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日本の国土の約800分の1にあたる約4.8万ヘクタールの社有林を保有し、海外で約24万ヘクタールの森林を保有・管理している〈住友林業〉は、森林を保全しながら木材を活用することで、脱炭素社会の実現に貢献しようとしている。その試みとは一体どんなものなのだろうか。

森林保護がビジネスとして成り立つ

2015年に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定を契機に、世界中が脱炭素社会の実現へと動き出した。日本政府も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目標とすることを宣言している。

温室効果ガスを排出削減だけでなく、吸収によって実質ゼロにするカーボンニュートラルにおいては、削減努力はもちろんだが、吸収量を増やすことも重要だ。しかし、国連食糧農業機関(FAO)のレポートによれば、1990年以降、森林減少が森林増加を上回る状態が続いている。近年は、カーボンニュートラルが叫ばれ、森林の保護が進んでいるようなイメージがあるが、それでもなお世界の森林は減少傾向にあるのだ。


上・メイン画像:愛媛県・新居浜市の別子銅山跡地の社有林。銅の精錬に欠かせない薪炭用の木材、坑道の坑木、採掘や精錬に従事していた人々の家の建築材料などを調達する銅山備林経営が住友林業の原点。19世紀後半の別子銅山では、過度な伐採と煙害によって周辺の森林が荒廃の危機を迎えていたが、植林によって豊かな緑を取り戻した

〈住友林業〉は2030年までに国内外を合わせて50万ヘクタールの森林を保有・管理することを目指している。現在、保有・管理している森林が約29万ヘクタールなので、かなりの規模であると推測できる。これだけの森林を確保すれば、カーボンニュートラルな社会に大きく貢献するのだろうが、どのように事業として成立させようとしているのだろうか。

「1つの柱となるのが森林由来の炭素クレジットです。取得した森林において、放置すれば過度な伐採や再植林されない森林を適切に管理することで、植林と同様にCO2削減効果があるとみなして削減効果分を炭素クレジットとして発行できます。この森林由来の炭素クレジットを購入した企業は、自社のCO2排出量を購入したクレジットでオフセットすることが可能になります」と、住友林業 資源環境事業本部 森林資源部の割田翔太さんが説明してくれた。

(左:住友林業本社受付、右:住友林業 資源環境事業本部 森林資源部の割田翔太さん)

昨年末、住友林業は9738ヘクタールのマングローブの森林を保有管理するインドネシアのビナ・オビビパリ・スメスタ社の全株式を取得し、完全子会社化。世界的にも貴重なマングローブ林を保全する事業をスタートしている。このマングローブ林においては、伐採と植林のサイクルを回す経済林として活用するのではなく、荒れた部分を植林したうえで、保護林として保全していくという。そしてブルーカーボン(海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林の「海洋生態系」に取り込まれた炭素)クレジットの創出を目指していくそうだ。

世界のマングローブ面積は1990年から2020年の間に104万ヘクタールも減少しており、特にインドネシアにおいては直近の10年で年平均21,100ヘクタールが減少していると報告されているという。炭素クレジットの創出が成功し、保全がビジネスとして成り立てば、マングローブの減少を食い止めることができるかもしれないのだ。

「日本にもJ-クレジットという、温室効果ガスの排出削減量や、適切な森林管理による吸収量をクレジットとして国が認証する制度があります。クレジットの所有者は、排出するカーボンをオフセットしたい企業などに売却することで利益が得られるのですが、森林を管理すること自体が収益に繋がる可能性があるというのが大きなことだと思います。森林を管理することにメリットがあれば、森林火災や土砂災害の原因にもなる放置林が減るでしょうし、森林は今まで以上に保護されるようになるはずです」


宮崎にある住友林業の社有林で作業をする割田さん。入社2年目、3年目は現場管理の仕事を行なっていた

北米を中心に多くの森林ファンドが誕生し、炭素クレジットの取引が活性化しているという。森林クレジットへの期待が世界規模で高まっている一方、CO2削減量を正確に反映しないクレジットの存在も指摘されている。

