屋外で料理をし、星空の下で眠りにつく。そんなアウトドアライフに魅せられたキャンパーのセカンドステージが、アウトドア・アクティビティだ。今回は女性に向けてキャンプライフを発信する女性ソロキャンパーの草分け的存在の森風美さんが、キャンプ×フィッシングの醍醐味をレクチャー。食材を自ら調達し、おいしくいただくためのスマートなフローが身につけば、キャンプライフはさらに深化するはずだ。
女性ソロキャンパーの先駆けとして数多くのメディアに登場する森風美さん。キャリーバッグを引きながら公共交通機関を使ってキャンプに出かける“キャリーキャンプ”を確立すると、その等身大のスタイルが多くの女性キャンパーやキャンプビギナーの支持を集めてきた。運転免許を取得した現在は、DIYで少しずつ手を入れている愛車の軽バン「なまけもの号」を駆使してバンライフ&キャンピングを満喫しながら、女性も楽しめるキャンプライフを発信している。
アウトドア好きの家族の影響で、幼い頃からキャンプライフが身近にあった。大学生になってソロキャンプにハマり、“キャリーキャンプ”を始めたころに出合ったのが釣りだった。
「大学3年生のとき、友人と島キャンプを計画して伊豆七島に行ったんです。自分のキャンプライフのベースには、無人島の自給自足ライフへの憧れがあるんですね。シェルターを作って食材を調達して調理して食べるまでを、島というロケーションでやってみたいと思ったんです」
漁港でイワシや小アジやネンブツダイを釣って、捌いて食べて。「一連のプロセスがまるで無人島生活の予行演習のようで、無性に楽しかった」と森さん。この旅がキャンプ&フィッシングの入り口になった。
子どものときに『十五少年漂流記』や『ロビンソン・クルーソー』、『トム・ソーヤーの冒険』を読んで心を踊らせた人は少なくないはずだが、森さんにとってキャンプ&フィッシングはそんな主人公の体験をなぞる遊びなのである。
「それに、見たこともない魚を釣って、恐る恐る調理して食べてみたのもいい経験でした。ツイッターで『この魚は何?』なんて情報を求めると、魚好きがすぐに教えてくれるんですよ」
釣りという選択肢が加わって、キャンプの遊びの幅が広がった――。そんな森さんの最新キャンプライフを覗いてみよう。
目的キャンプと手段キャンプ
森さんのキャンプは、“目的キャンプ”と“手段キャンプ”の2つに大別される。
「“目的キャンプ”はキャンプそのものを楽しむために出かけるので、テントのレイアウトや食事にこだわります。釣りやその他のアクティビティを主役に据え、それを最大限に楽しむ手段としてキャンプをするのが“手段キャンプ”です。たとえば無人島ごっこをするとか、島で釣りをするとか。そうすると必然的に無人島っぽいロケーションや、釣り場へアクセスしやすい場所でキャンプをすることになります」
どちらのキャンプも好きだけれど、「なまけもの号」と一緒に旅をする中で、徐々に「手段キャンプ」の精度があがってきたようだ。
「DIY、手芸、シュノーケル、釣り……もともとやっていた、趣味とも特技ともいえないでいた遊びが、キャンプと組み合わせて“キャンプ・プラス・アルファ”とすることで、趣味として成立するようになりました。キャンプという軸があるから“アルファ”の部分はライトでいい。むしろ、自ら動いたり自分で手を加えたりすることで、主軸であるキャンプの要素もぐっと充実するんです」
堤防でサビキ釣りに挑戦
今回は森さんが「超簡単・手軽」と推奨する、堤防釣りに挑戦してみる。森さんいわく、「堤防釣りは手軽にできるうえ、食べられる魚を釣れる点が魅力」。釣りはハードルが高いというイメージを持っている人は、まずは釣具専門店でサビキ釣りセットを手に入れ、漁港に出かけるのがいい。
サビキとは、イワシ、サバ、アジといった食卓の定番の魚を、手軽に狙える堤防釣りのスタンダード。エサに似せた擬餌針(サビキバリ)を連ねた仕掛けをサビキというが、このサビキの下(または上)に寄せエサのアミを入れるコマセカゴをあしらい、竿を動かして寄せエサで小魚の群れをおびき寄せる。堤防に集まる小魚の多くをこれで釣ることができる。
釣り場についたら道具の準備をしながら魚影を探す。ポイントのあたりをつけたら、コマセカゴに寄せエサをいれて、さっそく釣り糸を垂れる。
「『釣りは難しい』という先入観を持っている人は少なくないと思います。釣りは、スタイルだけでなくロケーションや竿、エサなどのディテールでもさまざまに細分化されていて、それぞれに異なるカルチャーがあるからでしょう。実は私も釣りを敬遠していた一人。奥が深すぎると思っていたのです。でも、『奥が深い』と感じるところまで足を踏み入れなくてもいい。サビキ一つで十分釣りは楽しめますから!」
そういう通り、森さんは次から次へとイワシを釣り上げていく。その数、なんと18尾! 釣れた魚をクーラーボックスに入れ、近隣のキャンプ場へ移動する。ここからがキャンプ&フィッシングのもう一つのメインコンテンツ、キャンプ飯編だ。
とれたての魚は、シンプルなレシピで
