(文 中島良平)
今年4月に長女を出産し、3シーズンぶりの復帰戦として9月に出場したネーベルホルン杯で2位に輝いたフィギュアスケートの安藤美姫選手。現在は12月の日本選手権に向け、調整を続けています。2007年と2011年に世界選手権で優勝、トリノとバンクーバーの2度の五輪出場と、国際舞台で活躍を続ける安藤選手がスケートを始めたのは8歳のころでした。若くして注目を集めた彼女は、スケートとどのように向き合ってきたのでしょうか?
出会いは8歳。
可愛い先生に誘われてスケート教室へ
8歳のころ、女の子の友達と一緒にスケート場へ行ったことがあったんです。ヘルメットをかぶって、肘あてと膝あてをして、オリンピックサイズのリンクで教室をやっていた。そのリンクのアシスタントさんが教室の先生で、その先生に誘われたのが選手としての第一歩です。
スケート自体に魅力を感じたというよりも、その先生が可愛くて、母に“すごい可愛い先生に誘われたから、大きいリンクでちゃんと習いたい”っていう風に言ったんですね。それまでは水泳も習ってましたし、バレエとかもちょっとかじる程度にやっていたり、新体操もやらせてもらったりしていて。スケートの滑る動作っていうのは日常にないじゃないですか。練習していくうちにくるくるスピンしたり、自分でジャンプして空中で回ったり、その日常では考えられない動きが素直に楽しくて。とくにジャンプは、転んでも転んでも降りた時のその嬉しさっていうのが、子供の頃の自分にとっては味わったことのないスリルといった感じで。それから、習い事のひとつとしてすごく好きになり、続けるようになったんです。毎日練習を積み重ねて、それが試合でできたらすごい嬉しいっていう、ほんとにそれだけでやってましたね。
練習して試合、練習して試合っていうのを繰り返して、 次のステップとしてまたお姉さんたちと一緒に戦うっていうのが、自分の中で普通のものとして続いてきたんですけど、そのときに、新しいことをどんどん覚えていくわけですね。でも、できないのが当たり前だから練習してまた新しいことに取り組む。すぐできるものじゃないから、毎日毎日こつこつやることが重要だと教わってきました。失敗してもいいから、まず怖がらずに毎日ちょっとずつでも挑戦することが大切だと考えていたので、できないから悩むっていうのはなかったですね。8歳でスケートを始めて、もちろん痛くて青あざだらけでやってたりとか、頭打ったり、スピンで最初のうちは目が回ったりもしてたんですけど、フィギュアスケートはそういうものだってずっと思っていたので、その怖さとかも自分にはなかったです。
出産を経て氷の上に
トリプルジャンプになったとき、怖いって初めて思った
出産を経て氷に戻ってきて、初めてスケートの大変さを感じたというか、ダブルジャンプまではすぐ戻ったんですけど、トリプルジャンプになったときに怖いって初めて思いましたね。まず、身体の変化が自分の思っていたよりもずっと大きかったんですね。ほんとに筋肉が落ちてしまったことと、氷の上でのタイミング、ジャンプをするタイミングっていうのがすごくずれてしまっていて、まずは体力作りをしました。あとは、ここ何年かあまり転んだことがなかったので、回転不足で氷に叩きつけられるって感触が小さい頃以来で、怪我したらどうしようとかいろいろ考えながらやってて、何カ月か前かはちょっと恐怖でしたね、練習が。
もともと私はほんとにオフアイスのトレーニングが嫌いで。ほんとに人生で初めてって言っていいほど、今は筋トレをやっていて、すごく面白い。フィジカルトレーニングが、ジャンプとかスケーティングでバランスとることと繋がっていく実感もできて、改めてスケートの魅力だとか、ジャンプが飛べたときの喜びっていうのを味わえていました。
具体的には、例えば体幹のバランスを強くすることで、ジャンプもがしっと決まるようになりましたし、脚の筋肉をつけるのにチューブ使ったり、トレーナーの先生に手で負荷をかけてもらったりしています。自分の体調に合わせて負荷を変えれないのであまり機械は好きじゃないんですけど、人の手だと自分のことをわかってくれて、今どれくらいの筋力があるか、今日はどれくらい疲れているかっていうのを見ながら負荷を調整してくれるんで、トレーナーの先生の家に行ってやらせてもらって、あとは自宅では腹筋と背筋をやってます。でも出産を経て体調も崩しやすくなっているので、そこは気をつけながら、前よりちょっと練習量を落としたりとかしながらやってます。
死ぬまで成長できると思う
人の心に残る演技を目指して
今までのスケート人生の中で1位になりたいと思ったことがあまりなくて、自分はどちらかというと音と自分が一体感を出して、人の心に残る演技ができるようにって考えてきました。それは小さい頃から変わっていません。でも、同じ演技を見ても多分感じ方は皆さんそれぞれ違うと思うので、自分がこういう演技をすればみんなが感動するとか、心に残るっていうものでもないと思うんですね。ただ、自分が思ってるものを100%見せて、それをどう感じていただけるか、それを見て何も感じないような演技はなるべくしたくないなっていうだけです。点数が出るようにとかでもなくて、ほんとに自分が今まで描き続けて練習してきたものをただ1つの作品としてやっていきたいなっていう感じですね。順位は後からつくものだという風に考えて、まずはほんとに自分にできる演技をする為に今は毎日を過ごしてます。
スケートをアマチュアとしてやっていくにしても、プロに転向してやっていくにしても、死ぬまで成長できると思うんですよね。人って変われると思うし、成長もできると思うんで。だから、今自分がやってることを楽しいと思えるようになってほしい、じゃないと長続きしないと思う。目標も見えてこないと思うし。まずは、自分の今やってるスポーツだとか夢っていうものに自信を持ってやってほしいですね。自分は練習してすごいチャンスを頂いた選手の一人なんで、世界選手権に出られたりとか多分特別だと思うし、自分も感謝してるんですけど、世界選手権に出て優勝したいとか、オリンピックに絶対出たいとかっていうのは夢に描いたことがないんですね。小学校の時に夢とかでも、スケートのコーチになりたいって書いてあるんで。(その夢は未だに持っている?)はい、もちろん。
Just Do It. “失敗の先にこそ、成功の喜びがある。- 安藤美姫”
安藤美姫(あんどう・みき)
1987年生まれのフィギュアスケート選手。8歳の頃にスケートを始め、2002年のジュニアグランプリファイナルでは、ISU公式大会で女子選手として史上初の4回転ジャンプを成功。高校卒業後にトヨタ自動車に入社、同時に社会人学生として中京大学体育学部に入学。2007年と2011年の世界選手権で優勝、2006年のトリノオリンピックと2010年のバンクーバーオリンピックに出場し、バンクーバーでは5位入賞を果たした。12月開催の日本選手権の結果次第で、ソチオリンピック出場への可能性も残っている。
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