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毎年3月はB Corp月間となっています。B Corp企業を中心に、B Corpの認知向上やコミュニティの強化、実践に向けた学び合いを目指すキャンペーン月間が全世界で展開されました。

3月11日に開催された〈Meet the B〉は、日本では初めてB Corpが一堂に会すリアルイベントとなり、日本で活動する15社以上のB Corpや、そのムーブメントに携わる人たちが〈渋谷100BUNCH〉に集いました。

私たち株式会社アルティコも認証取得を目指すなか、イベントで行われたトークセッションを聴きに参加してきました。今特集でもお伝えしているように、国内認証企業が増えていることはよく理解していましたが、会場を埋め尽くすほどの参加者を目の当たりにして、B Corpの盛り上がりを肌で感じることになりました。

以前取材させていただいたovgo Bakerの溝渕さん、Allbirdsからは、このために来日されたサステナビリティオフィサーのハナさんが登壇されたスペシャルトークをそれぞれ、2回に分けてレポートします。

トーク1. 「いい会社が作る日本の『ローカル』な未来」地域を豊かに

トーク2.「B Corpのリーダーに聞く!『グローバルブランド』の現在地

「いい会社が作る日本の『ローカル』な未来」地域を豊かに

〈登壇者紹介(座談)〉

林千晶さん 株式会社Q0 代表取締役社長

2000年に株式会社ロフトワークを起業し、2022年まで代表取締役・会長を務める。退任後、「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的として2022年9月に株式会社Q0を設立。秋田・富山などの地域を拠点において、地元企業や創造的なリーダーとのコラボレーションやプロジェクトを企画・実装し、時代を代表するような「継承される地域」のデザインの創造を目指す。

溝渕 由樹さん 株式会社ovgo 代表取締役

慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、三井物産株式会社に新卒で入社。退社後、“食”起点での環境問題への取り組みを学ぶためブラジル・アメリカなどでの現地調査、DEAN&DELUCAでの勤務を経て、2020年に「環境や動物、あらゆる人々と、未来にとってやさしい食の選択肢を楽しく提供する」ことをミッションとするovgoを創業。全て植物性、かつできる限りオーガニック、国産の食材を使った焼き菓子を製造・販売するヴィーガンベイクショップ「ovgo Baker」を展開。2022年12月にB Corp認証を日本では16社目に取得。国内の飲食店での取得は初となる。

(司会)
鳥居 希さん 株式会社バリューブックス 取締役

モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社に15年間勤務。2015年、古本の買取・販売を行う株式会社バリューブックス(長野県上田市)入社。現在は同社にて、グローバルエコノミーを全ての人、コミュニティ、地球のためのものへと変えていくB Corporation™️の認証取得に向けて取り組む。自社の認証取得プロセスと並行して『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』を黒鳥社との共同プロジェクトによるコミュニティで翻訳。2022年6月、バリューブックス・パブリッシング第1弾の書籍として出版。

鳥居さん(以下、鳥))「いい会社が作る日本の『ローカル』な未来」とタイトルにもあるように、林さんには地方という文脈でお越しいただきました。B Corpの「B」は「Benefit For All」のB。大都市だけでなく、いろんな地域の人にとっていいビジネスであること、また、そこから生まれるビジネスが大事なのではないかということで、林さんのご意見をお伺いしたいと思います。


鳥居 希さん 株式会社バリューブックス取締役

林さん(以下、林))日本の人口1億2千万人を、人口が多い都市4千万人、中程4千万人、人口が少ない地域4千万人と、3つに分類してみます。これを日本地図に表すと、実は人口が多い都市や中程の地域は点に過ぎません。人口が少ない町や村が日本に広く分布するのです。「日本を元気にする=地方を元気にする」ということに気づき、Q0という会社を立ち上げました。現在は秋田、富山、佐賀の3拠点で事業を行っています。

鳥)対談のお相手は、昨年12月にB Corp認証を取得されたovgo Bakerの溝渕さんです。先日、知人がSNSで、アレルギーを持つお子さんも「ovgoのクッキーなら食べられた」と喜びの投稿をしていました。ビーガンってそういうことか!と思いました。

溝渕さん(以下、溝))もともと社会問題に関心があったことをきっかけに、完全プラントベースの食事を広げることで、環境問題や食糧問題に貢献できるのではないか、とovgoを設立しました。“もっといい食の選択肢を”という思いで作るビーガンクッキーは、どんな考えや制限のある人も同じものを食べられるというダイバーシティの観点からも選んでいただいています。

会社を初めて3年ですが、それ以前の社会人経験もたったの3年、しかも法務部員だった私は、環境や社会活動をしてきたわけではありません。オールバーズやパタゴニア、ファーメンステーションなど、B Corpをひとつの基準に社会問題に取り組まれている企業と同じスタンダードを持てることは自分たちの自信になり、対外的な信用度にもつながると考え、2021年からB Corp認証の申請準備を始めました。2年ほどかかり、昨年12月に取得しました。

企業の柱ともなる認証

鳥)溝渕さんは、ovgo創業の時からB Corp取得に向けて着実に積み上げてこられたんですよね。BIAは現在、5つのインパクトエリアがあります。ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、顧客。この相関図をどのように捉えられていますか?

