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前回はトレーニングの頻度を決めるためのポイントとなる超回復と休養のお話でした。今回も、トレーニングの3つの要素(強度、頻度、時間)の中から、強度をテーマにお話します。

持久系スポーツのトレーニングで、強度というのは、ランで言うところの走速度のことです。3つの要素の中で、もっとも大事な要素と言えます。とは言っても、トレーニングは高い強度で行うほど効果が大きいという意味ではなく、適切な強度でトレーニングを行うことで効率良く効果を引き出せるというもの。

自分にとって適切な運動強度って?

トレーニングはいつも同じ強度で行うよりも、様々な強度のトレーニングを組み合わせることで効果がアップしていきます。そこで、ランナーなら、異なるスピードや距離で行うメニューをうまく組み合わせて、全体のパフォーマンスを上げていこうとするのですが、自分にとって適切なトレーニングの強度というのは、意外とよく分からなかったりします。

普段から心拍計を使っている人でも、運動中の心拍数をモニターしているだけで、それがどういった意味があるのかはよくわからないという人も多いようです。運動強度によってトレーニングの目的も変わってくるので、心拍数によってターゲットを決めておくと効果的です。

ベース・ゾーンのトレーニング

アスリートでも、健康促進を目的としたフィットネス指向の人でも、どんなレベルの人にも共通となるのが、運動強度が比較的低いベース・ゾーンのトレーニング。主観的運動強度で言えば、「かなりらく」や「らく」といった感覚、心拍数なら最大心拍数の50%〜70%程度といった強度です。このレベルのトレーニングは、らくではあるけれども効果が少ないという訳ではなく、運動生理学的にはとても重要な意味があるのです。

このレベルの運動をゆっくりと時間をかけて行うことの最大のメリットは、遅筋線維の周りに毛細血管が発達し、遅筋線維の細胞内のミトコンドリアの量が増えていくことです。それにより、呼吸で取り込む酸素が素早く全身の筋肉に行き渡り、主動筋の酸化能力が高まっていきます。

さらに詳しく説明すると、乳酸の酸化能力(糖からエネルギーを取り出したときの副産物として出来る乳酸をもう一度エネルギーとして使うことが出来る能力)や、脂肪からエネルギーを取り出す能力が上がるということで、簡単に言えば、省エネの体になり、より長く運動を続けられるようになるというわけ。よく有酸素運動が脂肪燃焼効果の高まる運動、と言われたりしますが、これはこのレベルの運動が主動筋の酸化能力を高めるからなのです。

また筋温を温めるという効果もあります。スポーツを始める前のウォーミングアップなどにも最適なゾーンですね。

エンデュランス・ゾーンのトレーニング

ベース・ゾーンのトレーニングを続けていくと、だんだんとスポーツするための身体の基礎が出来てきます。次はレースに参加してみたい、気持ち良く走れるスピードを高めていきたい、というように、スポーツする目的も少し変わってくるかもしれません。そこで、より実戦的な持久的能力を高める目的で取り組むのが、エンデュランス・ゾーンでのトレーニングです。

これは、主観的運動強度でいうところの「ややきつい」と感じ始めるけれども、このペースであれば続けていけると思えるレベル、心拍数で言えばおよそ70〜80%HRMax程の強度で行うトレーニングです。だいたいLT前後からOBLAまでの範囲と考えられます。レースと同じくらいかそれより少し下の強度で行うトレーニングなので、競技のパフォーマンス向上に直結するレベルと言えます。

心拍数によってトレーニング・ゾーンを決める場合、適切な心拍数は、行うスポーツの種目によっても、年齢やトレーニング経験などによっても個人差があります。この記事はあくまで一般論として読んで頂き、みなさんにとって最適な強度は主観的運動強度や疲労具合などを考慮しながらみなさんで探してみてください。種目毎の上昇幅ですが、自分の経験上、ランニングはスイムやバイクに比べて心拍数が上がりやすく、バイクとランを同じ心拍数で管理しようとすると、バイクがきつくなり、ランがらくになります。自分の場合のエンデュランスのターゲットは、バイク:80〜82.5%HRMax、スイム:75〜80%HRMax、ラン:83〜86%HRMaxというように少し変えています。

エンデュランスよりも高いレベルでのトレーニング

エンデュランスよりもさらに高い強度でトレーニングを行うことことは、スピードとパワーを向上させ、最大酸素摂取量(VO2Max)向上、呼吸循環器系の能力向上といったように、競技レベルを上げるにはとても有効な方法と言えます。しかし、ほとんどの人にとって、最大心拍数に近い強度で安全にトレーニングを行うことが出来る時間は、かなり限られます。インストラクターの指導のもと、適切な強度のトレーニングを行うことをお勧めします。

次回は、スピード・トレーニングをメリット、デメリットの両面から考えながら、それぞれのカテゴリーにおける練習量のバランスについてお話したいと思います。

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT
#08 トレーニングの原理と原則
#09 トレーニングの頻度と超回復

監修者:肥後徳浩

元自転車競技選手。自転車選手時代にコーチから学んだトレーニング理論をベースに、方法よりも目的を生理学的、力学的に「理解する」ことと、体の反応を「感じる」ことを大切に、日々トレーニングに取り組んでいる。音楽レーベル「Mary Joy Recordings」主宰。
www.maryjoy.net