fbpx
編集部が実際に体験したものだけをリポートする「mark gear by onyourmark」。今回は〈HOKA ONE ONE〉が先日発表した、“シューズ”の概念の枠を飛び超えたトレイルランニング“ギア”、〈TenNine〉。このカタチが示すものをチェックします。

シューズではなく“ギア”

「スキーブーツを履いているようなイメージで、ブランドとしては『シューズではなくてギア』』と紹介しています。普段履く用としてちょっと想像できないかも。山に行ってから履き替えて使用する“ギア”。山を思いのままに駈け下ることにフォーカスした“ギア”なんです」。

〈HOKA ONE ONE〉の方から話をを聞いた時、正直どんなシューズが、いや、“ギア”が届くのか。「シューズではないギア」って?と頭が「?」で覆われた。〈HOKA ONE ONE〉にはこれまでもたびたび驚かされていたけど、今回は何か突き抜けた特別感がある。期待9割、妄想を膨らませ、到着を待っていたところ、〈TenNine〉は度胆を抜くルックスで現れました。

第一印象、「これで走れるのか?」、第二に「スキーブーツというか、これはムトンボ!(※往年のNBAバスケットボールプレーヤー、ディケンベ・ムトンボ。足のサイズ、41cm)、でした。

普通のシューズに比べてひと回り半ほど、圧倒的にヒール周りが大きい。改めて「これで普通に走れるのか?」、「どんな体感が得られるのか?」我々にとって未知の製品を試せるレビューは楽しみなものですが、今回は特に、当たり前にあった“シューズのカタチ”の常識を久々に覆され、少年時代に還ったようなワクワク感を味あわせてもらいました。今回は、前情報より何より体感。リリースには目を通さずにフィールドへ出るべし。今回も編集部・高橋がお届けします。

今回、フィールドテストは2回。1回目で感触をチェックし、2回目で“飛ぶように山を駈け下る”のメッセージを体感しに行く。そこで判断しようと考えました。

〈TenNine〉は“遊び道具”

初回は近所の高尾山周辺のトレイルへ。トレイルヘッドまでのロードを普通のシューズと同じ感覚で約2km、ジョグしていると、ヒールが当たるのが気になり始めます。思っている以上に前傾姿勢のフォーム、フォアフットを意識しないと、かかとが必ずといっていいほど先に路面に触れ(着地し)、なかなか前に進みません。履いた人ならわかるかと思いますが、イメージはかんじきに近い。よほどフォアフットを意識して(もしくはフォームを大きくし、太ももをあげて)走らない限りは、ロードには向いていないことを実感しました。正真正銘“トレイルランニングギア”を体感です。

さて、肝心のトレイルではどうか。
登りでは、

・走って登れるセクション(仮に傾斜10%程度。林道含め障害物が少ないセクション)、
・走っては登れないパワーハイクで登るセクション(木の根が出ているテクニカルなセクション、斜度が15%を超えるようなセクション)

と分けてその感触をチェック。また下りでは、

・階段
・急勾配のテクニカルな下り
・走れる下り

の感触を重点的に確認。それから、フラットではロードと違う感触を得られるか、それも気にしながら走りました。

まず登りですが、意外なことに普通のトレイルシューズ、例えば〈Speedgoat〉と比べても特に違いは感じられません。強いていうなら、(サーフェスによって足上げの大きさが変わり)足上げの際にヒールがふくらはぎに当たることがあるくらいです。パワーハイクで登る際はフォアフットのみで登る場合はこちらも特に問題なく、逆に腰を曲げ、ヒールから着地して登る場合は、アウトソールの面積が大きいので非常に安定感を感じて登れます。これは予想していなかった発見。足の運びがスムーズでした。〈TenNine〉ならではのボリューム感のあるヒールならではといえます。

では下りではどうか。

もっとも懸念していた階段は、接地ポイントのコツを掴めば意外と簡単。前足部やや前目(ほぼ指の付け根あたり)、フォアフットというよりも、つま先もつま先で着地するイメージで、足(首から下)を落としていくと、かかとが階段に当たることはまずありません。それよりは不規則に現れる木の根の方が、頭で察知している感覚と着地の感覚とにズレが出て、かかとが当たることはありましたが、厚みのあるソールが衝撃を吸収してくれる感覚でそれほど気になりませんでした(強く殴られているのにその振動が気持ちよく感じるようなイメージ)。

そして走れる下りです。基本余程疲れていない限り、気持ちよく走れる下りのセクションは前足部での着地と接地時間を短くすることにポイントを置いて走りますが、〈TenNine〉で同じ走り方をした場合、どうなるのか注目していましたが、それほど大きな差を感じることはありませんでした。言い方を変えれば他のトレイルランニングシューズと同じ走りができる。

逆に、ヒールから着地してみた場合はどうか。(身体を後傾にするのではなく)フォアフットで着地するのをやめ、意識的にヒールから入ってみると、ボリュームのあるヒールのクッションのおかげでしょう。臀部への衝撃を和らげてくれます。しかし下り坂をヒールストライクで走るのはやや違和感があるので、すぐにフォアフットへ変え、その日を終えました。下りに関していえば、普段はフォアフットで、疲労が溜まって腰が落ちてしまうような走り方になってしまう場合にはサポートを得られるシューズ。それが初めて走ってみての印象です。この段階では“飛ぶように山を駈け下る”感覚はこの時は味わえませんでした。とはいえ新しい発見だらけ。一筋縄ではいかない相手と、“探り合い”している感覚でした。

