(写真 古谷勝 / 文 小泉咲子 / 協力 Pearl Izumi)
アウトドアフィットネスインストラクターの大西勇輝さんと、トライアスリート北川麻利奈さんがアンバサダーを務めるサイクルウェアブランド「Pearl Izumi」。そのトライアスロンチーム「PI Triathlon」が、結成時から目標の大会に定めていた佐渡国際トライアスロン大会が終了し、11月の館山で再びチーム合宿を行う彼らと再会した。大西さんは、久しぶりにコーチではなく選手としてトライアスロンに挑み、北川さんにとっては、初のミドルディスタンス挑戦となった本大会を振り返り、ふたりが得たこと、そして、チームが向かう未来について聞く。
――2017年9月に行われた佐渡国際トライアスロン大会は、いかがでしたか?
大西 いちばんグッときたのは、スタートラインに立った時。選手としてしっかり準備して臨む大会は、ずいぶん久しぶりで、ほんとうに楽しみにしていたので、「いよいよだな」と気持ちが高まりました。海面がキラキラ輝く海に、選手が一斉に入っていこうとするあの感じ! コーチとしてはこれまでも何度となく見てきましたけど、参加選手として見るとまるで別モノ。感動しましたね。
北川 私は、前回の館山合宿終了後の7月末に落車をしてしまい、プラン通りに練習できず、スタート地点では不安しかなかったんです。でも、いざレースが始まってみると、冷静というか、いつもの自分に戻っていましたね。痛めた首に負担をかけない泳ぎ方をマスターしていたので、いい位置でスイムアップできてバイク中盤までは3位できたくらいで、焦りもなくて。ただ、バイクでブレーキをしっかり握れないくらい手がしびれてしまって……。それでやむなく棄権しました。みんながゴールするのを見ていて、心の底から嬉しかったんですが、やっぱり自分ができなかった悔しさはありました。でも、落車も棄権も初めて経験したことは、今後のトライアスロンライフの大きな糧になると思います。
大西 佐渡までは正直「トライアスロンは仕事の一環であり、サポートする側だ」と自分への言い訳を見つけて大会を避けていたところもあったんですよね。でも、出ると決めたからには、ちゃんと身体を作らないといけないし、練習もしなきゃいけない。ミドルの準備期間が2ヶ月というのは、ほんとうは足りないんですけど、想像していたよりレース中にヘロヘロにならずにゴールできました。
北川 ゴールした時の大西さんはものすごく晴れやかで、無邪気な笑顔が印象的でした。準備もレースもすごく頑張ったのが伝わってきました。
――佐渡のコースはいかがでしたか?
北川 バイクのコースで、すごく開放感を味わえました。これまでは、景色が変わらない周回コースをハイスピードでぐるぐる走るレースだったのが、佐渡ではバイクに乗り始めたらすぐ街が開けて。街の空気や匂いを感じながら走れて、とても気持ちがよかった! スイムの海も含めて、佐渡という街を味わった感覚です。
大西 おおむね海沿いを走るんですが、緑が生い茂っているエリアもあって、気持ちがよかったですよね。
北川 山の中でスコールに降られちゃって一気に体温が下がったけど、T2(バイクからランへのトランジション)に行くまでにはポカポカになって。そうした自然による温度変化を感じられるのも面白かったです。
レースに挑戦することで生活が変わった
――2017年7月の館山合宿から本番まで、どんなトレーニングを?
大西 あの合宿で火がついて、本格的にトレーニングを始めました。毎朝5時に起きて必ずトレーニングをするようにしたのが、いちばん大きな変化ですね。ふだんから朝型ではあるんですが、身体を動かさない日もあったので、それをなくしたことで練習時間を確保しました。時間が取れるか取れないかは、本当に気持ち次第。とくに仕事をセーブもしなかったですし。
北川 大会が迫ってくると、一時的にトレーニングがトッププライオリティになるから、練習するための生活におのずとなってきますよね。
大西 そうなんです。トレーニングのポイントは、スイムの頻度を上げることと、バイクの距離をのばすこと。バイクは週末に100km以上のロングライドを4回ほど行いました。しっかりトレーニングする生活に戻ってみて、こういうライフスタイルがしっくりくるな、と(笑)。
北川 私は、落車でケガしたので、ほとんどできなかったんですが、家でローラーを2時間こいだり、スクワットをしたり、できる限りのことはやっていました。
――佐渡を経て、見つかった課題は?
