世界中で生活様式が変化した2020年は、これまでになく人と「走ること」の距離が縮まる1年になるかもしれない。 ASICS(アシックス)がグローバルキャンペーンとして呼びかける #RunToFeel と連動して、onyourmarkでは生活にランがある3名のランナーに登場してもらい、それぞれのランニングとライフスタイル、そして走ることと人生の関わりについて訊いていく。第3回は、学生時代に箱根駅伝を目指した玉澤悠輝さん。市民ランナーとして今も毎日走る彼の、ランニング観とは。
学生時代、そして社会人になってもランニングには競技として打ち込んできた。転職を機に実業団チームを離れて5年。「いまは“市民ランナー”です」と笑う玉澤悠輝さん。これまでの人生で想像を絶するほど走ってきたであろう彼が、今日も市民ランナーとして走り続けるのは、一体なぜなのだろう。
勝利街道をひた走る玉澤少年
玉澤さんの「走る」原体験は、多くの人がそうであるように幼少期、運動会の徒競走にさかのぼる。すでに、勝利に見初められたランニングキャリアがそこにはあった。
「幼稚園の頃から足は速かったんです。かけっこは1番でした。でも、学年に男の子が4人しかいない田舎だったので、本当に速かったのかはわかりませんけど(笑)」
実際のところ、玉澤さんは本当に速かった。小学校でもその俊足ぶりは注目の的だった。中学校に上がると、陸上部にスカウトされ、そこからランニング競技人生が始まった。1500m、3000mでは千葉県大会で優勝。アンカーとして走った駅伝でも30秒差を逆転し県で優勝、全国大会への出場を決める。全国では2位という成績を残す……順風満帆すぎる戦績の数々。
ランニングは「浄化」
進んだ高校でも活躍が期待されたが、増え続ける練習量にケガを頻発。初めて、立ち止まって考える時間ができた。10代前半からずっと走り続けてきて、いきなりのストップ。しかし走ることが嫌だとは全く感じなかったという。
「もともと走るのが好きなので、怪我をしていた時期も走るのはイヤにはならなかったですね。走ることで、気持ちが浄化されるんです。追い込む・追い込まないは関係なくて、走ることで精神が清くなっていくというか……そういう感覚を小学校の頃から今まで感じています」。
玉澤さんの走る原動力は、勝利の感触を味わうことでも、肉体的な限界への挑戦することでもなく、走ること自体が好きだというピュアなこの気持ちだ。
大手町でチームメイトを迎えた箱根駅伝
関東の大学で陸上長距離に専心する学生にとって、箱根駅伝は最大の目標のひとつ。城西大学に進んだ玉澤さんも、憧れの舞台に立つために日々の研鑽を積んだ。大学4年次に、玉澤さんは12人の箱根駅伝チームに選抜された。だが、最終10人の走者リストに入ることは叶わなかった。出場選手として現地入りをしたものの、箱根路を駆け抜けるという夢は叶わなかった。
「メンバーには入ったのでショックは少なかったですが、それでも最後にゴールの大手町で、仲間たちを迎えるのは精神的には辛かったですね」。
玉澤さんと同学年の、東洋大学・柏原竜二選手が『山の神』と称され、4度目の区間優勝を遂げたこの年。箱根駅伝の人気と注目が高まるその渦中にあって、玉澤さんは人知れず唇を噛んでいたのだった。
無理をしない市民ランナーになったら、自己ベスト更新
大学を卒業後、実業団で数シーズンを走り、転職を機に引退。立場としては“市民ランナー”となったが、玉澤さんはそれをとても楽しんでいる。
「実業団時代から市民ランナーチームの練習に加わって、ランニングの全体的な視野を広げていきました。本格的に競技をしていると、ゆっくり走るファンラン的なコミュニティとはどうしても距離ができてしまいます。競技は未経験でも、楽しんで走っている人たちの考えにも触れてみたいと思って一緒に走ることも増えました」。
フルタイムワーカー。限られた練習時間。しかし、フルマラソンの自己ベストを更新したのは“市民ランナー”になってからだ。自分には短い練習時間の方が合っているのかもしれません、と笑みがこぼれる。生活時間にランニングを合わせながら、パフォーマンスを向上しているとは驚きだ。
「中学生の時からラクをして勝ちたいという考えの持ち主だったので(笑)、効率よくやることを考えるのは好きですね。普段のジョギングは速いペースで走るようにして、それをどれだけ脱力しつつ維持できるかをテーマにしています。ポイント練習も、周りが30km、40kmと走る中で自分は25kmまでと決めています。それ以上だと体のダメージと、怪我が怖いので」。
周囲が距離を踏んでいるのに、自分は短く切り上げる。最初は人と違うことをすることに怖さを感じたという。走れる人にとっては、25kmはあっという間だ。40km走って安心しておきたい、という気持ちもわかる。それでも自分の身体に耳を傾け、使える練習時間とのバランスを探って、今の形に落ち着いた。無理なく、パフォーマンスを上げる。理想のランニングとの付き合い方に思える。
今だからこそ駅伝を走れる喜びを
その競技生活を通じて、駅伝に酸いも甘いも味わってきた玉澤さん。私たち日本人には“駅伝”という言葉は馴染みこそあれど、実際に駅伝を走ったことのある人はそう多くないだろう。
ASICSはこの11月、#RunToFeel キャンペーンの一環として、ASICS Runkeeperアプリを用いて世界中のランナーがチャレンジできるバーチャル駅伝ASICS World Ekiden 2020を開催するという。6人1チームで、6区間、合計42.195kmを走破するというバーチャルチャレンジだ。デジタルたすきも用意されるというから、これまで駅伝を走ったことのない人にも、そのエッセンスを感じられるチャレンジになりそうだ。
市民ランナーの玉澤さんなら、このバーチャル駅伝をどう楽しむのだろうか。
「2つチームを作ってやりたいですね。ひとつはタイムを狙うチーム。もうひとつは、楽しく走るチーム。本番に向けて、みんなでコミュニケーションをとって、練習をして。ガチンコの練習もしたいし、普段行かないようなところでファンランをしてチーム感を高めたりするのも面白そう」。
“駅伝”が “Ekiden”として世界中に開かれることにもやはり嬉しさがある様子。
「日本の文化である駅伝ですが、今回のバーチャルイベントだと世界の人たちも参加できるので、もっともっと広がって欲しいですね。僕も11月にはチャレンジしてみたいと思います」
歯を磨くように、走る
2チームで駅伝を楽しみたいと語るその姿。はたから見ると玉澤さんとランニングの付き合い方は自然体そのものだ。今は勝利やタイムに急き立てられることもなく、自分のペースを見つけて走っている。でもやはり、それは玉澤さんがランニングを本当に好きだからなのだろう。
「やっぱり走ることそのものが好きなので。走ることはライフスタイルの一部だから、自分にとって走らない方がおかしいくらいです。歯磨きみたいなものですね(笑)」。
今日も玉澤さんは、どこかを走っている。明日も明後日も、その翌日も。