勝敗だけに捉われないチャンピオン像を探る連載〈Be Your Own Champion “ルールは自分の中に。”〉第一弾で自身の考えるチャンピオンを語ったクライマーの原田海が、別種目の世界チャンピオンに同じ質問を投げかける。対談相手はブレイクダンサーのAmi。同世代の世界チャンピオンは、何を語るのか。
すでに世界の頂点に立った二人は21歳
原田「Amiさんは、なんでブレイクダンスを始めたんですか?」
Ami「もともとは、小学校1年生の頃からHIP HOPダンスをやってたんです。通っていたスタジオでブレイクダンスのクラスがたまたまあって。それを見たときにウィンドミルという技があって、カッコいいな、やってみたいなと思ったんです。ブレイクダンスには技を習得する、という達成感があるんです。それで、ウィンドミルの練習でアザだらけになりながら、やっとできるようになったときに、『あっこれめちゃめちゃ楽しい』ってハマっちゃいましたね。原田さんはなんでクライミングを?」
原田「きっかけはたまたまでした。家の近くにクライミングジムがあって、アトラクションで遊ぶような感覚で行ってからハマっていきました。でも始めたのが小学校5年生だったので結構遅いかなって」
Ami「そうなんですね! でも私もブレイクを始めたのは小5からでした。スポーツクライミングだと小5で始めるのは遅い方なんですか?」
原田「いや、クライミング業界としては早い方だと思うんですが、他のスポーツだったらもっと早いかなと。AMIさんはブレイクダンスのどこに魅力を感じていますか?」
Ami「最近改めて感じているのは、人とのつながりですね。自分が大会で勝つと、周りから注目してもらえて、さらにいろんな大会・場所に行けるようになる。ブレイクをしていなかったら、普通は接点が無いような幅広い年代の人や海外の人と友達になれてないです。いろんなところに行けて、いろんなものを食べることができて。ダンスという、自分が頑張っているものを介していろんなものと繋がっていけるのが楽しい。それが私がダンスを続けている理由かな。どんなに新しい技ができるようになっても、どんなに勝ち続けていても、それを感じられなかったらやっていられない。だからこそ、最近の期間はドーン、と『何に向けて頑張っているんだろう?』って落ち込むこともありましたけど。原田さんもクライミング、小5から続けているというその魅力は?」
原田「クライミング競技は、直前まで自分がやる課題がわからないんです。その意味で新しいことに挑戦し続ける、というところに魅力を感じていますね。Amiさんと同じようにいろんな国に行って、いろんな繋がりができることももいいと感じてます。結構、考え方が似ていますね」。
Ami「クライミングって年齢関係なくみんなでやるんですか?」
原田「関係ないですね。年齢も、体型や体重も関係なく」。
Ami「あ〜、ブレイクと一緒ですね」。
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たくさん踊りたいし、たくさん登りたい
原田「Amiさんは自分のことを負けず嫌いだと思いますか?」
Ami「ううーん……! 負けず嫌い……かな?」
原田「競技としては対人、という感じではないんですか?」
Ami「もちろん、大会になったら負けたくはないです。勝とうと思って行くわけだし。バトルだと優勝を目指すよりも前に、目の前のこの人に勝たなきゃと思うので、その人を倒しに行っている。どちらかというと、負けたくないというより、大会でどれだけ自分をレペゼンするかが大事なので、その意味で相手に勝たないともう一回踊れないんです。TOP16止まりなら、ワンムーブで終わっちゃうし。だから勝ちたい、というのはある。自分では負けず嫌いとは思わないですけど。原田さんは?」
原田「さっきからずっと似てるなと思ってるんですが(笑)、クライミングは対人競技じゃないので、自分が登れるか登れないか、でしかないんです。僕も、せっかくしっかりと調整していい調子でいるのだから、いっぱい登りたいんです。決勝まで行かないとたくさん登れないじゃないですか。だから頑張るというか」。
Ami「そうですよね」。
原田「あとは、自分に対して負けず嫌いというのはあると思いますね。自分で練習内容を決めるんですが、自分で決めたメニューは絶対にこなす。自分に負けたくない、というのはあります。他人に勝つ、負けたくないというのはあんまり無いですね」。
Ami「確かに、後悔しないようにやってるっていう感じかも。練習も勝つためにやっているというよりは、ベストを尽くすためにやっていますね。私もどちらかというと、対誰か、というより自分に負けないために」。
世界チャンピオンたちの緊張のマネージメント
原田「試合の時に、プレッシャーは感じる方ですか? 感じる時はどうコントロールしています?」
Ami「プレッシャーというよりは、緊張をすごくしますね。せっかくここまで練習してきたのに、失敗したくない、体力が続かなかったらどうしよう、とか。大きい大会であれば大きい大会であるほど、行く前から緊張するし。それこそ胃が弱くて、緊張で胃薬を飲まないとやってらないこともあるくらいです。それでもいろんなところに行って、経験を積んできて昔よりは慣れてきたのかなと。『なんで緊張しないんですか?』と聞かれるけど、全然してます。ただそれに慣れてきて、緊張した時でも踊れるようになってきたという感じです。緊張は毎回していますね。原田さんは緊張します? しますよね? いや、しないか(笑)」
原田「そういうプレッシャーは感じないですね。緊張もあんまりしないです。本番で緊張をしないように練習をしてるっていう感じです。絶対的な自信を持って大会に出たいので。だから大会の時は楽しみで、待ちきれなくてウズウズしちゃいます。緊張っていうマイナスな感じの緊張は無いですね。早く登りたい。そのために、練習の時にどれだけやれるか」。
Ami「でもさっき、クライミングは直前まで課題を見られないって言ってたじゃないですか。それで本番になって『う、これは俺の苦手なやつだ』ってことはないんですか?」
原田「ありますよ、たまに」。
Ami「あるんですね。その時にやばい、ってドキドキしたりしないんですか?」
原田「うわっ、って思いますけど、もうやることはやってきたし、無理でもいいか、という気持ちですね。開き直れるくらいまで持っていきますね」。
Ami「なるほどね。それは強いわ。どちらかというと開き直れないんですよね、私。でも緊張をすごくする時と、しない時があって。『あぁもういいや、ここまできたからあとは楽しもう』ってモードに入れると、強いんですけど。基本緊張するので、毎回このモードに持っていきたい」。
原田「緊張を楽しめるまで持っていければ、とは僕も思ってます」。
Amiの考える、チャンピオン像
原田「今回のテーマが、Be Your Own Champion、“ルールは自分の中に”ということでチャンピオン像について聞きたいんですが、チャンピオンって勝者のことを指すと思うんですけど、Amiさん自身にとってのチャンピオンはどういう存在ですか。あるいはどういう存在でいたいかってありますか?」
Ami「チャンピオン……私は勝つことだけがチャンピオンではないと思っています。特にダンスの世界だと優勝した人だけがすごいわけじゃなくて。それこそスタイルがみんな違っていて、今日世界一になった人が明日も世界一になれるかというとそうじゃない。そこにはタイムのような基準はなくて、曖昧でいてアートでもあって。私がダンスが好きな理由はこれですね。
どんなに勝ち続けている人でもいつかは負ける。でも負けても、自分のやり方を貫いて挑戦し続ける人がいる。私の中では、自分のスタイルを貫き続けている人、そういう人がチャンピオンというか、かっこいい人ですね」。