Field Test #1 @takao

  • sample alt
  • sample alt

幅広のアウトソールがもたらす恩恵

2回目のフィールドテストは。長いダウンヒルを求めて、ハセツネで知られる、武蔵五日市は金毘羅尾根方面へ。払択の滝方面から入り、大岳山、御嶽山を経由してのルートです。

2週間ほど間を空け、その間に〈TenNine〉についてお勉強。すでにホームページでも公開されている通り、

【特徴】
・軽量で耐摩耗性に優れたメッシュを補強素材として採用
・Ariaprene®のタンが快適性、通気性、吸水速乾性を提供
・タンをシューズ内で固定することにより、足のホールド感を高める
・Lycra®素材のバンプが長距離のランニングでの足の変化に合わせて伸縮する
・かかとからのびるヒールのプルタブが快適性とさらなるサポート性を発揮
・突起したデザインのミッドソールデザインが、安定性とスムーズな走りを生み出す
・幅広にデザインされたアウトソールが、接地面を大幅に広げ、安定した走りにつなげる

【スペック】※27cmの場合
ドロップ:4mm(ヒール:33mm、フォアフット:29mm)
ウェイト:360g

同サイズの〈Speed goat2〉と比べると大きさの違いは一目瞭然。シューズの枠をはみ出している。
今回採用されているアッパーの強度は抜群。ガンガン履き込んでもそう傷むことはなさそう。

確かにアッパーの強度やホールド感の面でこれまでのモデルにはないアップデートが見られます。が、この【特徴】の一番下、アウトソールのデザインがこのシューズの最も大きなポイントであることに間違いありません。この特徴をより理解することで“飛ぶように山を駈け下る”ことができるはず。2回目のフィールドテストはそれを生かす走り方を心がけました。

Field Test #2 @musashi-itsukaichi

  • sample alt
  • sample alt

大岳山までの登りはトレイルヘッドから約4.5kmで標高を900mアップ。テクニカルなところは稜線付近に少しある程度で、パワーハイクで上りにはちょうどいいコース。シューズの特徴を掴めていた(より意識していた)こともあり、ペースが上がります。ヒールからは入るものの、よりフラットに近い接地をする。地面を舐めるように動かして幅広いアウトソールを使うことを心がける。これがポイントと踏んでいましたが、狙い通り、かなり効果的でした。

初回と2回目で大きく変えたことはミッドフット着地を意識すること。〈TenNine〉の最も大きな特徴である、アウトソールの力、安定性と推進力を生かせれば、〈TenNine〉をより楽しめるのではないかと考えました。

金毘羅尾根はダウンヒルとはいえサーフェスも様々、スイッチバックしたり、トレイルの幅もまちまちで、“走りやすい下り”だけのトレイルではありません。なのに選んだのは〈TenNine〉の特徴さえつかめば、このコースでも楽しく走れると考えたからです。

サーフェスに合わせて、時にフォアフット、時にヒール着地、で走る。そして走りやすいセクションではミッドフットで走る。スピードを上げる際にアウトソール全面の力をリターンするイメージで走ると、飛び跳ねる感覚を味わえます。何より恐怖心を捨てて攻めることができる。それが〈TenNine〉の魅力と感じました。

今〈TenNine〉を打ち出す理由

以前〈HOKA ONE ONE〉に〈CLIFTON 6〉のアップデートは〈CLIFTON 3〉を連想させるとして取材した際、「〈CLIFTON 6〉は〈CLIFTON 2〉や〈CLIFTON 3〉の頃に回帰したわけではなく、今の〈HOKA ONE ONE〉の技術、テクノロジーを持って、当時ではまだ届かなかったレベルへ到達することができたということです」との回答を得ました。

なぜ今〈TenNine〉を発表したのか?しかも数量限定で。これは推察ですが、スローガンでもある〈TIME TO FLY〉を追求するメッセージなのでしょう。原点回帰的な部分と、今あるテクノロジーを持って、ユーザーを驚かせる、ワクワクさせる、楽しませる。そんなことを考えていることが伝わってきます。

〈HOKA ONE ONE〉のシューズ(〈TenNine〉はギアを謳っていますが)はこれまでにも多くのモデルを履いてきましたが、走りながら「そんなに跳ねるの?」「君は走らせるねえ」とか「意外とクッションないんだ」などなど、走りながら、対話している感覚を得られます。それが楽しい。どのモデルも特徴が明確にあり、ブランドとして、シューズの個性を重要視しているのがよくわかります。〈HOKA ONE ONE〉のシューズは遊びの道具。〈TenNine〉はそれを改めて表現したシューズなのだと思いました。

何より、ファッションブランドのシューズでもない、走るためのギアでありながら、このルックスに至るのが〈HOKA ONE ONE〉らしい。厚底シューズを世に生み出したブランドらしい、常識を破壊するイノベーションでまた遊ばせてもらえることを期待したいと思います。

HOKA ONE ONE オフィシャルサイト https://www.hokaoneone.jp