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オーガニック、ヴィーガンを掲げるアメリカンベイクショップ〈ovgo Baker〉は昨年12月、国内で16企業目、飲食店では初となるB Corp認証を取得した。「おいしいクッキーで、環境と社会にやさしい食の選択肢があることを示したい」という〈ovgo Baker〉代表の溝渕由樹さんが、環境、動物、あらゆる人に配慮したインクルーシブな社会を考える。

〈ovgo Baker〉の「ovgo」は「Organic,Vegan,Gluten-free as Options」のこと。名前の通り、オーガニックやプラントベースにこだわるベイクショップだ。

ブランドを立ち上げたのは溝渕由樹さん。ロンドンに留学中、人権問題や環境問題を意識するようになったという。大学卒業後に就職した商社では法務部に配属され、海外の人権や労働問題にも触れるようになった。

「もともと食べることが大好きで海外の食文化にも興味があったことから、さまざまな社会課題を知るなかで、食のジャンルから環境問題に起因する人権問題や食料問題に取り組んでみたいと考えるようになりました。退職後、2ヶ月かけてアメリカとブラジルを旅して現地の食をリサーチしたのですが、そのときに出合ったのがプラントベースの焼き菓子。おいしいのはもちろん、動物性素材を不使用なので環境負荷が低く、ベジタリアンやヴィーガン、特定の宗教を信仰しているなど、食事制限のある人も味わえるプラントベースは、多様な嗜好やライフスタイルにマッチします。これに未来を感じ、帰国後、小学校の同級生とともに自作のヴィーガン対応のプラントベースクッキーをフリーマーケットなどで販売するようになりました。これが〈ovgo Baker〉立ち上げのきっかけです」

おいしく、楽しく、社会課題に向き合う

2020年に店舗を構え、2021年に株式会社化。会社として組織を整える必要があったことから、同時にB Corp認証取得も目指すことにした。

「株式会社化するタイミングで大学時代の先輩が合流してくれたのですが、先輩がアメリカ出身だったこともあり、サステナビリティに真剣に取り組むブランドとしてB Corp認証を取得し、海外にも進出しようという目標が定まりました。環境、従業員、顧客、地域、ガバナンスから成るB Corpの評価軸は非常にバランスが取れていて、私たちが目指す“グローバル基準”のより良い企業のありかたに合致していると感じました」

B Corp認証企業を目指し、BIAの内容に合わせて社内制度の整備をスタート。プラントベース&環境負荷の低いオーガニックやローカルの原材料使用といった、ものづくりにおけるコンセプトの徹底だけでなく、公平で公正な社内制度、透明性の高い財務報告書、排出する二酸化炭素のオフセットなどにも取り組んだ。

溝渕さんがプラントベースにこだわる理由は、「そもそも人権や貧困問題と食料問題は切っても切り離せない関係にあり、さらに気候変動などの環境問題がそれらを悪化させる原因となっているから」

「プラントベースの食品は動物性の食材に比べて環境負荷の低い植物性の食材で作られるため、環境にも動物にもやさしいといえます。実際、私たちが製造するクッキーのライフサイクルアセスメント分析(クッキーの原材料調達から販売・廃棄までの温室効果ガス排出量を計測する)を実施した結果、〈ovgo Baker〉のチョコレートチップクッキーは、卵やバターなど乳製品を使用して製造する一般的なチョコレートチップクッキーと比較して、温室効果ガス排出量をおよそ84%削減できていることが判明しました。さらに精製の段階で動物性素材を使わない砂糖の使用に限定すれば、ヴィーガンの方も安心して口にできます。『誰もがおいしく、楽しく食べられる』というオプションを提供することで、社会課題に興味をもってもらうきっかけづくりができたらと考えてきました」

B Corp認証企業のメリット

創業時からの念願だったB Corp認証企業に仲間入りしたいま、B Corpを起点としてプラントベースの普及にさらに取り組んでいく予定だ。

「すでにB Corp認証を取得している企業はみな、本質的で先進的な取り組みを行っており、そこに仲間入りできたことをうれしく思っています。自分たちが目指すビジネスがグローバルに評価されたということは、私たち経営陣だけでなく〈ovgo Baker〉で働くスタッフにとっても大きなモチベーションになっているようです。

さらに、取得を検討している大手企業からコンタクトがあったり、インスタライブなどで『B Corp認証を取得した』と話すと一般の人から『B Corpってなに?』という質問をいただいたり、B Corpへの世間の注目の高まりを感じています。これまでは『おいしく、楽しく』を大切にするがゆえに、社会課題に対するメッセージを前面に押し出すことを控えてきましたが、B Corpというお墨付きを受けて今年は一歩踏み込んだ発信ができそう」

今後はB Corp取得企業の原料を取り入れるなど、原料調達の段階でB Corpコミュニティと手を取り合うことも考えている。よりよい商品を目指す取り組みを、B Corpの仲間たちとの連携が加速させるかもしれない。

B Corpの先に〈ovgo Baker〉が目指すもの

この春、第1号店の〈ovgo Baker Edo st.〉を改装のため一時休止し、東日本橋に新たな店舗を構える。2フロアを擁する新店舗は〈ovgo〉のテストキッチンと位置付け、これまでできなかったプラントベース&ヴィーガンの食事の提供をスタートする予定だ。

「スープやサンドイッチの提供を考えていますが、現在、スタッフみんなで商品開発に取り組んでいるところです。スタッフの賄いもヴィーガン仕様になるんですよ。スタッフの中にはヴィーガンもいればお肉を食べる人もいて志向は人それぞれですが、私は、みんながヴィーガンになる必要はないと考えています。ヴィーガンという食の選択肢をきっかけに、ファッション、コスメ、インテリアへと、環境を意識した商品選びの基準が幅広いジャンルに広まっていけばいい。それが暮らしやすい社会の第一歩になるはずです」

本質をわかってもらうのには時間が必要だ。メッセージをアピールしすぎて「難しそう、面倒そう」と敬遠されてしまうなら、それはあまりにももったいない。メッセージを受けとめてもらえる人にはファンになってもらい、そうでない人には違うところ――おいしさや楽しさで評価してもらえればいい。

「私たちが目指すのは、プラントベースやヴィーガンの食品があたりまえの選択肢になっている社会です。わざわざパッケージの裏面をチェックせずとも、性別、年齢、国籍、宗教、食事制限を問わず、誰もが安心して食品を手に取れる。そんな食のシーンを、焦らず、気楽に、無理なく作っていければいいですね」

ovgobaker.com
ovgo B.a.k.e.r Edo St.はビルの耐震工事のため2/20(月)より休業。

ovgo Baker Edo St. EAST
3/1(水)から東日本橋駅に新店がOPENする。