創業間もない〈オールバーズ〉の信頼性を高めてくれたB Corp
ハイスペックなランニングシューズは石油由来の素材でないと作れない――そんな常識を覆し、天然素材をベースに仕立てた高機能シューズを次々と生み出す、サンフランシスコ発のサステナブルなシューズブランド〈オールバーズ〉。〈オールバーズ〉がB Corp認証企業となったのは、創業間もない2016年のことだった。同社のサステナビリティ分野の責任者を務めるハナ・カジムラさんが、この認証を取得した背景を語ってくれた。
「〈オールバーズ〉は創業当時から環境負荷を抑えたものづくりを企業理念に掲げていますが、まだ名前の知られていない企業のメッセージを信じてもらうことは本当に難しいのです。『私たちは環境に配慮したビジネスを行っています』とか、『私たちの製品はエコフレンドリーです』とアピールする企業はたくさんありますが、グリーンウォッシュという言葉があるように、現代の消費者はそうしたメッセージを懐疑的に見ています。
では信頼性を高めるためになにができるのか。B Corpは独立した第三者機関が管理する認証制度であり、環境問題に取り組むパイオニア企業がすでに取得済みということもあって社会からの信頼がありました。これにチャレンジすることで、私たちが環境へのパフォーマンスに真剣に取り組んでおり、口先だけでなく行動する企業であることを証明できる、そう考えたのです」
取得したB Corp認証を更新するためには3年ごとにBIA(B Impact Assessment)に回答しなくてはいけない。現在、2019年に続いて2回目の更新を果たすべく、BIAの回答を認証機関である〈B Lab〉に提出したところだが、〈オールバーズ〉では全社員でこのアセスメントに取り組んでいるという。
「私たちの経営理念にまつわる環境分野のスコアは高いものの、コミュニティへの貢献や従業員にとってのよりよい環境づくりなど、改善すべきことは多々あります。会社の規模が大きくなるにつれ、企業としてできることも多くなりますが、その分、取り組むべき課題のハードルもあがっていく……アセスメントを受ける度にそう痛感します。
アセスメントの内容は広範囲をカバーしており、企業としてはすべての項目で高い基準を満たす必要があると考えますが、その中でフォーカスしているのは、やはり環境です。この分野でのリーディングカンパニーとなり、気候変動を逆転させて人道正義の実現に貢献し、社会にインパクトをもたらしていくことが〈オールバーズ〉の使命だと考えています」
実際にB Corpコミュニティの一員となったことでそのムーブメントの盛り上がりを肌で感じている、とハナさん。近年実感するのは、消費者がビジネスへ期待することの変化だという。
「従来、消費者が企業に期待していたことは製品にまつわる安全・安心という責任でした。それが現在は、人にも環境にもダメージをもたらさない製品を作る・売るという、より広範な責任に変化してきています。たとえばファクトリービジネスを例にあげると、これまでは『シューズメーカーは靴を作って売りさえすればいい』という考え方が一般的でした。けれども、このような旧来型の考え方は消費者に受け入れられなくなっています。B Corpがさらに一般的なものになっていったら、企業に課せられる責任はより幅広く、さらにレベルの高いものとなっていくはずです」
企業が担う責任として、透明性とトレーサビリティを実現
ビジネスにまつわるあらゆる数値を計測、公開して透明性を確保している〈オールバーズ〉だが、ものづくりの課題はまさに透明性とトレーサビリティにあると考えている。
「1足の靴を作るのに多くの異なるパーツが必要ですが、この業界ではいまだに紙ベースでのやりとりや管理が一般的。それぞれのパーツがどこからやってきたか、どうやって作られたのかをたどり、正確なデータを示すことが難しいのです。そこで私たちは加工されていない素材(ウール)を採用することにしました。比較的小規模なサプライチェーンであればトレーサビリティを実現しやすくなりますから。
