世界的にレースが中止となり、アスリートの間でにわかに盛り上がりを見せるFKT。そもそもFKTとは? トップアスリートだけのもの? その問いに答えつつ、FKTが身近になる楽しみ方をここに紹介します。自分のタイミングで行う極私的な挑戦、始めてみませんか?
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FKTとは?
FKTとは「Fastest Known Time」の略。特定のトレイルコースを走ったGPSデータをFKTのサイトにアップロードし、タイムを競い合うアクティビティのことをいう。大会や競技団体などが認める公式記録である必要はなく、個人が独自に計測、公開しているケースがポピュラーだ。未開拓のトレイルで挑戦してみるのもよし。メジャールートで過去に達成された記録に挑戦するもよし。レースと違い、いつでも自分の挑戦したいタイミングでアタックできるのが魅力だ。
FKTの始まり
FKTという言葉はいつから使われるようになったのか。歴史はまだ浅く、1999年、アメリカ・コロラド州ボルダーに住むバズ・バレル(アルティメットディレクション副社長)とピーター・バクウィンの冒険の最中に生まれた。
500マイルに及ぶコロラドトレイルをいかに早くゴールにたどり着けるか、チャレンジした2人は、その後JMT(John Muir Trail:カリフォルニア州シェラネヴァダ山脈に340km渡って伸びるトレイル)に目を付け、リサーチを開始する。しかし、当時はインターネット黎明期で情報が曖昧。歴代のスピード記録保持者が相反する証言をしていた。
2人はトレイルランナー、ブレイク・ウッドの記録(5日弱)をおそらくは史上最速であるとし、FKT(知りうる中で最速のタイム)という表現を与えた。「私たちは最速タイムが誰のものか分からなかった。先の挑戦者たちに敬意を表した言葉が必要だった」とバレルは語っている。
世界に広まるFKTカルチャー、日本でも
バレルとバクウィンの活動によって、アメリカ内で広まったFKTカルチャー。このカルチャーをヨーロッパへと持ち込み、FKTの世界的な認知に一役かったのがキリアン・ジョルネだ。
初めてUTMBを制した後の2009年、アメリカ・カリフォルニア州のタホリムトレイルを走る際にFKTのことを知り、「Record」から「FKT」へと表現を変える。エベレストへの無酸素登山が記憶に新しい。キリアンはFKTでも強さを見せており、マッターホルン、モンブラン、デナリなど名だたる山の世界最速記録を保持している。
日本では2016年、石川弘樹さんが東海自然歩道(東京・高尾から大阪・箕面までの1070km)FKTへチャレンジした際に大きな注目を集めた。これを機にFKTというワードを知った人も多いはず。しかし国内ではそれ以降目立ったトピックが生まれなかったこともあり、少し忘れられていた節がある。
それが今年、新型コロナウイルスの影響で世界中のメジャーレースがほぼ中止。グザビエ・テベナールの「GR20」(Grande Randonnéeの略:ロングハイクの意、コルシカ島を南北に縦断する180km)FKT挑戦や、パウ・カペルのUTMBコースFKT(モンブランの周りを1周するトレイル〈ツールドモンブラン〉170km)など著名なアスリートが続々とFKTでのチャレンジを開始した。
国内でも上田瑠偉が福岡県の五ケ山・脊振クロストレイル(31km)FKT、丹羽薫が滋賀県の県境を一周する「シガイチ」FKT(420km)、志村裕貴の八ヶ岳全山往復(80km)FKTなど、一気に活気付いた。
ヴァーチャルレースの盛り上がりもあり、自分で距離、累積標高、ルートを設定しての自分なりのチャレンジは、アスリートに限らずとも増えそうだ。
気軽にできるFKT 、STRAVAセグメントチャレンジ
ここまでFKTの解説をしてきたが、アスリートの真似をして途方もない距離へ挑戦してほしいわけでも、FKTのサイトへ記録アップを進めているわけでもない。
リコメンドしたいのはもっとライトに取り組めるFKT。STRAVAを活用した、身近な場所にあるセグメント(指標となる区間)チャレンジだ。
セグメントチャレンジとは?
セグメントチャレンジとはSTRAVA内に登録されている特定された区間で行うタイムチャレンジ。先日公開したポッドキャスト『onyourmark radio』でSTRAVAのカントリーマネージャー・三島英里さんが話している通り、STRAVA内には4000万にも及ぶセグメントがあり、生活圏で必ず見つけることができる。
誰しも身近にあるルート、セグメントのFKTを誰がどれくらいのタイムで持っているかは気になるところではないだろうか。「このコースは上位に食い込みたい」と思うルート、セグメントが必ずあるはずだ。STRAVAのアプリのメイン画面から「探索」、「セグメント」と選択し、自分がよく走るルートで検索してみよう。今年追加された「近くのセグメント」機能により、自宅近所にあるセグメントのリーダーボードの確認もしやすくなっている。
各セグメント、トップのタイムを出すことができればその区間のキング(クイーン)の称号が得られ、トップ10までは常時公開。トップ10からはずれると通知が届く。どのレベルで走ったのか確認ができるし、次回の“ライバル”設定としても活用できる。思い立ったらお気に入りのセグメントでキング(クイーン)へチャレンジだ。
セグメントの作成とログの活用
よく走るルートで、セグメントが存在しないようなら自分で作ることもできる。手順は以下の通り。
1:WEBサイトのマイページから、ページ上部にある「トレーニング」を選択し、セグメントを作りたい過去ログのページへ(走ったことがない区間の作成は不可)。
2:画面左のアクションバーから「セグメント作成」を選択。
3:ページ上部の「Move Start Point」「Move End Point」のスライダー(オレンジのゲージ)でセグメントを調整し、セグメントを確定させた後、ページ左の「あなたのセグメントを選択してください」から「次へ」を選択
4:「似ているセグメントの確認」から「Myセグメントを作成」を選択~「次へ」を選択
5:「あなたのセグメントに名前をつける」からセグメント名を入力、「作成」ボタンをクリック
エリアによっては割とメジャーであっても設定されていないセグメントもある。一度走ったことのあるコース、セグメントをじっくりとチェックしてみよう。同じルート、セグメントを複数回走ると、過去の記録と比較、照らし合わせることができる(1年以上前のログは、サブスクリプションによる有料サービスとなる)。
いつベストタイムを出したか確認し、前後のトレーニングメニューの見直しへとサーフ、現在のトレーニングやコンディションと比較すれば、調子の良し悪しを図る判断材料としても使える。より戦略的にトレーニングを管理したいのであればぜひ活用してほしいサービスだ。
FKT、セグメントチャレンジの注意点
また、STRAVAは今年6月より、速さではなく、回数、継続性を重視した「Local Legends」というサービスも開始している。同じセグメントを走った回数によって、その称号を得ることができるこちらのサービスも、レースのない時期を楽しむツールとして注目したい。