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5月中旬、長野県湯の丸高原にある〈GMOアスリーツパーク湯の丸〉を訪ねた。標高1,700mを超えるこの施設にある400mトラックは、日本で一番高い場所にある陸上トラックだ。ここで、大迫傑選手が夏のビッグレースに向けてトレーニングを開始していた。その足元を支えていたのは、41世代目となる〈ナイキ ペガサス〉だった。

最もマイレージを踏むシューズ

 
今年の初夏の天候はいつになく不安定だった。新幹線を軽井沢駅で降りると、昼過ぎにも関わらず霧に包まれて薄暗い。しかし車に乗り換えて湯の丸高原に向かい高度を上げるに従って、次第に空が明るくなってきた。湯の丸高原にある日本で一番高い場所にある400mトラックを擁する〈GMOアスリーツパーク湯の丸〉では、マラソン日本代表を決めた大迫傑選手が合宿を行っている。大きなレースに向けたトレーニングの序盤とあって、取材に向かうメディアチームには少し緊張感があったけれど、実際に対面した大迫選手はリラックスしているように見えた。和やかな雰囲気の中で、新しいシューズ〈ナイキ ペガサス 41〉のことから話は始まった。
 
「〈ナイキ ペガサス 40〉の時はマイナーチェンジという印象でしたが、〈ナイキ ペガサス 41〉は車で言えばフルモデルチェンジという感じでした。具体的にはクッション性が増して、反発性もしっかりあります。ロードでもトレイルでも履きますが、特にロードでのクッション性を感じます。
 
(クッション性が増してミッドソールが)深く沈み込みますが、ダイレクトに反発がもらえる。そういう意味でアルファフライの感覚に近いシューズになっていると思います」
 

 
フルモデルチェンジというと、これまでペガサスを愛用してきたランナーは不安を覚えるかもしれないが、大迫選手はこれまでのペガサスらしさはしっかり残されていると感じている。
 
「新しい技術は搭載されていると思いますが、どこか一点に尖っていない。バランスが良いのがペガサスだと思います。ペガサスが合わない(フィットしない)という人はあまり聞いたことがありません。
 
シルエットは大きく変わりましたが、これが〈ナイキ ボメロ〉や〈ナイキ ストラクチャー〉に近くなったかというとそうではない。〈ナイキ アルファフライ〉のような印象が、プラスされた上で〈ナイキ ペガサス〉らしさが残されています。
 
大きなアップデートはしましたが、自分の使い方は変わっていません。僕が最もマイレージを踏むのは、間違いなくこのシューズです」
 

 

シューズも自分も変化し続ける

 
ランニングシューズはこれまで大きな変化を遂げてきた。そのイノベーションの先頭にはいつもナイキの存在があった。創設者のひとりビル・バウワーマンは、ワッフル焼き器からヒントを得て、シューズの底にワッフルソールを取り付けた。レーシングシューズは薄底が当たり前だった時代に、驚くような厚底シューズを生み出して、世界記録の更新に貢献した。大迫選手も長い選手生活の中で、そうしたシューズの変化に対応しながらトップ選手として活躍し続けている。変化していくシューズに対して、ストレスを感じるランナーもいるかもしれない。けれど大迫選手はそうした変化を受け止めて、シューズを自分のものにしていく。
 
「ナイキはシューズの選択肢も多いですし、自分の中でこういう練習の時にこういうシューズを履きたいと思って試します。でも、ナイキのリサーチラボに行った際に、そこで開発のプロが継続してしっかり作っているところを見ているので、ナイキのテクノロジーを信頼しています。それに対してこうして欲しいというのはありません」とナイキのテクノロジーへの信頼を口にする。そして、アスリートにとってもシューズにとっても、変化することが必然だと考えているようだ。
 
「練習内容は日々アップデートされていて、それが正しいかどうかはわからないですが、変えていく必要はある。シューズだって、これが正解だと思って続けていくと、それはいつか古くなる。変わり続けていくのは、アスリートもシューズも一緒で、常に進化していくことが必要になります」
 

 

進化するために必要な変化

 
大学卒業後には米国に拠点を移し、新しい道を切り開いたり、ケニアでの合宿を試みたりと、これまでの枠組みを広げるような変化を体現してきた大迫選手に「変化を恐れないタイプだと自分で思いますか」と尋ねてみた。
 
「恐れないというか、どの世界でもそうですが変化しないとついていけなくなりますよね。過去の成功体験に囚われてしまって、より広い世界を見ることができなくなるとそこで成長が止まってしまう。そうならないようにしようという緊張感は持っています。自分の肉体もそうですが、進化をしたい。世界と比較した時の相対的な位置も意識することが重要だと思います」


 
とはいえ、好成績をおさめた時のトレーニングを変えることに不安は感じないのだろうか。
 
「それはシューズと一緒で、常にフルモデルチェンジをしているわけではありません。今回はこれができたから、次はこれをしようというマイナーアップデートがある中で大きな変化がある。それと同じことではないでしょうか」
 
そこで、今行っているトレーニングはマイナーアップデートですか、それともメジャーアップデートですか、と水を向けてみると「どうですかね?内緒にしておこうかな」と笑顔でかわされてしまった。けれど、それは充実したトレーニングがはじまりつつあることを十分に感じさせてくれる笑顔だった。