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(文 中島良平)

 今年の5月6日、1発の強烈な左ボディブローで挑戦者をマットに沈め、7度目の防衛をKOで飾った世界スーパー・フェザー級王者の内山高志選手。歴代KO率日本一を誇り、「ノックアウト・ダイナマイト」の異名をとるほどのチャンピオンですが、少年時代から抜きん出た能力を持つ天才肌というわけではなかったようです。どんな学生時代を過ごし、その経験が現在プロボクサーとして糧になっているのでしょうか?

Jリーガーになりたかった

 小学生のころからスポーツは好きだったので、少年野球やってるときは野球選手に、サッカーやってるときはJリーガーになりたいと漠然と思ってました。ただ、1〜2年やってると伸びなくなってくる時があって、当時やっていた運動は全部ダメでしたね。

 小学生のときは体も細くて背も低かったけど、男の子なんで強い男に憧れるじゃないですか。たまたまテレビを見たときにボクシングがやってておもしろかったので、そこからボクシングに興味が湧きました。初めて見たのが辰吉丈一郎選手で、そこからテレビ放送があると必ず見るようになりました。しばらくはテレビで見て楽しんでいただけなんですけど、中学3年生になって、サッカーも全然ダメだからJリーガーも無理だなと思って、新しく何をやろうかと考えたときに初めて“じゃあボクシングやろう”ってなりましたね。当時たまたまボクシングが好きな友だちがいて、ボクシングの強い高校に行こうよって誘われて花咲徳栄高校に行ったんです。

はじめは同級生にやられてた

 高校でボクシング部に入ってはみたものの、最初は予想してた以上にしんどかったです。まず入って1カ月以上、構えとかの基本だけをやらされて“つまんねえな”と思いましたし、初めてスパーリングやったときも、同じスタートラインだったはずの同級生にやられちゃったりとかしてたんで。最初は自信満々だったのに、ちょっと厳しかったですね。でも、日に日にパンチを覚えたり、スパーリングがうまくなってきたときはどんどん楽しくなってきて、もっとやりたいってなってきましたね。何より強くなりたかったですし、続けてみようって。それでまわりから“お前強くなってんじゃないか”とか言われたり、“自分ちょっと強くなってんじゃないか”とか感じたりすると嬉しいですし、楽しくなってきますよね。それから、全国大会への出場を目標にするようになりました。優勝とかは全然考えずに出場することを目標にして、日曜も練習だったりして厳しい高校でもあったので、3年生のときにはインターハイとか全国大会に出られるようになりました。

高校卒業後、ボクシングの名門、拓殖大学へ
“とにかく練習だけは休まずやろうって”

 拓大に入ると、やっぱりインターハイ・チャンピオンとか国体チャンピオンとかすげえ奴らの集まりだったんで、10人いる中で自分は下から2番目くらいでした。そのときに気持ちの部分で劣等感は感じてましたね。実際にボクシング部としての活動が始まると、そういう奴らはみんなレギュラーとか補欠とかになって活躍していくんですけど、自分は補欠にすらなれなくて、ストレスもあったし、悔しさもすごく強かったです。だから、1年生のときは、“もうとにかく練習だけは休まずやろう”っていう気持ちでした。月曜から土曜まで練習で日曜は休みなんですけど、僕は日曜も母校の高校に行って練習したり、夏休みは大学も閉まってしまうんでみんな帰省するんですけど、そのときも母校で練習したり、あとはプロのジムに行って練習したりとか。とにかく練習はしてましたね。

 まわりのみんなは大体、休みに入って帰省すると気持ちが緩むんです。だから僕はその間がチャンスだと思ったんですよね。みんなが休んでる間がチャンスだって。だから高校も休みの間は、面倒見のいい先輩に家まで来てもらってスパーリングの相手になってもらったり、ミット打ちの相手をしてもらったり、そういう風にやってきましたね、ずっと。同級生が試合に出て活躍してるときに自分は荷物番とかやらされていて、それがつらかったですし、試合に出て目立ちたいなとか強くなりたいなって思ってましたから。それがあったから練習を頑張れました。ずっとやってれば来年ぐらいにレギュラーとれるんじゃないかって、大学1年のときはとにかく悔しさをバネにやってました。そのおかげで、最初は補欠以下でしたが1年のうちに全日本選手権に出られましたし、そのときにレギュラーの先輩と試合で当たったんですけど、その先輩に勝てたんですよ。まわりも9割方は僕が負けるもんだと思ってましたし、努力をしていればこんなこともあるんだって、もっとボクシングが好きになりました。もっと努力して、もっと強くなろうと思いましたね。

小さな目標をひとつずつクリアしてきた

 僕は目標がいつも小さいんですよ。高校生のときから、同級生のあいつに勝ちたい、同級生の中で1番になりたい、先輩に勝ちたい、という風に目先の目標からクリアしていくようにしてきました。県大会に出られたら次は関東大会に出たいなとか、全国大会に出られてもいきなり優勝できるような自信はないような感じで。そんだけ自分は未熟だと思ってましたし、自分より強い奴がいっぱいいたわけですし。大学に入ってからもその調子で、リーグ戦に出たい、全国大会に出たい、というのをひとつずつクリアしていって、最終的に全日本で優勝できるようになりました。

 学生時代はまわりに遊んでる奴らもいましたけど、自分は強くなりたかったから「よし、遊んでおけ」って思いながら練習してましたね。競技を続けていると伸び悩む時期は絶対に来るんですけど、そのときにふてくされて練習しなくなるんじゃなくて、とにかく自分に対して甘えないで続けていれば必ず結果はついてくると思うんですよ。休めば休んだ分だけロスしますから、ブレない気持ちが必要です。自分も毎日努力していたらチャンピオンになれましたし、コツコツと積み重ねていったら結果は出るので、ちょっとしたことであきらめずに続けていけばいいこともある。そういうことを子どもや若い人たちに伝えていきたいですね。

俺はもう何度負けても這い上がってきたから、ぜひみんなも頑張って。

JUST DO IT. “好きになること。やり続けること。 – 内山高志”

内山高志(うちやま・たかし)
1979年生まれのプロボクサー。全日本選手権3連覇、アマチュア4冠を達成したのち、2005年7月にプロデビュー。2007年に東洋太平洋スーパーフェザー級チャンピオンとなり、5度の防衛後、2010年1月に世界初挑戦で第39代WBA世界スーパーフェザー級王者に。現在まで7度の防衛に成功。左右どちらのパンチでもダウンを取れるパワーとテクニックを持ち、2012年には日本人として初めてWBA年間KO賞を受賞した。プロ入り後の戦績は21戦20勝(17KO)無敗1分。

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