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昨年、全日本大学女子駅伝対校選手権大会で優勝し、史上初の大会6連覇を成し遂げた名城大学女子駅伝部。全日本大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝)でも優勝して5連覇したことで、2大大学女子駅伝での5年連続2冠を達成した。女子大学駅伝の中で圧倒的な強さを見せる同大学で卒業を間近に控えた山本有真選手、2年生の谷本七星選手、1年生の米澤奈々香選手の3名に話を聞く機会を得た。終始明るい笑顔で話す3人の姿に、名城大学の強さの一端が垣間見えた。

一年を振り返って

史上最多の全日本大学女子駅伝対校選手権大会6連覇がかかっていた2022年シーズンは、勝って当たり前と思われてしまう名城大学にとって、重圧に感じることはなかったのだろうか。どんなマインドセットでシーズンに臨んだのか聞いてみる。

山本「6連覇という史上最多記録は、一年間ずっと掲げてきた目標でした。“最多”って付く連覇は、今までの先輩たちが一個一個積み上げてきてくれた伝統なんですけど、自分たちの代でそれを達成できたことは嬉しかったです。

〈現状打破 チームのため 私がやる〉というチーム目標でやってきた。最後の〈私がやる〉というところで、自主性や主体性を意識して、みんなが自らチームのために動くようにしたかった。駅伝の前は試合で走れないBチームのメンバーも自分たちが勢いづけようという気持ちで率先して練習したり、チームを勢いづけてくれた。そういうチームができたと思っています」


山本有真(やまもとゆま)1年時から4年時まで全日本と富士山の両駅伝を走り、7度区間賞を獲得

高校生の頃から注目を浴び、昨年名城に入学したばかりでレギュラー入りした米澤奈々香選手も、チームの力を強調する。

米澤「ずっとテレビで見てきた名城大学に入学して、大学での2大駅伝に出走することができて、築き上げてくれた連覇に自分も貢献できたかなってという点で、すごく嬉しい気持ちです。支えてくださった方々への感謝の気持ちや、一緒に1年間頑張ってきた先輩方や同期たちと掴み取った優勝だったので、忘れられない経験になりました。

憧れだった先輩たちは、これまでレースで集中した姿や真剣な姿しか見えていなかったので、名城大学に入学して、一緒に生活してみて、生活面ではこういうところもあるんだとか、全てにおいて厳しいわけじゃなくて、メリハリもしっかりとあって、こういう選手が強くなるんだろうなと学ばせてもらいました」


米澤奈々香(よねざわななか)今年2月に開催された世界クロスカントリー選手権にU20日本代表として出場

昨年、全日本、富士山ともに重要な区間を任された谷本七星選手も〈チームのため 私がやる〉を強く意識してレースに臨んだという。

谷本「全日本は一昨年と引き続き4区を走ったんです。どちらも小林成美先輩に襷渡しをしました。一昨年は一年生で、新鮮な気持ちでユニフォームを着て、思い切りがむしゃらに走ろうと思って走って区間新記録で渡せました。昨年は、〈チームのため 私がやる〉とスローガンにあるように、チームのため・私が・やるというこのセットで強い考え、思いを持っていて“私の記録だけど、チームのための記録だから、ここで私がやらないといけない”という強い気持ちで挑みました。結果的に大幅に記録を更新することができたのですが、スローガンはチームのためと捉えましたね。

富士山の方では逆に小林成美先輩から襷をもらったんですが、会見でも言ったのかな?「絶対楽しいから」と言われたんですけど、楽しかったのは平坦の3kmだけでした(笑)。ひたすら坂道で、歩いてしまいたいと思っちゃったんですけど、せっかく任せていただいて、重要な目玉区間なので、チームのために私が犠牲になってやり切る、ゴールまで襷を届けるという強い気持ちで〈チームのため 私がやる〉で走り切りました、なんとか」

谷本七星(たにもとななせ)2022年の全日本大学女子駅伝の4区では自身が持っていた区間記録を23秒更新。

連覇の秘密

大学として6連覇を達成するというのは容易ではない。なぜなら4年間で学生は全員入れ替わるわけで、強い選手が卒業してもチームの力を維持する要素が必要になるからだ。名城大学の強さを長きに渡って支える要素は何なのか?3人の話からそれが見えてくる。

山本「初優勝の時からみんな駅伝シーズンになると、昔の駅伝をみんなで見返したりするんです。だから、初優勝して米田先生が号泣しているシーンも、先輩たちが頑張ってる姿も目に焼き付いているので、この伝統を受け継がなきゃ、次は自分たちがやるんだという気持ちになるんだと思います。昔の先輩たちが本当に厳しくやってきたことも聞いていて、名城の駅伝部がどのようにして連覇に繋がっているのかということも受け継がれている。先輩たちがやってきたことを伝統を崩さずに続けているのが、連覇に繋がっているのかな。

本当に意識高い子は、(谷本)七星とかは、映像を巻き戻して自分が走る区間をもう一回見直したり。コースをそこで見て研究したりする子もいます」

谷本「先輩に聞いたりもします。ここがきつかったよ、とか直接聞いたり」

米澤「監督は「勝つことに慣れすぎてる、当たり前だと思うな」と注意喚起もしてくださって、負けの怖さを知らないからこそ強い部分もあるけど、負けたらどんなに悔しいか想像を促してくれて、それで絶対に負けたくないなという気持ちにもなるんです」

