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この夏、トレイルレースに向けた練習メニューに取り組んできたOYM running clubの小矢島です。7月の初めはトレイル経験値0だったわたしも、これまでレポートしてきた大山、富士山を始め、近所の砧公園(土の未舗装路を走ることができます)、フジロック会場周辺の山々、高尾山、etcと、ランシュー持参で出かけては、少しずつトレーニングを重ね、目標レースをケガなく迎えることができました。わたしにとって初レースとなった「OSJおんたけスカイレース」、当日の様子を振り返りたいと思います。

600人が一斉にスタート

快晴となった8月26日(日)の早朝、御嶽山の麓にある大滝小学校の校庭には、バックパックを背負ったランナーが集まり始めました。山が舞台となるトレイルレースは、数百人規模の大会が多く、このレースのエントリー数も600名、うち女性は68名とのこと。
これくらいの人数だと知り合いも見つけやすいのか、あちこちで挨拶を交わす声が聞こえ、スタート前はとても和やかな雰囲気に。わたしも、これまで練習をともにしたメンバーや、Facebookで繋がっているラン仲間と一緒のエントリーだったので、かなりリラックスした気持ちでスタートを待つことができました。
朝7時、神主さんによる安全祈願に続き、御嶽山に向かって、参加者全員で二礼二拍手。無事の完走を願ったあと、いよいよ一斉にスタートです。

全長37kmのコースのうち、最初の4kmは登りの舗装道路が続きます。気温はぐんぐん上昇し、なかなかの急勾配がさっそく心肺に堪えますが、ここは自分なりのペースで走りきることができました。大山や富士山で上り坂の練習をしていたのにプラスして、宿泊していた宿が道の終点近くにあり、どの程度の登りが続くのか事前に把握できていたこともよかったようです。トレイルレースでは、コースを知っていることが大きなアドバンテージになるので、試走が大事と言われます。序盤のわずかな道のりでも、それを感じることとなりました。

林道、スキー場を抜けて第一関門へ

川のせせらぎを近くに感じながら、しばらくは涼しげな林道を進みます。砂利道の林道はところどころ走れるのですが、だんだんと歩き出す人も増えてきました。まだレースは始まったばかり。少し体力を温存するつもりで、緩やかな傾斜のところは走ったり、がれ場が続くところは早足で登ったり、富士山の吉田口遊歩道から5合目までの練習を思い出しながら、ここはマイペースで進んでいきます。
ただ、林道が終わる頃には、気温も30度を超え、それに続くスキー場の登りは、かなり身体に堪えました。短い草が生えるばかりのスキー場は、強い日差しを遮る木陰もなく、眺望が開けている分、先の遠さも分かるので、いまいち進んでいる感じがしないのです。
足下の野花やスイースイーと頭上を飛んでいくトンボに気を紛らわしつつ、辛抱強く足を上げ、第一関門である七合目の田の原(標高2,180m)には、2時間50分で到着。ここの制限時間は5時間だったので、とりあえずはまずまずのペースです。

トレイルレースは、標高差の少ないコースを走る縦走系と、山頂を目指して登るピークハント系の大きく2つに分かれます。ピークハント系のおんたけスカイレースは、スタート地点の大滝小学校(933m)と御嶽山山頂(3,067m)とで2,134mの標高差があり、3,000m級という山の中でも身体を動かし続けられるかどうかが、大きなポイントになります。

当然、装備と補給食も、標高差と運動時間を考慮しながら、それなりの準備が必要です。3,000mを超える山の天気は変わりやすいのでレインウエア、そして霧で視界が悪くなっても動けるようにヘッドライトは大会規定で必携となっていました。
また、レースの制限時間は11時間ですが、今の自分の走力を考えると9時間以上はかかるはず。ということは、走っている間に少なくとも1,500〜2,000kcalはエネルギーを補給する必要があります。(トレーニング座学03を参照)
レースに備えて総菜パン×2、スポーツ羊羹5本、ジェル5つ、エナジーバー1本、BCAA+アミノ酸を溶かした水1L、ポカリスエット500mを用意したほか、レインウエアとヘッドライトを詰め込んだら、4Lのバックパックは一分の隙間もないくらいパンパンになってしまいました。
本当は、この倍の大きさのバックパックでもよかったくらいのはずですが、極力身軽に走りたいという気持ちもあり、結局は、水分や食料の予備をまったく持たないという選択肢を取ることに。
水分の方はエイドステーションで補給すればいいという算段だったのですが、食料に関してはちょっと自分を過信していたようです。それゆえ、田の原の関門で用意されていたバナナとオレンジは、思いがけないごちそうでした。立ち止まる時間も惜しいロードレースと違って、しっかり補給&休息を入れるのが、トレイルレースでは鉄則です。たっぷりと水分補給もして、念のためトイレにも立ち寄ります。

