなと思います。それが水泳全体にもつながっていく。僕はそう考えているんです」

北島選手着用商品:黒のキャップ¥3,800、赤のTシャツ¥3,900、グレイのハーフパンツ¥6,500、黒のジップパーカ¥9,500/デサント(+K arena by KOSUKE KITAJIMA) デサントオンラインショップにて購入可能。
http://www.arena-jp.com/plusk/