大西 今回のリザルトを見返すと、バイクが結果に直結していたんです。バイクは僕の弱いところなので、強化しないと。実は、次はロングディスタンスを目指すつもりなので、距離が倍になります。今回、年代別6位だったんですが、ロングでも6位以内には入りたいですね。
北川 私は、ランニングを強化するつもりです。ミドルディスタンスの20kmランを“パリッと”走り切りたいんです。月間走行距離を伸ばしつつ、速いペースで走るポイント練習も週1回はやりたい。実は、佐渡から1カ月半くらい、少し走る程度で、ほとんど何もしてなかったんですが、すごくリフレッシュできたんですよ。身体も心も仕切り直すことができたので、今は「次こそ!」という気持ちでいっぱいです。
充実した合宿を終えて感じる、チームの成長と絆
――チームとして2回目となる、今回の館山合宿も無事に終えましたね。
北川 1日目は、市民プールの2レーンを貸し切り、泳力ごとにわけて1時間半くらいスイムをして、2日目は、朝6時から約75kmの海沿いライドと10kmのランニングで、佐渡を控え追い込んだ前回に比べると、全体的に“オフトレ”といった雰囲気でした。
大西 佐渡のお疲れ様会も兼ねていましたしね。でも、佐渡を経て、チーム全体のレベルが上がりましたよね。みなさん、ひと皮むけた感じ。
北川 種目ごとに強いメンバーが引っ張るから、自然とトレーニングの強度も上がりますしね。
大西 このチームは競技志向ならぬ、“向上心”志向。コミュニティに属したことで、みんなが速くなりたいと思うようになってきています。
北川 ほんとうに。それと、仲も深まってきてます。各々が、それぞれの実力を把握していて、得意な種目になったら先にいかせてあげようとか、言葉を交わさずとも、阿吽の呼吸で意思疎通ができるようになりました。だから、このメンバーで合宿したり、レースに出ることが心の底から楽しいんです。
大西 今回もほんとうに楽しかったなあ。メンバーの誕生会をやったりしてね。
トライアスロンがライフスタイルにあるチームに
――今回の合宿で身に着けたウェアはいかがでしたか?
大西 日なたは暑いくらいなのに、けっこう風もあって日陰に入ると寒かったりして、温度調整が必要だったんですけど、ウィンドブレイクライトのレッグウォーマーのおかげで快適にライドできました。裏起毛で温かいですし、着脱が簡単なのが嬉しいアイテムです。
北川 「Pearl Izumi」のウェアは、ジャケットからタイツ、グローブ、シューズカバーまで、0℃、5℃、10℃、15℃と温度を目安にアイテムが選べるじゃないですか。もちろん、同じ温度でトータルコーディネートしてもいいですし、自分にとって心地よい組み合わせを見つけることもできます。私の場合、汗かきなのでトップスは高め、温かくしたい下半身は0℃と分けています。
大西 確かに、人それぞれ汗のかき方も体感温度も違いますからね。こういう適度な素材感のアームやレッグウォーマーは、Pearl Izumiの生産チームのメンバーが「こんなものがあったらいいのに」という自身のサイクリストとしての感覚を活かして生まれたアイテム。だからすごく実用性が高い。冬のウェア選びは難しいんですけど、いいポジションにあるアイテムですね。
北川 今年7月デンマークで開催されるITU世界ロングディスタンストライアスロン選手権に参戦するチームメンバーで、製品のパタンナーの巽さんにとって、このチームの存在が、トライアスロンのウェアを作る仕事のモチベーションになっているんじゃないかと思うんですよね。彼女に限らず、このチームには、トライアスロンとの関係や取り組み方がすごく明確で、魅力的なメンバーが揃っています。
大西 ただ、トライアスロンをすることだけが目的になり、その最終ゴールがタイムの追求だけにフォーカスされてしまうのはもったいない。すべてのメンバーにとって「PI Triathlon」でトライアスロンをすることが、仕事への刺激になったり、考え方や生き方に変化が起こったり、ライフスタイルそのものになって、人生がもっともっと豊かになるといいと思いますし、その可能性を秘めているチームです。
- 大西勇輝
- 北川麻利奈