これまで日本のランニング人口の増加に大きく寄与してきた東京マラソン。今年10月17日(日)に開催予定の東京マラソン2021に合わせて、世界各国からランニングアプリで参加可能なバーチャル東京マラソン2021が初めて開催されます。
このバーチャル東京マラソン2021では、9月18日(土)から東京マラソン2021の前日である10月16日(土)までの約1ヶ月間でフルマラソンやハーフマラソンの距離を累積で走ることを目指します。
東京マラソンのレースディレクターである早野忠昭さんにバーチャル東京マラソン2021やこれからの東京マラソンの展望、日本や東京のランニングスタイルのあり方について伺いました。
バーチャルでランニングの間口を広げたい
OYM:今回、バーチャル東京マラソンを始めるにあたり、どのような狙いがあるのでしょうか。
早野:例年、東京マラソンには定員の10倍を超える申し込みがあります。多くの東京マラソンファンの方に参加の機会を広げるために、バーチャルイベントに取り組んでいます。バーチャルでも東京マラソンらしさを感じられるよう、参加メダルを用意したり、本大会への出場機会の提供も行っています。『バーチャル東京マラソン』と銘打ったイベントは今回が初めてですが、バーチャルでの取り組み自体はすでに2016年から始めています。
実は東京マラソンが始まって間もない頃からバーチャルマラソンの構想がありました。東京マラソンをバーチャルの仮想コースで走ろうというアイデアです。たとえば地方に住む方が東京マラソンに参加する場合、出場権を得てから大会当日まで、レースプランや東京観光のスケジュールなど、さまざまな計画を立てると思います。そんな時にバーチャルコースがあったらどこに寄るとか、どこを走るとかシミレーションができるかもしれない。EXPO会場も仮想空間にあったりね。昔流行った〈セカンドライフ〉のランニング版のようなイメージです。地方から参加されたランナーが、地元の友達に東京マラソンの写真を見せたら、周りの人も影響されて東京マラソンを走りたくなるかもしれない。それでも東京に行くのが難しかったり、出走権が当たらなかったらまずはバーチャルで参加してみるのもいいかもしれない。常々そんな想定をしていました。
OYM:東京マラソンを走るとなると練習を積み、42.195kmを完走する走力をつけなければいけません。対してバーチャル東京マラソンでは1ヶ月の累計距離でフルマラソン完走を目指すといったところで、参加者の広がりも意識されているのでしょうか。
早野:先日オリンピックがありましたが、レースを見て感銘を受けて走り始めた人も多いと思います。しかし、目標がなく近所を走るだけでは継続するのが難しいと思います。とはいえ、初めからフルマラソンを目標とすることはハードルが高く感じられるでしょう。フルマラソンのワンステップ前にランニングを始めたばかりでも挑戦できるバーチャル東京マラソンがあることで、その経験を自信にランニングの継続や東京マラソン出場に繋げてほしいですね。
私は以前より「フュージョンランニング」を提唱しています。「Fuse Anything You Like into Running」、好きなものとランニングを融合させて楽しもう、といった考え方です。夕方ビールを飲むために走る、好きな音楽を聴きながら走る、日常生活の一部としてランニングを楽しむことで、新しいランニング文化が日本に定着してきました。バーチャル東京マラソンがランニングライフスタイルを継続するステップとなってくれたらと思っています。
ランニングライフスタイルを当たり前の日常に
OYM:コロナ禍で私たちの生活が大きく変化する中、東京マラソンやランニングの意義で新しく見えてきたものはありますか。
早野:健康でいるために、ランニングなど身体を動かすことの大切さが浮き彫りになりました。コロナ禍以前から、ポスト2020では、高齢化社会や医療費は避けて通れない問題だと言われていたことから、タイムを目指して走り込むランニングだけではなく、健康に過ごすためのランニングライフスタイルが評価される世の中を作っていきたいと考えていました。私自身も毎日妻と一緒に6kmほど走ったり歩いたりして、実践しています。フュージョンランニングのように楽しみながらランニングをしていたら、結果的に健康になれた、そんな形が理想的ですね。
スマートウェルネスシティという言葉があるように、便利さの中にウェルネスは欠かせないと思います。世の中の技術が急激に進み、「スマートシティ」という言葉が根付きだした時、いろんなものが便利になり、移動などの煩わしさも取り払われる一方で、今後は“自分で動かなくても良い”というシーンが様々な場所で増えていくなと感じたんですよね。なので、ランニングやウォーキングで調和をとっていく社会を奨励していきたいと思ったんです。私はアメリカのランニングが盛んなボウルダーという街に住んでいたことがあり、そこでは老若男女、体型に関わらずさまざまな人がランニングを楽しんでいました。山や川も近く、走る環境が整った地域です。夕方にはカフェやバーで「今日◯km走ったんだよ」なんて会話が挨拶代わりで。ランニングが当たり前のように日常の中にある、そんな社会を日本でも実現したいと思っています。
編集部もバーチャル東京マラソン2021に挑戦します
マラソンと聞くとストイックなイメージがありましたが、早野さんのお話を聞くと、もっと気軽に考えれば良いんだ! とランニングのさまざまな楽しみ方に想像が膨らみます。編集部もバーチャル東京マラソン2021に参加予定です。なかなか走るきっかけがない人や、目標を探している人は、ぜひバーチャル東京マラソン2021に参加してみませんか。