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BIAのトップに表記されている「ガバナンス」。〈B Corp〉の信頼性に関わる項目でもあり、認証機関である〈B Lab〉は「ガバナンス」にまつわる項目を厳しくチェックしている。一般に日本で「(コーポレート)ガバナンス」というと、不祥事や経営者の不正、情報漏洩などの経営リスクを未然に防ぐために構築する管理体制や内部統治を指すことが多いが、BIAでいう「ガバナンス」は、企業がミッションとして掲げる“よりよいビジネス”を長期的に実践するための仕組みを指している。実際、「ガバナンス」には〈B Corp〉としての企業価値を問う項目がずらりと並ぶ。

「ガバナンス」で評価対象となる項目は、「企業の意思決定における社会的よび環境的責任」「倫理観・透明性」「(売上高など)数値」「ミッションロック」の4つに大別されるが、注目すべきは前半の「社会的、環境的責任」と最後の「ミッションロック」だ。

「最初の項目、『ポジティブなインパクトを創出するために行っていること』に注目してみてください。この問いに対する選択肢は5つ(※1)ありますが、どれを選んでも得点にはなりません。というのも、英語版で『only for research』という注釈がある通り、これは〈B Corp〉取得を目指す企業への、〈B Lab〉によるアンケートのような項目になります。得点にはならない、それでも項目のトップに据えているというところに、『社会的環境的責任に対する企業の覚悟や取り組みを問う』という〈B Lab〉の強い意思を感じます」(〈B Corp〉取得支援専門のコンサルタント、岡望美さん)

※1ここで提示される選択肢は以下の通り
1.社会的、環境的にポジティブなインパクトを与えることは、自社にとって重要ではない
2.自社の事業のある側面が社会や環境に与える影響について考えることはあるが、頻繁に考えることはない
3.社会と環境への影響について頻繁に考えるが、意思決定における優先順位は高くない
4.自社の事業の成功と収益性にとって社会的・環境的影響は重要であり、常に意思決定に取り入れている
5.社会的・環境的影響を事業の成功の主要な尺度として扱い、それが収益性につながらない場合であっても優先させている

〈B Corp〉になるという覚悟

「ポジティブなインパクトを創出するために行っていること」の次の項目が「ミッションステートメントに含まれる(社会的、環境的パフォーマンスにまつわる)表現」。さらに、自由記述式の「ミッションステートメントの内容」(無得点)と続く。ミッションステートメントは短い言葉で端的に企業理念を語っていることが多く、抽象的な内容になりがちだ。そのため、BIAの「ミッションステートメントに含まれる表現」においては、社内のバリュー、ビジョン、パーパスなど関連文書で語られる文言も参照してよいとされている。いずれにしろ、社会的・環境的責任について明文化することを求めているのだ。

続く項目、「会社の意思決定に社会や環境的パフォーマンスをどのように組み込んでいるか」にも〈B Lab〉の思いが現れているといえるだろう。

「この回答は1点満点にもかかわらず選べる項目は7つ(※2)もあり、かつ、『社会&環境問題の社員教育の実施』、『環境&社会問題を組み込んだ社員評価の実施』など、一つ一つの内容がヘビーなんです。これにゼロから取り組むとなると大変な時間と労力がかかります。ここであらためて〈B Corp〉になるという覚悟を問うていると考えることもできそうです」

※2 選択肢は以下の通り。
1. 会社にかかわる環境&社会問題の社員教育実施
2. 管理職の職務記述書に環境&社会問題対策が明記
3. 環境&社会問題を組み込んだ社員評価の実施
4. 環境・社会問題対策のパフォーマンス評価が含まれる
5. 経営層の報酬と職務記述書に環境・社会問題対策のパフォーマンス評価が含まれる
6. 取締役会での環境&社会に対するパフォーマンスの評価実施
7. 取締役会での環境&社会に対するパフォーマンスの評価実施

ユニークなのは、評価対象となっている“社会や環境的パフォーマンス”の内容については一切の規定がないことだ。

「〈B Lab〉としては業種や業態を超えてさまざまな企業と連携し、大きなうねりとなって経済システムを変えていこうと考えていますから、社会的・環境的パフォーマンスの内容ついてはあえてフレキシビリティをもたせているのだと思います」

社会、環境とひと言で表現してもその対象は幅広く、自分たちはどこにコミットするのか、社会課題や環境問題に対してどうアプローチするのか、自分たちの価値は何なのか。あらためて自問し、明文化する機会と考えてもよさそうだ。

ミッションロックの意義

「ミッションロック」は、たとえ経営者やオーナーが変わったとしてもミッションステートメントで掲げた使命を確実に、かつ長期的に実践するためのもの。「ガバナンス」の最後の項目、「ミッションステートメントとは別に、環境&社会への配慮が意思決定の一部であることを法的に示したものはあるか」がこれにあたる。欧米には企業形態の一つとして「ベネフィット・コーポレーション」があり、これに登記を変更することで企業のミッションが長期的に守られるというメリットがある。日本ではこれが制定されていないので、自動的に「すべてのステークホルダーを加味する法的形態を採用している(「B Corp Agreement」への調印)」を選ぶことになる。ちなみに「B Corp Agreement」は、将来、自国にベネフィット・コーポレーション法のようなものが制定されるように努力し、また制定された暁には自社もそれに移行する、それまでは自社の意思決定にすべてのステークホルダーの影響を考慮すること、などが含まれる同意書のこと。〈B Lab〉の審査によりBIAのスコアが80点を超えたとみなされたとき、電子署名することになる。

「得点配分の高い項目ではあるのですが、『高得点ゲット!』と安易に流すのではなく、なぜここにこれが入っているのか、いい事業を永続的に行うための仕組みづくりには何が必要なのか、そして『B Corp Agreement』とは何なのか、じっくり学んでほしいと思います」

「ガバナンス」の強化は企業の価値の向上につながるうえ、社会的・環境的ミッションを従業員と共有することは従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めることにもつながる。〈B Corp〉としてよりよい事業を目指す上で、よい循環も生み出せるのだ。大企業のレポーティングで公開されている情報も参考にしながら、自分たちらしい仕組みを構築していこう。