“ランニングは、9割辛くて、1割気持ちいい”。取材の合間に、ポロっと出たこのひと言を聞いたとき、この連載の3人目がGAKU(-MC)さんで良かったなぁ、と思いました。
たしかにそう表現したくもなる要素をランニングというスポーツは含んでいます。また多くの人がこのことを理解できてもいます。走る気持ち良さに100パーセント酔いしれることができるランナーもいれば、また一方で、走るけれども、やっぱり辛いよ、と思いながら、でもやっぱり走ってるランナーも多いのです。
GAKU-MC。「DA.YO.NE」、「 MAICCA」で一躍脚光を浴びたEAST END×YURI(イーストエンド プラス ユリ)で知られるヒップホップユニットEAST ENDのMCだった彼は、現在ソロのミュージシャン、プロデューサーとして活動中。ap bank Fesではおなじみの、スポークスマンとしての役割も担っています。そんなGAKUさんは、音楽業界きっての熱烈なサッカー、フットサル通でもあります。観戦だけでなく、いまだ現役のプレイヤーとしてフィールドを駆け回る。基本にボールを蹴ることがベースにあって、体力づくりのためのランニング、リフレッシュのためサーフィン、さまざまなスポーツが彼のライフスタイルを彩っているようです。
1996年の“マイアミの奇跡”
それまでサッカーが大嫌いだった
僕は高校一年の秋に、小学生から続けていたサッカーを一度やめているんです。当時はサッカー部のレギュラーをとれるか、とれないかという瀬戸際で、もういいか、と。買ったばかりのアディダスのジャージの活かしどころに困ったあげく、ヒップホップと出会うんです。ブレイクダンスをはじめ、でもレギュラー争いから逃げ出すようなへたれでしたから、当然ダンスもうまくならないんです。最終的には、ブレイクダンスの後ろで鳴っている音楽に興味が移って、マイクを握り始めました(笑)。
サッカーをやめ、ダンスもやめ、プロのミュージシャンになってからも、運動はとくにやってきませんでした。それが、1996年の“マイアミの奇跡”(アトランタオリンピックにて、日本代表がブラジル代表を破る快挙を成し遂げた)をきっかけにガラリと変わるんです。実は僕はそれまではサッカーが大嫌いでした。一度挫折したものでしたからね。部活をやめたときは、サッカー部の連中が横で練習なんかしていると下を向いて帰っていました。1993年にはJリーグが開幕して、サッカーが世の中を席巻し始めたときも、すごく斜にかまえていた。絶対サッカーなんて見に行かねぇ、と(笑)。チャラチャラしてんじゃねーよとかって思ってましたからね。
でも、日本がブラジルを破ったときにガーっと泣いた。日本すげえぜーって。そこからはやっぱりサッカーが好きなんだなって思えて。すぐにボールを蹴り始めました。仲のいい友達に声かけて、チームを作って、ユニフォームもつくって、僕の第二のサッカー人生がスタートしたんです。
雨の日や寒い日も走る?
いや、サボってるときもありますよ(笑)
とにかく今、サッカーを通じて知り合った人たちが僕の周りに溢れています。ミュージシャン仲間も、よく食べにいくご飯屋さんも、友達が友達を呼んでいるような状況です。
26歳でサッカーを再開して、当然かつてはできたドリブルができない、トラップもできない、ほんとにしょげまくったわけですけど、一からたたき直すんです。それで、またサッカーをやっていくと、当たり前のようにうまくなりたいという衝動にかられるんですね。うまくなるためにはグラウンドだけの練習だけでは足りない。で、まず大人はどうするかというと、良い道具を買う、そして良い試合を見に行く、でもそれだけではダメだと理解し、自分の体力をあげないといけないという事実に気づく。僕もそれで、走り始めたんです。
だいたい朝起きて、ご飯を食べる前に30分。それがいつものメニューです。近所の河原を走るんです。サッカーのために、試合中、前線でパスをもらった際に前を向けるように、そういう理由ではじめたランニングは、結果的に本業であるステージに活かされることになりました。2時間ぐらいのショーも、ヘロヘロでだらしない感じで終わってた頃もありましたけど、走り始めてからは平気になった。いろんなディレクターの方にも、声の出し方変わったねと言われましたし、それは自分でも自覚できたんです。仕事にもかえってくることが分かると、より楽しく、一生懸命走るようにもなるんです。
でも、今日は雨だからいいや、寒いからいいや、とサボってるときもありますよ(笑)。
僕には走る理由がある。
16歳の頃よりも42歳の今の方がうまくありたい。
一般的な話ですけど、サッカーも、バスケットも、野球も、何かしらのスポーツを学生時代に本気で取り組んできた人には、かならず、“引退”という区切りがあります。天皇杯やJリーグを目指しているような人がいて、自分の目指してきた大会が終わり、プロとしての道が切り開けなければ、一線を退き、あっという間に身体が衰え、観戦専門になってしまうこともあります。もうあの頃のように本気ではできない、と思ってしまう。でも、スポーツを楽しむということにおいては一生現役でいられます。
なにしろ僕は見るよりも、やる方でなんとか食らいついていたいと思っています。まだまだうまくなるんじゃないか、先週までできなかったトラップができるようになるんじゃないか、そう思って毎日を過ごしてるんです。だからサッカー部をやめる前の、16歳の僕よりも、現在の42歳の僕の方がサッカーがうまいと思っていますし、そうありたいと思っているんです。
たしかに体力は落ちてますけど、絶対的に引き出しは増えています。思うんですけど、こんな風にポジティヴに思えているうちは、スポーツはすごく楽しい。結局、すべては準備だと思ってるんですね。今でもときどき、高校生なんかを相手に試合をすることもありますけど、走り負けしてもずる賢いプレイで勝ったり、自分ひとりのパフォーマンスだけでは勝てないけどチームプレイで勝負したり、けっこうやれてるんですよ。もっとうまくなる可能性がある、と思えるから、ランニングだって続けることができるんです。
その気持ちが僕を朝起こしてくれて、走らせてくれているんだと思いますね。
3年ぶりのワンマンライブ決定!!
GAKU-MC ワンマンライブ
「マイクチェックワンツーワンツーワンツー」
開催日:2012年12月12日(水)
会場:渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
開場:18時30分
開演:19時00分
お問合せ:duo MUSIC EXCHANGE TEL:03-5459-8716
チケットぴあ:http://t.pia.jp/ 予約電話番号(0570-02-9999)
ローソンチケット:http://l-tike.com/ Lコード(72520)
イープラス:http://eplus.jp/
【オフビートランナーズ アーカイヴ】
#01 小松俊之(OnEdrop Cafe代表)競うだけがランニングじゃない
#02 GOMA(ディジュリドゥ奏者・画家) 生きるために走る
(スチール撮影 松本昇大/ムービー撮影 室伏努/ 文 村松亮)