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編集部が実際に体験したものだけをリポートする「mark gear by onyourmark」。マラソン熱が過熱するこれからの季節に合わせ、ランニングシューズにフォーカスして、シリーズでお伝えしていきす。プレスリリースの情報だけに頼ることなく実際に製品を手にして、ジョグ、インターバル、ロング走など数回に分けてランニング。編集部の独断と偏見にはなりますが、どういったトレーニングにフィットするか、お伝えしていければと思っています。また、ブランドのアイデンティティやバックグラウンドについても、伝えていきますのお楽しみに!

“Good is not good enough” 完璧を目指したアップデート

記念すべき第一回目は〈On〉の〈Cloudflow〉。
ブランド全体に目を向ければ、最近ではストリートではいている人を見る機会も増え、ここ数年で格段に認知度が上がった印象。今回取り上げる〈Cloudflow〉は2016年の発表後すぐ、世界最大級のスポーツ用品展示会であるISPOでベストパフォーマンスランニングシューズ部門の金賞を獲得したシューズでもあり、またイギリス人トライアスリート、ティム・ドンが2017年にアイアンマンの世界記録更新した際に履いていたシューズです。名実ともに優れたランニングパフォーマンスシューズとして世界的に認知されている、いわば「On」の代名詞的モデル。その〈Cloudflow〉が丸3年を経てフルモデルチェンジするというので、今回のチョイスとなりました。

これまでに履いたことのある〈On〉のシューズは〈Cloud〉と〈Cloudstratus〉。
どちらのモデルもファーストインプレッションは、

・アッパーのフィット感がソフトで快適
・見た目以上に軽い
・歩いた感じではブランドのキャッチフレーズでもある“雲の上を”感じるような、ゆっくりと沈み込む(フラットなアウトソールが着地の際のブレを補正する)感覚がある
・その一方、走ってみると、意外とやや硬さを感じるソール

など。面白いと感じたのは、やや硬いと感じたソールが、スピードを上げるとその出力の度合いに合わせクッションがより感じられるところ。特に代名詞でもあるクラウドパーツを2層にした〈Cloudstratus〉は「クッションを倍増させた」ブランド側の狙い通り、よりクッションを感じ、気持ちよく走れるシューズ。いい意味で驚かされたモデルでした。この2モデルと比べ、進化した〈Cloudflow〉はどう違うのか。ブランドとしてサブ3、サブ4のようにタイムでセグメントしているわけではないこと、またパッと見の印象ではモデルによっての違いを見抜けないことから〈On〉は実際に履いてどう感じるか、より繊細に、より感覚的に、特徴を捉えることが大切なブランドと感じていました。

オン ジャパンの駒田博紀さんに今回のアップデートについて尋ねると、

「Onの企業文化のひとつに“Good is not good enough”という言葉があります。完璧さを追い求める、より改善を図る意志です。〈Cloudflow〉は2016年の発売からずっと好評でした。でも新型の〈Cloudflow〉の開発は1stモデルが生まれてすぐ着手しているんです。エリートアスリート陣からは『〈Cloudflow〉はその名の通り、流れるような走り心地が素晴らしい』とフィードバックも常に良かった。ただ『本当に素晴らしいシューズなんだけど、できればフォアフット部分のクッション性をもう少し加えてほしい』との声が上がりました。それからもうひとつ『スピードを上げてぐっと踏み込んだ時に、かかと部分のブレが若干気になる』との意見も。その意見は我々にとってはGood is not good enoughと言われたのと同じなんですね。流れるような走行性能は100%残したうえで、細部をアップデートする。彼らの意見を元に3年間改良を重ねたのが新しい〈Cloudflow〉です」

との返答。
その前情報から、トライする以前は“万能型(前モデルからの継続)、かつスピードアップをより可能にしたシューズ”と捉え、今回は

・40分jog
・8km ビルドアップ
・8km tempo run
・90分Run

の4回のランを実施。
以下はそれぞれのログデータです。

ジョグでは前足部に硬さを感じるものの、ヒールは十分なクッショニング

1:40分jog

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初回の40分jogは、前情報に頼ることなく、フィーリングを重視。感じたことはやはり足入れの感覚がソフトであること。〈Cloud〉と〈Cloudstratus〉以上にスムーズなフィット感に好印象を持ちました。ジャストサイズで履いて、靴の中で指を自由に動かす余裕がある状態。トゥボックスがナローで窮屈に感じることもなく、また、ワイドすぎてあまりが出ることもありません。採用しているエンジニアードメッシュの素材が柔らかくフィット感が抜群に良い。