溝)はい、うちの会社は株式会社化したときに、B Corpの取得を目指し始めました。ですから、日本の法制度はもちろん遵守しつつ、BIAに学びながら社内整備をしたところも多くあります。


溝渕 由樹さん 株式会社ovgo代表取締役

例えば、従業員に対してこんなアンケートをとるといい会社であるとか、会社のこんな情報を開示して従業員に説明したらいい、というようにガバナンスと従業員が繋がっていたり。また、環境の分野ではさまざまなデータを集めるのですが、これを対外的に示すことが重要になる中、環境とガバナンスが繋がっていたりなど、バラバラではなく関連する部分があるなと思いました。

鳥)カバーし合っていますよね。林さんはロフトワークとしても地域や行政と協働されてきましたし、これからQ0ではより地方や地域にフォーカスしていくとのことですが、B Corpに期待することはありますか?

林)私、実はB Corpを知って興味をもったのは結構早かったんです。キックスターター設立の時にお話を聞いたので、もうかなり早く。でも私が忘れてしまっているうちに、鳥居さんから日本語版ハンドブックの出版のお話や、溝渕さんからovgoが認証を取得されたなど、B Corpが日本で盛り上がっていると聞いて、今慌てて会社のメンバーにもハンドブックを読んでもらっています。でも、これまで国内で目立った企業が取得する事例があまりなかったのではないかと。


林千晶さん 株式会社Q0代表取締役社長

ロフトワークを設立したとき、女性が始めた会社ということもあり、準拠する何か大きな柱は欲しかったんです。私が選んだのは「プロジェクトマネジメントインスティチュート(PMI)」でした。世界の評価基準ですが日本でもトレーニングが受けやすい仕組みがあり、PMIを取得することで寄り添える柱ができました。

B Corpもそんな存在になり得ますよね。自分たちがいいと思う価値観が社会にとってもいいかどうか判断できる、しかも日本だけじゃなくグローバルに、そんなツールになってくれるといいんじゃないかなと。

コミュニティの力

鳥)もっと日本語の情報がなかった初期の頃に認証を取得された企業もあります。そこから徐々に増えてきましたが、ある程度の数が必要なんだなと。溝渕さん、いかがでしょうか?

溝)ovgoも日本語版〈 B Corp Hand Book〉がまだなかった時に始めたので、BIAをひとつひとつ紐解いていきました。さらに、BIAを提出した後のインタビューでは、B Labから日本の全般的な質問を受けるのです。

たとえば、従業員分野の社会保険については、アメリカとは異なる日本の制度を説明する必要がありました。そういった質問についてはここにいる企業のみなさんも、日本で申請される場合はほとんど同じ答えになるかと思います。しかし、それを一から説明することはグローバル基準の認証制度である難しさを痛感して、誰かと共有したいなと思いました。

鳥居さんにこの本をご紹介いただいてからは、相談できたり共有しあえる仲間が増えました。コミュニティで対応できるようになれば、ひとつの項目にかかる時間も短縮できるだろうし、徐々にハードルが下がっていくだろうなと思います。相談できるのは大事だなと。

鳥)国内ではなくグローバルな評価基準であることが重要ですよね。さらに、ただの評価基準に留まらず、コミュニティを生み出すムーブメントになっていることが特徴的だと思います。今日お集まりいただいているこのイベントは、まさにムーブメント。林さんは今、地域の方達と仕事をされていて、ムーブメントが後押ししてくれると感じることはありますか?

林)ありますね。まず、〈B Corp Hand Book〉を読んでいいなと思った点が、5つの評価指標の「従業員」分野から始まっているんですよね。従来のビジネスが顧客や株主を優先してきたのに対して、従業員との関わり方を大切にしていることがわかります。

たとえば、従業員に決算の内容を共有しているか、その読み解き方を教えているか、という評価項目がありますよね。私は社長だから決算書を読み解くトレーニングをせざるを得なかった。だから今読めるわけで、つまりは従業員と一緒だったんです。それを社員に教えてあげることが評価に値するという内容から、B Corpって「優れた会社」という承認ではなく、「優れた会社になろうと努力し続けている」という“動詞”としての仲間なんだなと思いました。

人口が右肩上がりに増えていた時代にビジネスが成功したルールでは、今後通用しません。地方では特に、凝り固まった考えをどんどん変えていかなきゃいけないんです。Q0がやろうとしているのは、地方に行って、20代や30代にやりたいことを聞いて必要なサポートをしてあげること。

私は年間10社の起業支援を指標にしています。そこで、BIAの中から最も重要だと思う具体的な20項目をピックアップして、伝えようと思っています。〈B Corp Hand Book〉を読まなければ気づかないこと、忘れてしまうこと、難しいからやらないことなど、地方企業にもB Corpの考え方がフィットする部分を広げていこうと思います。10年で100社に広がっていく計画です。ただ、自分たちが取得せずには無責任なので、Q0でも認証に向けて進めていきますね(笑)。

