〈B Corp〉認証取得のための自己採点アセスメント、BIA(B Impact Assessment)を解説する連載の第4回では「コミュニティ」を取り上げる。「コミュニティ」の内容は、働く環境の多様性から地域コミュニティへの貢献、サプライチェーン・マネジメントなど多岐に渡るが、どこから取り組むのがいいのか。「コミュニティ」分野に並ぶ項目から、B Labが目指すものを探ってみよう。
BIA(B Impact Assessment)を構成する「ガバナンス・従業員・環境・コミュニティ・顧客」の5分野のうち、最も幅広い内容となっているのが「コミュニティ」。欧米企業のほとんどが経営課題として掲げるDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)、経済的インパクト、企業市民活動(社会貢献活動)、サプライヤーへの働きかけなどが主な内容だ。
「『コミュニティ』では、従業員や地域社会、サプライヤーなど、さまざまなステークホルダーを巻き込んでの経済活動のあり方を聞かれます。地域社会を想起させる“コミュニティ”という言葉から狭い経済圏をイメージするかもしれませんが、自分たちの企業を取り巻く人、企業、団体との幅広い取り組みや働きかけを考えさせる分野になります」(〈B Corp〉取得支援専門のコンサルタント、岡望美さん)
日本の企業にとってハードルの高いDE&I
DE&Iの代表例として、このような質問がある。
・ダイバーシティ、公平性、インクルージョンに対する取り組み(すべての求人広告にダイバーシティ、公平性、インクルージョンにコミットするという宣言を含めている/応募書類や履歴書を、氏名などの情報を伏せて匿名・ブラインド評価している/求人広告の文言や要求が包括的で公平/ダイバーシティ、公平性、インクルージョンに対する研修を全ての従業員に提供している/具体的で測定可能なダイバーシティ向上の目標を設定している/性別や人種、民族その他の属性別に等しい給与か分析し、必要があれば公平性を正す計画や方針がある)
「このほかに経営陣におけるマイノリティグループや人種の割合、それぞれの賃金格差を問う項目もあります。多様な人材を外から広く雇用するという意味で、DE&Iにまつわる方針には社外との関わり合い方が表れます。さらに、同様のダイバーシティポリシーをサプライチェーンにも求めているかを問う項目もあります。
いずれも日本の企業では業種を問わずハードルの高い内容になりますが、これらが現在のグローバルスタンダードであることを視野に入れ、自社の取り組みや社内のトレーニングをブラッシュアップしてみるのもいいでしょう。経営陣に幅広い視点を取り入れることは新しいアイデアや気づきにもつながり、ビジネスにいい影響をもたらすはずです」
「政策提言」を積極的に行い、社会を変えよう
企業市民活動については以下のような項目がある。
・どのような社会貢献活動をしているか(金銭的もしくは物的寄付 (政治献金を除く)/地域投資/地域社会でのボランティアやプロボノ(※)/社会・環境分野におけるポリシーやパフォーマンス向上の採用を提唱(政策提言)/地域のチャリティー機関とのパートナーシップ/行政サービスや医療福祉が十分に行き届かない人たちへの商品やサービスの割引提供/コミュニティ活動のための会社施設開放/自社の株やオーナーシップの非営利団体への付与/その他)
※プロボノ=各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動全般・昨年度の正社員・パートタイムのボランティア時間
・昨年度の従業員1人当たりのボランティア、社会貢献活動、プロボノ時間の割合(ボランティア時間÷労働時間:およそ年間2000時間)
ここで注目したいのは、「政策提言」という文言だ。政策提言とは、政治家とのつきあい、地元密着型の企業であれば地域の商工会議所や青年会議所などでの地元の有力者への働きかけなどを指す。ここで「政策提言を行っている」を選択すると、具体的な提言内容を問う追加質問に飛ぶ。
「北米支部がとりわけ力を入れているのが、この『政策提言』です。というのも、B Labの理念はビジネスを通じてポジティブなインパクトをもたらし、既存の経済システムや法律を変えることだからです。実際、過去にはロビー活動によってベネフィット・コーポレーション法の制定に至ったことがあります。そうした背景も考えると、〈B Corp〉らしい一文といえるでしょう」
政策提言というと気後れするが、まずは地域の企業や団体、自治体の集まりに参加してディスカッションするなど、身近なところから始めるのがよさそうだ。
他社との協働が自分たちを成長させてくれる
もう一つ、〈B Corp〉らしさが表れているのが、ステークホルダーとの協働にまつわる項目だ。
・過去2年間、ステークホルダーとともに社会&環境問題における行動やパフォーマンス改善の取り組みを行ったか(我々の業界における社会&環境基準についての共同イニシアティブにおいて、他企業と協働した/社会&環境に関する学術研究にデータを提供、あるいは貢献した/社会&環境に関するパネル発表会やフォーラムなどに参加した/社会・環境のパフォーマンス向上のために他社や利害関係者に公的資源を提供した/その他)
「〈B Corp〉コミュニティにおいて、業界を超えてのイニシアティブは珍しいものではありません。『環境』の回でご紹介しましたが、〈B Corp〉認証を取得している化粧品会社が集まる〈B Beauty〉という連合では、団体独自にCO2削減目標を設けて各社が取り組みを行っています。このように他企業やライバル企業と手を取り合い、コレクティブアクションを起こそうという動きが活発です」
社会にムーブメントを起こすという観点から共同イニシアティブは政策提言と同様に効果的であり、B Labもこれを重視しているようだ。
大きく変わる新基準
ところで、この「コミュニティ」分野も2024年にスタート予定の新基準では、その内容を一新することになる。新基準は現在の枠組みをブラッシュアップした8つのコアトピックで構成されることになりそうだが、「コミュニティ」分野からはダイバーシティが「JED&I(ジャスティス、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)」として、企業市民活動が「コレクティブ・アクション」というコアトピックとして独立する予定だ。また、サプライチェーン・マネジメントの一部の内容は「人権」のトピックのなかに取り込まれる。
「新基準のコアトピックでは賃金格差の是正への取り組み、慈善事業などについての項目はなくなりそう。利益を地域社会に還元するよりも、『ビジネスの力で世の中を変えていく』という理念の実践の強化に舵を切る流れなのかもしれません。また、『コミュニティ』では評価されている地方経済活性化なども新基準のコアトピックからは外れそうです。けれども、地域に根ざしたビジネスで雇用を創出し、地方を盛り上げるという動きには、日本らしさが表れていると感じます。コアトピックから外れたとしても、ぜひ、日本らしいビジネスのあり方の一つとして続けてほしいと願っています」
ここまで見てきたように、「コミュニティ」の設問には地域への貢献、サプライチェーンやライバル他社との協働など、よりよい社会を作るための身近なヒントが散りばめられている。岡さんによれば、B Corp認証取得を目指して異業種や同業他社と取り組むようになったことで、自社の価値観がブラッシュアップされ、企業としてさらに発展することができたという例もあるようだ。
大企業がCSR活動の一環として行っていることを、自分たちらしいスタイルや規模に整えて取り組む。それは自社のビジネスを発展させる大きなチャンスでもある。他の分野ももちろんだが、「コミュニティ」に含まれる項目の実践を通じて、自分たちの成長やビジネスにおけるポジティブな変化を実感できるはずだ。