ここからがやっと本番

運営ボランティアのおじさんが、「ここからが本番だよー」と嬉しそうに声をかけてきました。田の原の鳥居をくぐっていざ登山道へ。砂利道をしばらく行くと、雄大な御嶽山がどんどん目の前に近づいてきます。霊山でもある御嶽山には、あちこちに神様が祭られていて、山岳信仰の行者がたくさん参拝に訪れます。
「先は長いよ、がんばってね〜」。すでにご来光を拝んで下山する登山客の皆さんはすれ違うとき励ましの声をかけてくれるので、「ありがとうございます!」とこちらも声をだして応えます。

たまに木や岩の階段もありますが、ほとんどがごつごつとした大きな岩のがれ場が続き、ここは辛抱強く一歩一歩登っていきました。傾斜が急なところも多く、油断すると足下がぐらついて、ヒヤッとする瞬間も。田の原から御嶽山山頂までは、距離にして3.5kmですが、どれくらいの時間がかかるのか、いまいち見当がつきません。
とにかく淡々と足を進めていると、「トップ選手が来たぞー!」。八合目(2,470m)辺りで、優勝候補の松本大選手とすれ違いました。急ながれ場をひょいひょいと、軽やかな足取りで駆け下りていきます。おんたけスカイレースでは、山頂のお鉢巡りがあり、それに2時間はかかると聞いていたのですが、それも終わってもう下山しているなんて!
結局、優勝した松本選手の記録は、4時間47分45秒。とりあえず完走を目指すわたしにとっては雲の上のような人ですが、この先もすれ違うトップ選手たちの勇姿に、たびたび元気づけられました。

急ながれ場を駆け下りていく松本大選手。

また八合目ではもうひとつ嬉しい出会いも。これまで練習をともにしてきたonyourmarkユーザーのカズミさんと、いつの間にかペースが一緒になっていました。スタートしてから4時間が経過し、そろそろお腹も空いてきた頃。どちらからともなく腰をかけて、持参したパンやジェルを補給します。
「うわー、すごい景色ですね!ずっとあそこから登ってきたんですよね」。
目の前に広がるのは、美しく連なる深緑の山々、もくもくと大きな雲がすぐ近くに感じられます。遥か下の方には田の原の駐車場とそこから続く細い砂利道まで、これまで自分たちが登ってきた道をミニチュアサイズで確認することができました。生まれて初めて目にする中央アルプスの夏景色、まさに絶景の一言です。「トレランやっててよかったー!!」心からそう思える瞬間でした。

第二関門は御嶽山山頂で、制限時間は午後1時です。そろそろペースを上げて一気に登りたいところですが、九合目(2,700m)あたりから急に腕がむくみはじめ、バックパックの締め付けを苦しく感じるようになりました。高山病とまではいかなくても、高地での影響が身体に出始めたようです。たしかに富士山では七合目(2,820m)まで登ったのですが、そこで身体を慣らすことはあまり考えず、カップラーメンを食べて下山しただけでした。「七合目の先までいって、高山で身体を動かす練習した方がよかったかなぁ」。そんなことを考えながらも、とりあえず前に進むしかありません。我慢強く足を動かし、やっと御嶽山山頂にたどり着いたのは、午後12時より少し前。3.5kmの登山道を2時間かけて登ったことになります。

スカイレース名物のお鉢巡り

「あぁあああ、疲れたぁああ」。ちょっとヤバいくらいふらふらになった足を休め、ここでジェルとスポーツ羊羹を補給しました。普通なら、山頂にたどり着いてほっと一息というところですが、このおんたけスカイレースには、名物ともいえるお鉢巡りがついています。噂では2時間ほどかかるというお鉢巡り。森林限界をとっくに超えた御嶽山山頂は、荒涼としながらも、独特の美しさを携えています。この世の果てとも思える幻想的な景色の中、遠くに続く尾根をランナーたちがぽつぽつと進んでいく様子には、なんともいえない不思議な心持ちにさせられました。