いざ走ってみるとやはり前足部が硬めの印象。フォアフットからミッドフット、ヒールストライクと着地するポジションを変えると、ヒールに近づくほどクッションを感じられました。普段のジョグ以上にゆっくり感覚を確かめながら走ってみましたが、接地時間が長くなる今回のような低負荷でのランニングの場合は、ヒール気味に入る方がいいかもしれません。

2:8km ビルドアップ

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8kmビルドアップはトレッドミルで実施。自走式ではないため傾斜を1.5%つけました(ログでは7.6kmとなっていますが、トレッドミルでの計測では8km。トレッドミルの計測に準じています)。スピードを上げていく途中で段階的にどういった感覚的変化が生まれるか、それを感じとることを意識しました。

スタートは9k/h(6:00/km)ペースで入り14k/h(4:17/km)までは1km経過ごとに1k/hずつUP。その後は1kmごとに0.5k/hずつUP。最終的には約3分52秒のペース。トレッドミルのため走り出しから(トレッドミル特有の)柔らかさを感じましたが。自覚的にケイデンスが上がったと感じ始めた14k/h(4:17/km)ペースくらいから、ソールの柔らかさ、適度な反発も感じるようになりました。しかしやはりトレッドミル。スピードをそれなりに上げても違和感は感じませんでしたが、アスファルトとでは感覚が違うため、このトレーニングではまだ〈Cloudflow〉のストロングポイントを掴みきれずじまい。

3:8km tempoラン

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次に行った8kmのtempoランはログを見てもらうとわかる通り、最初の15分はマフェトン理論を取り入れ身体に酸素が行き渡るようにウォーミングアップ。話は逸れますが、柔軟体操やストレッチをすることに億劫な人には、マフェトン理論の肝である15分かけてエアロビック心拍数まで上げる理論、方法は実際に実践してみるととても有効に感じました。ぜひ一度試してみてほしいですね。ストレッチや柔軟をした後であればなおのこと、15分後には集中して走れているかと思います。

走り出して15分が過ぎた約2.4kmくらいから10.5kmまでの約8kmを4:15/kmから4:00/kmペースを意識。同様に心拍もtempoゾーン(144bpm~158bpm)からはみ出ないように時計を頻繁にチェックしました。

皇居周りで実施したため、ランナーを追い抜く際や、一般歩行者とのすれ違いの際にペースが乱れるため、ややバラツキはありますが、感覚的には4:10/km程度で推移。良かったのは最後の1kmをリラックスした状態で回転数を上げられたこと。40分jogの時のようなゆっくり走った時とは違って、スピードを上げるに従い、蹴り出しが強くなると、前足部にクッション、反発性がより感じられました。

またペースを上げるほどに、接地から蹴り出しまでの間で荷重をかけるタイミングを見誤ることがあり、着地でぶれることがあるのですが、その点先にはいていた〈Cloud〉とCloudstratus〉以上に補正効果が高いと感じました。オーバープロネーションで入ってもアンダープロネーションで入ってもソールが整えてくれる印象。

4:90分 フリーラン

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最後に行った90分フリーランは、ビルドアップ、tempoランとやや強度の高いトレーニングをした時と違い、“ある程度距離を踏んだ場合の疲労の蓄積具合”にフォーカス。ペースは決めずフィーリングのままに自由に走り。乗ってくればペースを上げる代わりに、ガクッとペースが落ちないように中盤まで心拍数に気を使いました。

結果としては今回のペースでは特に大きな疲労を感じることはなく、前回のtempoラン同様最後の1kmを気持ちよくペースアップ。tempoランに続き、より距離を踏めば踏むほど、接地のブレの補正効果を感じました。身体の余裕度を考えると、そのまま30kmないし25km程度まで距離を伸ばしてみようとも考えるほど、さらに距離を伸ばしても問題ないと感じました。

フォームを意識して走るトレーニングの際には(Onのシューズ全般に言えることですが)有効なシューズという印象、例えばフォームが乱れがちになるロング走の後半などに(疲労によるストレスをあまり受けずに)よりフォームに意識を向けてトレーニングできるシューズのように思います。

