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2020年を自転車・サイクリングの観点から振り返ると、どんな年になるだろうか? 言うまでもなく、新型コロナウイルスの影響が如実に現れた一年となったが、一方で、パンデミック以前にその萌芽が見られた傾向が、新型コロナウイルスの流行により顕在化した側面も見えてきた。7つのトピックで振り返っていこう。

コロナ禍で見直された自転車 日本の場合

この2020年の状況は、人々の生活と自転車をより身近なものにした。移動手段としての自転車が見直され、満員電車の密を避ける手段として、クロスバイクを中心としたコミューターバイクの売り上げが上昇。自転車店では春先から初夏にかけての来客が増え、売り上げも好調だったとのこと。

自転車量販店大手のあさひはこの9月に、2020年の業績を当初の予想から約35%の大幅増となったことを発表した。併せて2021年の業績予想も上方修正するなど、自転車需要の高まりがうかがえる。

とあるスポーツ自転車店のスタッフは、10万円以下の低価格帯のバイクの売り上げが好調であるとともに、50万円以上するハイエンドバイクも同時に好調で、むしろ中価格帯のスポーツバイクが厳しいとこぼしていた。スポーツバイクブランドとしては、中価格帯の製品の差別化の難しさが現れている。

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コロナ禍で見直された自転車 海外の場合

自転車の需要は世界各地で高まった。西欧諸国では自転車がコロナ時代のインフラとなると確信し、早期から政府主導での自転車推進策がとられた。ロックダウン下のフランス・パリでは、人々が外出を控えているタイミングで、大通りを中心に自転車専用道を拡張。市民が外出する頃には、快適に自転車で走れる環境を整えた。また、フランス政府は自転車の修理に使える50ユーロの補助金を拠出。自転車の乗り方講座の費用補助も行うなど、積極的な自転車推進が目立った。

欧州では環境意識の高まりとともに、オスロに代表されるような自動車の乗り入れができないカーフリーシティの増加が見込まれていたが、新型コロナウイルスの流行に伴う生活様式の変化はこの方向性を後押しするものだ。自転車利用はますます高まっていくものと思われる。

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Zwift、インドアの隆盛

インドアサイクリング&ランニングのトレーニングアプリZwiftの伸長には目を見張るものがあった。いちユーザーとしても、春先にはZwiftの定番コースwatopia(ワトピア)を走っているライダーの数には驚かされた。外出制限下でも追い込む練習ができることから、サイクリストはもとより、ランナーが始めるケースも多かったようだ。自転車店でも、Zwiftをより快適に楽しめるスマートトレーナーの在庫が僅少となった。

また、プロの自転車レースが軒並み開催延期となる中で、Zwiftやオンラインプラットフォームを利用したプロ選手参加のレースやファンコミュニケーションのライドが開催されるなど、2020年のオンラインサイクリングは自転車界全体のインフラともなった。ツール・ド・フランスも本戦に先立ってヴァーチャルで開催され、世界屈指の選手たちがしのぎを削った。

Zwiftはeスポーツとしても発展を遂げた。オンラインサイクリングは、ゲームの側面をもちながらも、リアルライドと変わらないフィジカルを問われる、よりスポーツ色の強いeスポーツであり、12月には世界自転車競技競技連合(UCI)公認のオフィシャルな世界選手権がZwiftにて開催された。プロサイクリングとの連携という点では、Zwiftが頭ひとつ抜け出した印象がある。

一方でフィットネス志向のインドアサイクリングとして、米国発のPelotonEchelonといったサービスの好調ぶりも目覚ましい。「自宅でできる」のトレンドは2021年も続くだろう。

Zwiftの伸長をパンデミックが加速させたのは事実だが、それ以前からユーザー数は順調に伸びていた。今後もさらに発展するZwiftのこれからに注目したい。個人的には、室内で安全にサイクリングのエッセンス(ソーシャル性、レース、トレーニング)を楽しめるとあって、自転車の入り口として、あるいは他競技のプレイヤーが自転車を始めるきっかけとしてのポテンシャルにも注目している。

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世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスもなんとか開催

1903年の創始以来、2つの世界大戦時のみ中断した世界最大の自転車レース、〈ツール・ド・フランス〉。200人近い選手に、チームや運営スタッフを含めると、1500人規模の人員が3週間をかけて街から街へと移動するその形態は、このコロナ時代において最も動向が注目されるものであった。自転車ロードレースというフォーマットそのものが危機にあったと言っていい状況で、ツールは8月末に開幕と、例年よりおよそ2ヶ月遅れで開催された。

無観客、縮小した報道体制、7日間でチーム関係者に2名の感染者が出たら即撤退など、徹底した感染予防対策がとられ3週間のレースは、なんとか完遂した。200名近くが密集して1日5時間のレースをこなす3週間だったが、選手には感染者が出ず、コロナ禍の大規模スポーツイベントとしてひとつの成功例となった。

しかし、レースを統括するディレクターのクリスチャン・プリュドム氏が感染し、8日間のレース離脱を余儀なくされたほか、チーム関係者にも少数だが感染者が発生した。また、同じく秋開催となったイタリア一周レース〈ジロ・デ・イタリア〉では、大会期間中に有力選手が相次いで感染し、チームごと自主撤退する例も。感染が今も拡大するヨーロッパが主戦場となるロードレースにとって、2021年シーズンの見通しはいまだ不明瞭だ。

