「バズレシピ」と称したキャッチーな自炊レシピが人気の料理研究家リュウジさん。家にいる時間が増え、自炊への関心が高まる中でその活動がより注目を集める彼に、自炊の喜びや健康、そして歳を重ねることについて訊いた。
プロアスリートも注目の自炊レシピ
リュウジさん自身は、身体を動かすのは大の苦手だと照れ臭く笑うが、日々レシピが投稿される彼のTwitterアカウントのフォロワーには、トップアスリートが大勢いるのだという。
「Twitter公認マークがついたアカウントにフォローされると、どなただろうと見に行くんですが、サッカーや水泳、バドミントンの選手だったりするんです。実際にレシピの料理を作ってくれている人もいて、僕の濃い目の味付けが、代謝のいいアスリートの方に受けているのかもしれませんね」。
リュウジさんは、「体に悪い食べ物なんて存在しない」という哲学を持っている。そして、大の外食好きでもある。健康を考えると一般には避けられがちなラーメンやハンバーガーも気兼ねなく食べている。「1日の塩分摂取量を超えなければ、食べたいものを我慢せず食べる方が健康ですから」とからから笑う。
とはいえ、昼にハイカロリーなものを食べたら、夜は低糖質なものを摂るように工夫している。欲望に忠実な昼の料理は「悪魔」、食べることに罪悪感のない夜の料理を「天使」と名付けて、交互に食べるようにしているのだとか。ストレスなく食を楽しむためのこの方法は、『リュウジ式悪魔のレシピ』(ライツ社)として書籍にもまとめられた。
健康を食事だけに託さない
「『食が健康を作る』とよく言われますけど、健康を食事に任せすぎだと思うんです。健康をつくるのはあくまで自分です」
と、健やかでいることに関して真摯な姿勢を貫いている。
美味しいものを食べる喜びを知っているからこそ、美味しいものを紹介したい。毎日のレシピ考案の源には、そんな想いがある。「バズる」ことを念頭に置いたキャッチーなレシピ名や、配信動画で見せる気さくなキャラクターから、ともすれば天真爛漫なお気楽者に思われがちだが、料理研究家として深く熱い信念を持っている。
「人はなぜ料理をするのか? それは美味しいものを食べたいからだと思うんです。そして、レシピとは簡単であれば簡単であるほど優秀です。料理研究家にとって、手間がかかる料理よりも、簡単なものを生み出す方が難しいんです。手間をかければ、当然美味しくなりますから」。
簡単さにこだわる理由は、一人でも多くの人に料理をしてほしいからだ。リュウジさんは料理をすること自体がとにかく楽しくて仕方がないという。料理を手間だと考える人の多さに絶望し、だからこそその楽しみを伝えたいと奮起するほどに、料理が大好きなのだ。それは嬉々としてキッチンに立つ配信動画を見ても明らかだ。
「僕はエゴでしか動いてないんです。とにかく一人でも多くの人に自炊を、料理をしてもらいたい。この楽しさを知ってもらいたい。その気持ちだけなんです」。
手軽に作れて美味しい、バズるレシピ開発は料理愛から生まれているのだ。
高齢者施設で生まれた鉄板レシピ
本連載では、前向きに歳を重ねていく新しい加齢のあり方「プロダクティブ・エイジング」を、第一線で活躍するみなさんの姿勢と言葉をヒントにして考えている。興味深いことに、いま第一線で活躍するリュウジさんのレシピ代表作は、加齢と向き合う中で生まれたものだという。
シャキシャキの食感でいつまでも食べられてしまう『無限キャベツ』は、リュウジさんが料理研究家としてスタートする前からのレシピ。それが生まれたのは、当時働いていた高齢者施設だったという。
「硬いものを食べられない方に栄養バランスを整えてもらうには、と考えて生まれたレシピです。切ったキャベツに湯通しをすることで柔らかく、でも食感を残せる“しなシャキ”な『無限キャベツ』は、僕の最初期のレシピの一つですね。当時は50人分のキャベツにお湯をかけていました(笑)」。
リュウジさんの代表レシピである無限キャベツ。心地よい食感で、食べ始めると止まらないことから「無限」の名がついた
料理は年齢関係なく楽しめるコンテンツ
実際、いまのリュウジさんのレシピには、高齢の方からの引き合いも多い。
「料理は年齢の隔てなく、誰でも楽しめるコンテンツだと感じています。僕のレシピは大家族向きというよりは、少人数向けですが、扶養家族の少ない高齢の方には本を買って、実際に作ってくれる人も多くて。嬉しいことです」。
リュウジさん自身は、これからの将来をどう描いているのか。
「飲み歩き番組をやってみたいですね。このおつまみが美味しい! って褒めながら飲み歩くんです。料理研究家の視点で外食を見ると、リスペクトが止みません。そんな料理の工夫や探究を読み解いて紹介したいですね。料理にまつわる『いいな』を褒め続けていたいんです」
どこまでもポジティブで、料理好きな人。リュウジさんがこれからどんな食文化を切り開き、伝えてくれるのか。楽しみでならない。
リュウジさんの夏のおすすめレシピ
日本列島の長かった梅雨も明け、今度は夏バテが気になる季節。夏にぴったりなレシピをリュウジさんに紹介してもらった。力の出るこのレシピで、美味しく健やかに夏を楽しみたい。
かつおのたたきの塩ポン酢丼
かつおのたたき100gを、白だし(小さじ4)、塩(2つまみ)、ごま油(小さじ1)、レモン汁(小さじ2/3)に10分ほど漬けます。それをご飯にのせ、切ったミョウガと小ネギ、ゴマを散らします。好みでおろしにんにくやおろししょうがを加えてもOKです。白だしにレモン汁を混ぜることで、塩ポン酢のようになって、食欲の無いときにもさっぱりと召し上がれますよ。
納豆のなめろう
納豆(2パック)、みょうが(1個)、大葉(5枚)、生姜(10g)、味噌(小さじ1半)、白だし(小さじ1)、旨味調味料(少々)を包丁でがんがん叩くだけで完成です。ご飯にも合いますよ。ポイントはすごく叩くこと。引き割り納豆くらいまで叩いてください。一緒に加えた野菜をなじませます。一口で全部の材料の味がするのがなめろうのいいところですから、大葉やミョウガといった夏の味覚を一緒に楽しんでください。体にもいいですよ!