粗悪なクレジットは温暖化対策効果が低いうえ、信頼性の低下とマーケットの縮小を引き起こすため、CO2吸収量と削減量の正確な算出と厳格な基準を設けた透明性の高い森林クレジットが求められており、住友林業では“質の高い炭素クレジット”の創出と販売を目指している。〈IHI〉との協業プロジェクト「NeXT FOREST」では、〈住友林業〉が培ってきた森林の管理技術や蓄積してきたデータと、〈IHI〉が宇宙開発を通して培った人工衛星データの利用技術や気象観測技術を組み合わせ、持続可能な管理技術を普及させる手法や、広大な森林が吸収するCO2量を高精度でモニタリングする手法を開発しているという。

森林保護がビジネスとして成り立つ

脱炭素社会の実現には化石燃料の利用を減らすことも重要になるが、近年、木材として利用されず廃棄されてきた細い木や枝などは燃料用の木質バイオマスとして活用されるようになってきた。木材は古くから、木炭や薪として活用されてきたが、再びエネルギー源として注目されているのだ。

「弊社でもCO2削減による環境保全への寄与、また林業振興の観点から、林地未利用木材を燃料用木質チップとして利用する、木質バイオマス発電事業に取り組んでいます。〈住友林業〉が運営参画している木質バイオマス発電所は現在国内に5か所あり、今年11月には6か所目が運転開始を予定しています」


北海道・紋別市にある紋別バイオマス発電所。オホーツク地域から集荷される森林資源を燃料として利用している

木質バイオマス発電で利用されるのは、建築廃材に含まれる木質を原料とするリサイクルチップや、森林に放置されてきた製材に適さない材などの未利用木材を加工した燃料用木質チップ、海外から輸入した木質ペレット等だ。木材をチップやペレット化するのは、燃焼効率を高めるためだ。

森林から生産される木材をエネルギーとして燃やせば当然CO2は発生するが、樹木の伐採後に再植林によって森林が更新されれば、その成長過程でCO2は再び吸収される。つまり、化石燃料の代わりに木材をエネルギー源として利用することで、CO2の排出抑制が可能ということなのだ。また、廃棄されてきた細い木や枝を木質バイオマスとして利用することは林業経営のサポートになり、製材工場の残材や住宅解体材の利用は廃棄物を減らすことにも繋がる。

もちろん、木材にも限りがあり、木質バイオマス発電で全てのエネルギーが賄えるということはない。しかし、化石燃料利用の比重を減らすために活用すべきものだろう。また、以前は建築材や家具として利用していた木材を、ボードなどの加工品や、紙やバイオマス燃料として一つの木を余すことなく利用する
、カスケード利用〈多段階利用〉の促進は、環境負荷を減らすために、今後ますます重要度が増していくだろう。

カーボンニュートラルのイニシアチブをとる

森林資源のカスケード利用の促進、国産木材製品の安定供給体制の構築、価格競争力のある国産材生産の実現を目指し、〈住友林業〉では木材コンビナートの建設を進めている。

「鹿児島県の志布志市に木材コンビナートを作る計画があります。木材加工工場と木質バイオマス発電所を建設し、木材製品の製造からバイオマス発電の燃料利用まで、木を余すことなく使いきるカスケード利用を実現することで、九州地域の森林資源の競争力を高め、国産材の価値向上・利活用促進への貢献を目指します」

広大な森林を保有・管理することによる森林クレジットの創出。林地未利用木材を燃料用木質チップとして利用する木質バイオマス発電。森林資源のカスケード利用を促進するための木材コンビナートの建設。カーボンニュートラルな社会の実現に向け、そのどれもが大きな助けとなるに違いない。そして〈住友林業〉のような大手だからこそ、イニシアチブをとり、社会を牽引することが可能だとも言える。〈住友林業〉が目指すサステナブルな森林経営に期待したい。