名城名物の変化走とシューズ

ここで名城の強さの秘密にさらに迫るために、練習の具体的な内容について聞いてみる。最も効果があったと思うスピード練習を問うと、名城ならではのメニューを教えてくれた。

山本「名城で定番のメニューが2つあるんです。〈400mの変化走〉と〈1000mの変化走〉で、練習でこれが入ると、あ、きたなと思うんです。〈400mの変化走〉は、例えば400mを74秒で走り、100mを25秒でつないで、また400mを74秒で走ります。もしトータルで3000mだったら、5本(400m+100mを5本で2500m)をやって6本目はリカバリー分も含めた500mを走るんです。それでちょうど3000mになる。

練習ではこの3000m×2セットをやって、リカバリーをとってから1000m1本を全力でやったりするんです。こうしてスピード持久力を鍛えてから1000mダッシュするので、ラストスパートを意識してやってるかなと」

ではこうした練習の際はどういうシューズを履いているのだろう。

谷本「400の時は割とスパイクが多くて、〈ナイキ ズームX ドラゴンフライ〉をよく履いています。1000の変化走だと4分の時に足がもつれちゃうというか、スパイクだと4分でうまく走れなくて、〈ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト% 2〉や〈ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2〉を履いています」

山本「アップの時は、これ〈ナイキ インヴィンシブル 3〉。名城では人気ですよ」

谷本「ほとんど〈ナイキ インヴィンシブル 3〉です。それか〈ナイキ ペガサス ターボ ネクストネイチャー〉の2つですね」

山本「すこし速いジョグとか集団走、ダウンジョグも〈ナイキ インヴィンシブル 3〉ですね。ドリルや動き作りの時もこのシューズですよ。クッション性があるところは安心して走れるので、そこはいいし。私よく足底が痛くなるんですけど、足底は踵が痛くなるじゃないですか、その踵をカバーしてくれるし、長く走れるなと思います」

名城大学の3選手からは〈ナイキ インヴィンシブル 3〉の汎用性の高さが伺えた。

走る喜び

こうしたきつい練習もこなしながら、どこまでも明るいのが名城大学女子駅伝部の特徴だ。競技でありながら走ることを楽しんでいる彼女たちのモチベーションは、どこにあるのだろう。

山本「私は競技を通じていろんな人と関われること。後輩も先輩もそうだし大人の方とか、こういうメディアの方とか、もっと実業団の方と関われる機会が多くて、かつ仲良くなれるところは本当にいろんな景色が見えるし、自分にとってよかったと思うところです。いろんな人の人生をみられる。大人の方の姿をみたり、逆に名城に練習しにくる中学生とか、高校生とかも関わったりして、そっちでもパワーをもらったりしています」

米澤「私は陸上をしていて、苦しいこととか辛いことの方が多いんですけど、やっぱり自己ベストを更新する時の嬉しさは、その苦しさを上回る感じがある。そこが今続けられている理由かなって思いますし、その苦しい練習をともに乗り越える仲間がいるのはすごく大きくて。苦しいからこそ乗り越えた時に絆が深まる。ポイント練習の後のダウンジョグとかも“頑張った〜やりきった〜”とみんなで楽しんで走れるので、そうしたところが陸上・長距離の魅力かと思います」

山本「アップとダウンとでは全然表情が違うよね(笑)」

谷本「私は小学校の時に、公園に集まって走る会に参加させてもらったんですよ。ランニングコミュニティみたいなところで。一般市民ランナーだけど箱根駅伝経験者だったり、全然経験のないお医者さんで、大人になってから走り始めたけどめっちゃ速くなったとか、たくさんの方に会えて。走りながらだからこそ、その機会にそうした人たちとたくさん話せる。走ることをきっかけにいろんな方と出会えて、いろんな経験をさせてもらいました。それに、話すだけじゃ感じられない、一緒に走ることで、すごい意思疎通があるのがわかりません?一緒に走ると同志みたいな気持ちになるので、そういう感覚になれるのって、走るのっていいことだな、楽しいなと思います」

大学生でありながら、競技一辺倒ではなく、走ることを通じて仲間や社会と繋がっている意識を持っている名城大学の選手たち。笑顔の秘密は、こんなマインドセットが受け継がれていることにあるのだろう。エリートランナーでありながら“走ること”への喜びを持ち続けている彼女たちの活躍を、これからも見守りたい。

山本有真(やまもとゆま)

山本有真(やまもとゆま)

1年時から4年時まで全日本と富士山の両駅伝を走り、7度区間賞を獲得。昨年10月の栃木国体5000mで日本人学生最高タイムをマーク。今年2月に開催されたアジア室内陸上、3000mで3位に。

谷本七星(たにもとななせ)

谷本七星(たにもとななせ)

2022年の全日本大学女子駅伝の4区では自身が持っていた区間記録を23秒更新。2021年のU20日本選手権では、3000mSCを大会記録で優勝、1500mで4位になっている。

米澤奈々香(よねざわななか)

米澤奈々香(よねざわななか)

仙台育英高校時代に出場した日本選手権1500mで2位に。1500mでは高校歴代3位の記録を持っている。今年2月に開催された世界クロスカントリー選手権にU20日本代表として出場。