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前回、トレーニングは目標とするレースや試合の日から逆算して、目的毎に複数の期に分け、本番にピークが来るようにデザインする、という話をしました。今回は、1週間のトレーニング・プログラムのデザインをテーマにお話したいと思います。

レースや試合に向けた大きな計画を立てることは、デザインでいうところのデッサンに似ています。マラソンなら目標タイムや順位、球技や格闘技なら成績、勝利といったものをイメージし、それに向けたトレーニングの筋道を描いていきます。みなさんご存じの通りどんなに質の高いトレーニングを行ったとしても、1度だけではパフォーマンスはほんの少ししか良くなりません。トレーニングは、点ではなく線を描いていくことで、パフォーマンスもコンディションも高めていくことが出来るのです。

線で描くトレーニング・サイクル

ほとんどのトレーニングは、まず身体の土台を作るベース・トレーニングから始まります。この間は、実戦的な戦術練習をほとんど行わず、有酸素運動や筋力トレーニング、柔軟性を高めるストレッチや身体の機能を高めるコンディショニングなどに多くの時間を費やします。その次にスピードやパワーなどを強化するビルド・トレーニングでパフォーマンスを高め、テーパーリングでコンディションを高めていきます。

このようにトレーニングを目的毎に期分けしたやや大きな周期を「メゾサイクル」と言い、一つのメゾサイクルは3週間から4週間(長い場合は12週間ほど)で形成されます。メゾサイクルは、ベース、ビルド、テーパー、レース、回復といった流れで、このサイクルをひとまとめにして「マクロサイクル」と言います。

1週間のトレーニングをデザインしよう

1週間のメニューのことを、トレーニング・サイクルでは「ミクロサイクル」と言います。今週は何曜にどんなトレーニングをしようかと考えて、仕上がったデザインをメゾサイクルのフレームの中にレイアウトしていきます。

1週間は7日ありますが、毎日のメニューを真剣に考えるのは複雑で難しいかもしれません。また、その日の体調や疲労度に応じて臨機応変にメニューを決めるくらいのゆとりがあったほうが、オーバー・トレーニングや故障を起こしにくくなります。そこで、まずは週のうち「これだけは確実にやろう」というポイントを2、3日決めておき、それ以外の日はやれたらやる、くらいの余裕を残しておきましょう。むしろトレーニングをやり過ぎる人にとっては、休養日こそ計画的に決めておくべきかもしれません。

1週間プログラムのデザイン例

次のグラフは、マラソン・トレーニングをするonyourmark running clubのある週のメニューです。こちらは、水曜に短時間の高強度トレーニング、土曜に中強度のロング走、日曜に低強度のLSDを行い、週に3つのピークを作っています。月曜と木曜に回復のための休養日を配置しています。

次のグラフは、ある実業団ロード選手のレースの無い週の1週間のトレーニング・メニューです。これは、水曜と日曜、2つのピークのあるミクロサイクルの例。火曜と金曜には脚のパワーを強化するためのトレーニング、木曜には心肺機能強化のための高強度トレーニングを行っていますが、いずれも短時間です。月曜には積極的休養をとり、土曜にも回転重視の流しを行うなど、回復も計画的に行いますが、量・質・密度ともに競技者仕様です。

二つは、トレーニングの総量や質の高さ、密度には違いがありますが、共通する点は、どちらも強度と量に変化をつけたトレーニングを回復のための休養日を挟みながらレイアウトしていることです。このように、ミクロサイクルのデザインでは、強度と量、密度の3つの要素がポイントになります。(密度(=頻度)に関しては過去記事:トレーニング座学09を参照ください

ミクロサイクルは、同じ強度、同じ量のトレーニングを延々繰り返すのではなく、1週目→2週目→3週目と徐々にボリュームを増やし、4週目で少し落とす、というように週毎に総量を変えていきます。さらに、メゾサイクルがベース→ビルド→テーパーと変わるにつれて、量や強度、トレーニング内容も変化させていきます。

このように、時間が進むにつれ強度や量が変わっていくことを変量というのですが、次回はメゾサイクルとトレーニングの変量について、ご紹介したいと思います。

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT
#08 トレーニングの原理と原則
#09 トレーニングの頻度と超回復
#10 トレーニング強度 ベースとエンデュランス
#11 トレーニング強度 スピードトレーニング
#12 トレーニングのデザイン(1)

監修者:肥後徳浩

元自転車競技選手。自転車選手時代にコーチから学んだトレーニング理論をベースに、方法よりも目的を生理学的、力学的に「理解する」ことと、体の反応を「感じる」ことを大切に、日々トレーニングに取り組んでいる。音楽レーベル「Mary Joy Recordings」主宰。
www.maryjoy.net