鳥)悪い面だけでなく良い面もあると思いますが、日本の会社が昔から良しとしてきた風習があるかもしれませんね。

溝)柔軟で広範に適用しうるという良い側面を持つかもしれませんが、日本の企業にはなんとなくの状態のものが多いと感じました。B Corpは、インクルーシブなところを大事にしているからこそ、明文化や透明性がひとつ大事な要素になります。B Corp認証を取ろうとしたら、今までも当然のようにやっていたことをはっきりと規程やルールとして明文化させるプロセスがたくさん出てくると思います。そして、従業員がアクセスできるようにしたり、顧客や取引先との間で対応しやすくなることで透明性が確保できます。

また、B Corpが“動詞”的と仰る林さんの意見に同感です。他の認証制度の場合、メンテナンスは必要だとしても同じところを維持していれば一度取得したものを失うことはありません。しかし、B Corpは違います。200点中80点以上で取得できる仕組みになっていて、ovgoはギリギリの点数でした。3年ごとの更新で同じ点数では格好もつかないし、社員みんなでこれを上げていきたいと思って取り組んでいます。そして、鳥居さんたちのバリューブックスもそうですが、取得する前から始まっているんです。取得を目指す方達にもコミュニティは広がっていて、今日集まってくださっているように、いろんな企業と刺激し合って点数を上げていけるのではないでしょうか。

グローバル基準で変えられる

林)「コミュニティ」の分野では、人種、民族をはじめダイバーシティの評価項目がありますよね。日本では取り組みが難しいと思ってしまうのですが、いかがですか。例えば、「女性、有色人種、その他アンダーレプレゼンテッドな人が経営するサプライヤーと取引している」だとか、「女性、有色人種、LGBTQ、障害のある人、低所得者など、これまで排除されてきた人たちを採用している」とあります。

鳥)有色人種を一つの例に、日本にダイバーシティがそもそもないのでは、というご意見があるかもしれませんが、私はそうじゃないと思っています。ダイバーシティとは、人種・民族だけじゃないですよね。経験してよかったなと思っているんですが、私は以前の職場と今では環境がかなり違っていて、日本地域独特の経済格差が生じていると感じました。もしかしたら、粒度が細かいのかもしれないけれど、多様性はあると思っています。

共存できる良い会社の物差しが必要です。完璧ではないのかもしれないけど、世界の認証としてB Corpがかなりその役目を果たしてくれるのではないでしょうか。「(B Corpの基準を取り入れていたら)儲からないんじゃないか?」と思われる方がいたら、その基準を変えたいですね。変えていけるひとつのツールだと思っています。

林)バリューブックスもQ0も、みなさんの会社も、いい会社だから持続可能なかたちで利益を上げられることを証明したいなと思いますよね。B Corpが普及していくことで実現しつつありますし、長い目で考えるとそれしかないですよね。

日本では男女格差も未だ激しいじゃないですか。以前、半導体関係の企業を取材したことがあります。男性社員しかいない状況に、このままではだめになってしまうと考えた社長は、女性の採用を行ったそうです。業務プロセスを細かく分けることで女性の配役を可能にすると、さまざまな女性の意見が取り入れられるようになってサービスや職場環境が改善され、売上も伸びたというお話でした。まさにこういうことじゃないですか?

溝)そうですよね、女性の中でもさまざまですし、男性もさまざま。性別を問わずにどんどん意見を言えるようになっていくといいですよね。

鳥)少なくとも意思決定の場にいることは重要ですし、さらに意見が取り入れられている理想的な状態ですね。

どんなにB Corpが増えて盛り上がったとしても、日本のジェンダーギャップの状況が変わらなければ、成功とは言えないでしょう。特に地方は顕著だと思うんです。B Corp認証は特定の個人が取り決めたものではなく、世界が選べる基準として常に内容を改善しています。これを使って日本も変わっていくといいなと思います。

溝)グローバルな認証だからといってハードルが高いと思われることも違っていますよね。世界中の人たちと同じ考えを大事にするという、ある意味B Corpの本質を理解して、裾野広くローカルなビジネスにも広がっていくといいなと思います。

小さい企業でも取れるんですか?とよく聞かれますが、むしろ小さい企業だから取りやすいこともあるし、大きい会社も同じ基準で取っているところがB Corpの面白いところだなと思います。

鳥)認証を取得された経験を生かして、これから取得を目指す企業をサポートしたいと思いますか?

溝)自分たちが取り組む環境配慮について理解者も増やしたいですし、環境や社会、ローカルといった大きなテーマには仲間と一緒に協力し合って取り組んでいきたいですね。手助けできることがあればしていきたいと思います。

林)今日のようなB Corpのイベントを秋田でもやってほしいです。

鳥)やりましょう。今、決定ですね!

トーク2.「B Corpのリーダーに聞く!「グローバルブランド」の現在地