イメージ的には平坦な道のりをぐるっと一周するのかと思っていましたが、想像以上にアップダウンが激しく、先の先まで続くがれ場をひたすら進んでいかなければなりません。
「これはしんどいなぁ」。そんなことを思っていると、急に視界が開け、エメラルドグリーンの大きな湖が見えました。日本で最も高い場所にある高山火口湖、二ノ池です。ここでもまた初めて見る山の景色に、「ここまでがんばって本当によかった」という感動に包まれます。

何人ものランナーに追い抜かされたお鉢巡りの終盤、登山道の終わりにすれ違った行者のおじさんに、「おお、さっきも会ったね、早いよ、がんばれー!」と声をかけられました。早いワケないのに……。ユーモラスな励ましに笑顔でうなずづいた後、ふいに涙腺が緩みます。ようやくお鉢巡りが終わって第三関門の御嶽山山頂に戻った時には、3時間が経過。予定より大幅に遅れ、制限時間の15時ギリギリになっていたのでした。

そしてまさかの……

「あれ、これはひょっとするとヤバいかも」。この時になって初めて、自分のおかれている状況をきちんと理解したような気がします。次の関門、田の原には16時までに戻らなければいけませんが、すでに足はフラフラ。シューズの中に入った砂粒が気になりますが、立ち止まって靴ひもを解く余裕も残されていませんでした。
「さすがに栄養補給しないとヤバいけど、それ以上に時間がヤバい!」とりあえず気力を振り絞って、登ってきたがれ場を、今度は一目散に下っていきたいところですが、いつの間にか足はガクガク。見た目にも明らかなほど、震えが止まらなくなっていて、一歩ずつゆっくり下りるのが精一杯に。これまでの練習では、下りが得意だと思っていたのに、それを発揮することもなく、結局田の原にたどり着いたのは16時15分。9時間走り続けた末に、最終関門の制限時間を15分オーバーして、DNF(Do not finish)となってしまったのです。

同じタイミングでDNFになった2人の男性とともに白いバンに揺られて、ゴール会場まで送られました。そこで目にしたのは、長旅を終え、ゴールゲートを笑顔でくぐり抜けていくランナーたち。ちょうどmasaomi_m編集長のゴールを見届けることもできました。
自力でゴールできなくて悔しいやら情けないやら。しゃくり上げて泣くわたしに、「でもトレランって楽しいでしょ?」と編集長が一言。
このあと、会場内で売られていた焼き鳥、焼きトウモロコシ、かき氷を食べ、八合目で出会ったカズミさんのゴールを迎え、初レースの長い一日が終わったのでした。

初レースを終えて

編集長の質問には、もちろん胸を張ってイエス!と答えられます。
正直、これを書いている今も、あそこであぁしとけば良かったと、逡巡せずにはいられません。(それだけではありませんが、主に栄養補給に問題が。持参したジェルを食べたのは結局1個。苦手意識をもう少し克服しておけばよかったし、スポーツ羊羹ばっかり5本も食べられませんでした……)
やっぱりゴールしたかった。でもそれ以上に、この機会を通じて、自然を走る楽しみを知り、たくさんのラン仲間と時間を共有できたこと、本当にいい経験でしたし、これからもずっとトレランは続けていくと思います。
そしてレースに出場したこの日は、週末に仲間と走る楽しさとはまた違った、格別な一日となりました。レース中に去来するさまざまな感情(楽しいだけではない、しんどい苦しいも含め)や、レースを通して味わう肉体の疲労度(極限状態)はひとそれぞれ、まったくの個人的な体験です。でも、同じレースに出場し、同じ自然環境の元でそれぞれのレースを走ったランナーとは、そのすべてを分かち合えるような独特の親密さを感じ、ゴールする一人ひとりに心から賞賛の拍手を贈ることができました。レース未経験の方はぜひ、一度はエントリーしてみることをおすすめします。
来年、おんたけスカイレースに出場される方は、大山、そして富士山の練習はきっと役に立つと思うので、参考にしていただければ。わたしもこの夏以上にトレーニングをして、来年こそはゴールしたいと思います。

【OYM家庭の医学 アーカイヴ】
♯01 trail編スタート
♯02 富士トレイル編

(文 小矢島一江 / 写真 松田正臣)