キャンプ場の水場で釣った魚を手早く捌く。本日の釣果はトウゴロウイワシを中心に、オウゴンアジとサバが各2尾ずつ。「イワシは捌くのが楽でいい」と言っていた森さんだが、意外にもこのイワシは鱗がしっかりしていた。手ではなく包丁を使って丁寧に鱗をとっていく。
昔から堤防釣りや船釣りで食べられる魚を釣ることが好きだった。森さんにとって釣りの喜びは「食べること」にあるからだ。
「湘南育ちなので放課後にはよくイワシを釣りに行っていました。海の魚でもイワシなら手開きできますから。渓流釣りもしますが、魚のおいしさや種類の豊富さは海釣りならではです」
とれたて・捌きたての魚はどう食べてもおいしいけれど、刺し身や塩焼きなどシンプルなレシピがもっとも活きるという。今日はキャンプ気分が味わえる洋食メニューを教えてもらった。
「今日はイワシとアジの刺身と、オイルサーディンを作ってそれをパスタとプルスケッタにアレンジします」
<刺し身>
イワシ 好みの量
アジ 好みの量
チューブ生姜 適量1.捌いてきれいにあらった魚をあらかじめクーラーボックスで冷やしておく(30分〜1時間)。
2.十分に冷えたら薬味を添え、器に盛り付ける。<オイルサーディン>
イワシ 好みの量(このときは14尾)
サバ 好みの量(このときは小2尾)
赤唐辛子 3本
ローリエ 2枚
チューブにんにく 適量
塩・コショウ 適量
1. 魚は塩水につけてクーラーボックスで冷やしておく(30分〜1時間)。
2. クーラーボックスから取り出した魚の水分をペーパータオルでよく拭き取る。
3. スキレットにたっぷりのオリーブオイルを入れて熱する。
4. オイルが十分に温まったら3に赤唐辛子、ローリエを入れる。皮目を下にした魚を入れ、中弱火で魚に火が通るまで熱する。
5. 塩・コショウで味を調える。余ったオイルサーディンは保存容器に移し替えて持ち帰り、冷蔵庫で2,3日保存可能。<オイルサーディンのペペロンチーノ>
パスタ 100g
チューブにんにく 適量
ネギ、シソ 適量
塩・コショウ 適量
しょうゆ 少々1. メスティンに湯を沸かし、半分に折ったパスタを茹でる。パッケージの表示より1分短く湯から上げる。
2. オイルサーディンを作ったスキレットに茹で上がったパスタを入れる。
3. 茹で汁少々を加え、チューブにんにく、塩、コショウで味を調える。
4. できあがったオイルサーディンを3に戻し、パスタと合わせる。刻んだネギ、シソを添え、好みでしょうゆを加える。<オイルサーディンのブルスケッタ>
パン 2枚
ミニトマト5個
ネギ、シソ(他のハーブで代用可)
塩・コショウ 適量
粉チーズ 少々
1. パンは軽くあぶっておく。トマトは食べやすい大きさにカットする。ネギ、シソは刻んでおく。キャンプでは刻みネギが便利。
2. パンにトマト、オイルサーディン、ネギ、シソを載せ、塩、コショウ、粉チーズを振る。
料理が完成したら愛車の前に広げたテーブルで至福のランチタイム。キャンプ場についてすぐに魚を捌いたり調理をしたり、あれこれと作業にとりかかれるのは、設営いらずのバン利用だから。ホンダ「バモス」をキャンピング仕様にアレンジした愛車は、山小屋をイメージして手を加えたお気に入りだ。現場に到着してすぐにアクティビティと向き合えるから、“キャンプ・プラス・アルファ”ではバンが断然、便利だという。
「なまけもの号」のディティールと愛用ギアをチェック!
釣り、調理、キャンプと夏の一日を満喫したキャンプ&フィッシング。ビギナーはどこからスタートすればいいだろう?
「キャンパーの方なら、『キャンプをしていて暇だな、なにか楽しいことないかな』と思う時間ができたら次のステップへ進むときかもしれません。経験者に釣りに連れて行ってもらうのがいいですが、全くの初心者で周りに釣り好きがいないなら、管理釣り場や養殖場、あるいは船宿を利用するのも手。そして釣りもスムーズに楽しめるようになったら、いよいよキャンプと組み合わせてみてください」
安全に楽しむために「想定外」をなくそう
女性ソロキャンパーの先駆けということで、女性向けのコンテンツやアドバイスを求められることも多い森さん。自身はソロキャンプを充実させるために、「想定外をなくす」ことを心がけているのだとか。
「私自身はキャンプや釣りをしていて危ない状況に陥ったことはないのですが、それはリサーチに時間をかけ、あらゆる状況や行動をシミュレートしているからだと思います。おおまかなタイムスケジュールを決めるのはもちろん、どういう道具が必要になりそうか、買い出しに行くならどこか、周辺の店は何時まで開いているのか、目的地とその周辺を調べあげます。『想定外』というシチュエーションを減らすことで時間や気持ちに余裕が生まれますし、隙を見せないことは自分を守ることにつながります」
そして、これは女性に限ったことではないけれど、自然を相手にした遊びをしている自覚が大切、とも。
「釣りもキャンプも自然のなかで行うアクティビティだから、『無理をしない』ことがいちばん大切だと思っています。天候、状況次第でいつでも引き返す勇気を持っていてください。いちキャンパーとして、釣りやキャンプを長く楽しめる愛好家が増えることを願っています」