グラベルは旅を楽しむライドスタイルへ

2019年頃から日本でも人気の高まりを見せている、グラベルというジャンル。「砂利道」を意味するアメリカ発祥のカルチャーだ。ロードバイク然としながらも、オフロードの走破性に優れるグラベルバイクはオールマイティに使える一台として自転車ショップで見かけることも増えてきた。

アメリカで多く開催されているグラベルレースに合わせ、各メーカーによるレースバイクのリリースが進んだが、新型コロナウイルスの影響で重要なイベントは軒並みキャンセル。レーススタイルのグラベルよりも、バイクの積載量を活かしたバイクパッキングや旅を楽しむライドスタイルが広まった2020年となった。グラベルバイクは現代のランドナーになるかもしれない。

キャンプを伴う旅はもちろん、ロングライドのツーリングとも相性のよいグラベルバイク。その特性(と、日本では走りやすい長いグラベルが少ないこと)から、通勤バイクとしての需要喚起もみられるが、「何にでも使える」自転車としての魅力は自転車人口が増加中の今、さらに高まっていると言えるだろう。

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e-bikeの普及

都市型e-bikeとして人気を博しているVanMoof

世界的なe-bike(eバイク)の広まりは、自転車界にとって大きなトピックだ。いわゆる電動アシスト付き自転車、ということになるが、バッテリーの小型化もあり、鈍重な見た目と乗り味というステレオタイプは過去のものになりつつある。アシスト付きということで、自転車の持つスポーツ性が失われるかというとそうではなく、e-bikeに必要なバイクコントロールのスキルやフィジカルの要素は、確実にある。

体力差のあるベテランと初心者や、男女のペアでも同じ行程のライドを走れる機会を生み出すe-bike。乗れる距離が伸びることや、登れる坂が増えることで、スポーツバイクの楽しみを民主化し、ひいては自転車界全体のウェルネスにもつながっている。実用車然としたものから、小径車、MTB、ロードバイクなどあらゆる自転車ジャンルが「e化」しており、選択肢の幅も広がっている。アクティブな自転車の普及を考えた時に、最も必要とされるe-bikeは環境行政との相性もよく、今後にも期待がかかる。

サイクリング界のNIKE? スペシャライズドの快進撃つづく

SPECIALIZED〈TARMAC SL7〉

上のe-bikeで見たように、自転車は多分に機材スポーツである。からには、機材の良し悪しがレースの結果を左右する……ことは珍しくない。そして、使用機材が契約により決まっているプロ選手のバイクよりも、選択の自由がある日本国内のトップアマチュアレーサーのバイクを見ることで、今どのバイクが「勝てる」のかをうかがい知ることができる。

その意味で2020年における、スペシャライズドのロードバイク人気は凄まじいものがあった。2018・19年と「ホビーレーサーの甲子園」ツール・ド・おきなわの優勝バイクとなった〈Venge〉は、瞬く間に大人気の一台に。誰もがベタ褒めする速いバイクだったが、2020年のスペシャライズドはさらに速さを推し進める。7月末に発表された〈TARMAC SL7〉は、究極のオールラウンドバイクとして、売れ筋の〈Venge〉を廃盤にする衝撃的なデビューを飾った。

2020年、アマチュアレースが軒並み開催されなかったため、〈TARMAC SL7〉のシェア率などを見ることはできないが、プロのレースでは男女ともに世界選手権ロードレースの優勝バイクとなった。勝てるバイクをイノベーションとともに作りつづけるスペシャライズドの姿は、ランニングにおけるNIKEとどこかかぶって見えてくる。こんなバイクを作れるのも、ブランドの力を感じさせる。

バイクロアにみた、2020年の自転車の楽しみ方

〈秋ヶ瀬の森バイクロア〉は希有な自転車イベントだ。レースが中心でありながら、シリアスだけじゃない自転車の楽しみ方を提供している。本当の初心者だけが出場できるヴァージンクラス、デニムウェアの着用が出場条件となるデニムクラス、賑やかな仮装が彩りを添えるオウルクラスなど、「自転車の運動会にして文化祭」のコピーがぴったりはまる。

他の自転車イベントと異なりユニークなのは、他のスポーツ種目ともクロスオーバーしていること。トレイルランニングと合わせたパークランが種目としてあれば、会場に据えられたクライミングウォールではキッズたちが真剣な表情で壁に挑んでいる。家族連れで秋の日を楽しみに来ている方も多く、和やかな雰囲気はバイクロアならではだ。

今年は新型コロナウイルスの流行もあり、徹底した入場管理のもとで2年ぶりの開催となった〈秋ヶ瀬の森バイクロア〉は10回目の節目。運営に携わるもんじゃさんも、「やりたいことが多すぎる」と苦笑い。今年は高知での初開催もあり、全国各地に広まっているバイクロア。まだまだこの先も自転車の新しい楽しみ方を創出していきそうだ。自転車に乗らない人でも楽しめる自転車イベントがあれば、より自転車関係人口は広がっていく。

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