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16年前にミッション地区で開店し、サンフランシスコ随一のパン屋となったタルティーヌ・ベーカリーの新店舗「タルティーヌ・マニュファクトリー」。そこで生まれるのが、材料を全てカルフォルニア産にこだわる天然酵母ブレッド、サンフランシスコ・サワードウだ。職人たちによって作られるこの魅力的なアーティザンブレッドが出来あがるまでを、追いかけた。

 陶器メーカーのヒース・セラミックスが10年ほど前に工場跡地をリノベートし、クリエイターたちを呼び寄せてCOMMUNEと名付けた。そこにタルティーヌ・マニュファクトリーがオープンしたのは2016年8月。建物の広い空間に、天然酵母で焼き上げたパンの香りが広がる。16年前にミッション地区で開店し、サンフランシスコ随一のパン屋となったタルティーヌ・ベーカリーの新店舗だ。創業者であると同時にベーカリー部門でシェフを務めるチャド・ロバートソンはこう語る。

「1990年代前半にアメリカの東海岸と西海岸で、アーティザンブレッドと呼ばれるパンが登場したんだ。天然酵母を用いたり、石窯による焼き方などにこだわる職人たちのパンは、それまでに食べていたパンとはまったく違うものだった。僕が20歳ぐらいのころの話だ。そんなパンとの出合いに衝撃を受け、天然酵母のパンづくりを極めたいと思ったんだ。サンフランシスコ・サワードウという種を使ってパンづくりを始めたきっかけだ」

大学で古代麦の遺伝子研究に従事
その探究心は徹底している

 材料はすべてカリフォルニア産にこだわる。カリフォルニア産の小麦をブレンドし、ぬるま湯を加えて適温を維持することで発酵を促す。そこに起こる化学反応から乳酸菌種が発生し、サンフランシスコ・サワードウができあがる。発酵のスターターとして生地に用いる酵母づくりの過程は、時間はかかるもののとてもシンプルだ。

 サワードウ・ブレッドとして実際に焼き上げる生地づくりの過程を追いかけた。ブレンドした小麦粉、ぬるま湯、海水塩にこのサワードウを加え、24時間近い時間をかけて発酵を待つ。大きなバットからできあがった生地を取り出すと、水分量がとても多く、作業台で全方向に伸びて広がる様子は通常のパン生地とはまるで異なる。「こねる」ことなどできないほどにドロリとしていて、手で細かな整形をすることはおよそ不可能だ。

 このサンフランシスコ・サワードウは作り方がシンプルであり、実際に店舗で売られているパンの作り方を一切の秘密なく公開したレシピブックも出版されているほど。しかし、ほんのりと苦味が出てきた程度の浅い発酵のタイミングを見極めることと、その日の気候や小麦粉の具合によって水分量をどう決めるのかがポイントとなり、そこに職人としての経験が現れてくる。チャドがちょうどいい状態だと判断したサワードウを用いて生地をつくり、石窯に入れると、酸味は控えめで、甘みに加えてナッツなどを連想させる香ばしい香りのパンが焼き上がる。深い味わいを持つと同時に、偏らずに配列された気泡によって、しっとりとしながらも柔らかさのあるテクスチャーに仕上がる。レシピブックでその手順や材料を明確に記したところで、簡単に真似できるものではない。

「開店した当初は、このように濃い焼き色のパンは珍しがられたけど、サンフランシスコ・サワードウという名前がついている通り、実際はこうした種によるパンは1940年代や50年代のサンフランシスコではすごくポピュラーだったらしい。奇遇にも、自分が生まれるよりもずっと前に人気だったパンを自然と作り始めたというわけだ」

かつてのサワードウ・ブレッドは酸味が強く、クラムチャウダーなどと一緒に食べられるパンとして親しまれていたという。タルティーヌ・ベーカリーのサワードウ・ブレッドの酸味は控えめで、豊かな香りとうまみを備えている。チャドのたゆまぬ探究心に裏付けられたパンのクオリティだ。

「天然酵母による発酵でパンづくりを続けるのは、その風味の深さと熟成の緩やかさが魅力的だからなんだ。長時間かけて行われる発酵は、柔らかく深みのある味わいを生み出してくれる。今は古代麦の研究もしているんだけど、この研究を進めれば、より味わい深く、より栄養価の高い穀物から美味しいパンをつくれる可能性があると思っているんだ」

 彼は今もワシントン大学で古代麦の遺伝子研究を続けている。その探究姿勢は徹底しており、モチベーションはパンづくりをした当初から変わっていない。パンのルーツを探求し、発酵をより深く理解すること。職人としての熟練は生まれてくるパンの質を高めるだけでなく、パンづくりに新たな視点をもたらす。小麦粉、水、塩というシンプルな素材を組み合わせるバランスと、発酵をコントロールするために調整する温度と時間。無限の組み合わせとその可能性の追求に、チャドは駆り立てられるのだという。人気店として確立しても進化を追求し続ける。

「タルティーヌ・マニュファクトリーも落ち着いてきたので、18th Streetのタルティーヌ・ベーカリーを来年リニューアルするんだ。16年間進歩を続けてきた自分たちの原点を振り返り、さらに未来への発展を見通せる空間にする予定だ。僕たちのすべてのストーリーを表現したスペースになるはずだよ」

 Bi-Rite Marketからもほど近く、その手前には人気のピッツェリアDelfinaもあり、この15年余りでミッション地区はグルメなエリアとして驚くほどの変化を遂げた。チャドももうじっとしていられない。老朽化した部分も増えてきたベーカリーを一新し、さらなる未来へと進んでいく。

TARTINE MANUFACTORY
595 Alabama Street, San Francisco
営業時間 7:30~17:00(月~金)、8:00~17:00(土・日) ブレックファスト:開店~11:30 ランチ:11:30~15:30 ディナー:17:30~22:00
tartinemanufactory.com

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