それだけでなく、私たちは日々、サプライヤーと対話を重ねながら製造業におけるサステナビリティの実現に取り組んでいます。これまでものづくりの責任の所在はあいまいでした。たとえばここに1枚のウールのセーターがあるとします。セーターの素材を提供する業者はただ依頼主に求められた素材を提供するだけ。一方、製造を手掛けるメーカーは素材調達のプロセスには責任を持たない、それが一般的でした。けれども、工場とメーカーが強固につながれば、どこからきたウールでどう加工され、どこで製造されたか、消費者にすべてのプロフィールを公開できるセーターを作り出すことができます。そしてこうした製品がこれからのビジネスモデルの大転換を生み出すかもしれないのです。大切なのは、サプライヤーと手を組んで現在のビジネスモデルを変えていくこと。透明性とトレーサビリティの実現はその第一歩なのです」
ムーブメントの語り部として社会にインパクトを与える
〈オールバーズ〉にとって理想のビジネスは?と問うと、「消費者が必要とするものを、持続可能かつ環境に負荷を与えない方法で製造し、販売すること。より少ないカーボンフットプリントで製品を製造しつつ、同時に生態系や自然の営みを再構築させていくこと」とハナさん。そのビジネスを通じて消費者に気づきを与え、よりよいビジネスモデルの実現に貢献するという使命がある。
たとえば、2022年には競合であるアディダスとコラボレーションを果たし、両ブランド史上でもっともカーボンフットプリントを抑えた「ADIZERO X ALLBIRDS 2.94 KG CO2E」を発売した。競合であるという枠を超え、それぞれのブランドがもつ専門知識を結集させてこれまでになかったスマートな一足を生み出した経験は、旧来型のしきたりや業界のルールから脱却した新しいビジネスモデルが構築されつつあることを実感させてくれたそうだ。
「ライバルと競争するために自分たちが開発した手法を秘密にする、そんなビジネスはもうおしまい。これからはあらゆる情報をみんなでシェアし、企業同士で助け合い、ともに手を取り合って前に進むべきだと感じています。私たちはまだまだ小さな企業ですが、アディダスのような大企業と手を組んで革新的な製品を生み出すことで社会にインパクトを与えることができます。また、カーボンフットプリントを低減させる方法がわからないという企業をサポートすることもできます。とくに大企業は、規模が大きいがゆえに新しい動きに対して腰が重くなりがちですが、そんなときこそ私たちの出番。〈オールバーズ〉はこうしたムーブメントの語り部として、古いシステムを変えていくさまを社会に示すことができるのです」
このようなコラボレーションの醍醐味は、〈オールバーズ〉を知らない消費者にも広くリーチできること。だからコラボレーションには積極的に取り組みたいという。尊敬する企業はたくさんあるけれど、今後、手を組んでみたいのは業種の異なる企業だ。たとえば食品メーカー、総合素材メーカー、化学メーカー、運送業やロジスティクスなど。大転換を迎えつつあるこれらの業界との業種を超えた取り組みは、社会へ大きな変革をもたらすステップになり得るからだ。
消費者がもつ“力”を活用し、責任ある購買を
そうした社会へのインパクトを前に、私たち消費者はどう行動すればいいのだろう。どのような意識をもつことが望ましい変化を起こすのだろうか。
「消費者は大きな力をもっていることを忘れないでください。製品を選択すること、つまり製品を通じて企業にお金を落とすことは、その企業をサポートすることにつながります。だから責任を持って製品を選んでいただきたいのです。責任を持つとは、企業に対して『これはどこからきたものか』『どうやって作られたものか』を質問し、納得のいく答えをもつ会社の製品を選ぶことです。一方、企業は現代の消費者に対し、なぜ自社の製品がいいのか、自分たちの製品のプロフィールやものづくりのストーリーをわかりやすく提示してください。消費者と企業のこのようなやりとりが、よりよいビジネスを生んでいくと信じています」