ソリッドに、スピードを出すために進化したシューズ

この4回のランニングから得た感触としては


・ランニングエコノミーを引き上げてくれるシューズ
・スピードを上げると自分が感覚的に想定したペース以上に速さが生まれる(爆発力が生まれる、不思議な感覚の)シューズ

というもの。その点について改めて駒田さんに訊ねると、

「今回の〈Cloudflow〉の最大の変更点はこれまでEVAを使用していたソールを“Helion (ヘリオン)”スーパーフォームに変えたことです。これまでの〈On〉は創業以来3D形状のソール〈クラウドテック〉。クッション性と反発性を世界で初めて融合させたことで特許をとりました。それだけで勝負してきたんですね。しかしその間も素材の開発は進めていたんですね。何度もテストを重ねできたのがヘリオン。バランスの良いものができました。

またクラウドテック同様に〈On〉にとって大事な技術が2014年から使用しているプレート、〈スピードボード〉です。従来に比べ、剛性を高くしました。ただ、満遍なく固くしてしまうと、これまでの走り心地が損なわれてしまう可能性があるというフィードバックもあり、プレートの剛性をポイントで極端に変える手法をとりました」

とのこと。見た目では従来と同じものに見えていたソールがフルモデルチェンジ。今回得たフィーリングはヘリオンと改良されたスピードボードがもたらしてくれたといえます。

フォームの素材というのは基本、反発力を取るか、クッションを取るか、この2点が焦点。例えば反発性のあるシューズのソールは基本的には密度が高い。反発力、耐久性は増す一方、重量は増える。逆に軽さを追求しようとすれば密度は薄くなり、耐久性も失われます。

反発性も同様。反発性に関してはあるいは素材の内部に空気を含ませる手法を取れば、対応も可能ながら、温度の変化で硬さに違いが生まれるという欠点があります。寒い日に走り出しの時点でソールが硬いと感じ、走っているうちにクッションを感じるようになるのはこの影響によるもの。暖かければ空気が膨れ柔らかさが生まれ、寒ければ空気が収縮し硬くなります。条件によってばらつきが出てしまう。ここが問題で、その辺りは各社腕の見せどころでした。

しかし新しい〈Cloudflow〉に採用されたヘリオンは、クッションと反発力、相反するこの2点をより高い次元で融合させたといえるでしょう。前足部が硬いと感じたのはスピードをより出すための反発力、蹴り出しの爆発力を強くするために加えられた変更点でしたが、驚くのはフォームを変更しておきながら重量が従来のモデルと変わっていないこと(26.5cmに対し235g、従来のモデルは230g)です。本来であれば(片足あたり)少なくとも30g程度は増えると考えられます。

上記した2点のフィーリングと駒田さんの言葉をまとめると“万能型(前モデルからの継続)、かつスピードアップをより可能にしたシューズ”という当初の視点はあながち間違っていませんでした。前モデルに比べ、また、これまでに発表した他モデルよりも、ソリッドに、スピードを出すために進化したシューズ。それが新しい〈Cloudflow〉です。

「Good is not good enough。流れるような走行性能はそのままに細部をアップデートする」。

その考えを形にした〈On〉の自信作。リカバリージョグのような極端にゆっくり走るときは〈Cloudstratus〉のようなクッションのあるシューズを選びますが、普段の生活から、気分によってペースチェンジするような普段のジョグ、スピードトレーニングまで幅広く対応できるシューズとして(特にフィットネスレベルがちょっと下がっているようなタイミングで)活用したいと思います。

EVAからヘリオンに変えると同時に、従来のモデルよりもわずかだけクラウドパーツに厚みを持たせた。このアップデートにより着地の衝撃をより推進力へ転換
従来のモデルはヒールカップを横から見ると直線的な設計。アスリートからのフィードバックをもとに今回はわずかにカーブ。蹴り出しのタイミングでの“抜け”と横ぶれをプロテクト
重量を増やさないように、アッパーの補強にフイルム材を使用するなどして軽量性をキープ
軽量なスイスエンジニアードのメッシュアッパー。部分的に通気性を確保し、中に空気が流れるよう設計されているのだとか。

On オフィシャルサイト https://www.on-running.com/ja-jp