写真左:ポーラ・ラドクリフ 写真右:ハイレ・ゲブレセラシェ
現地時間の日曜日に開催されたベルリン・マラソンには男女の世界記録保持者が出場しました。エチオピアのハイレ・ゲブレセラシェ(38歳)とイギリスのポーラ・ラドクリフ(37歳)です。残念ながら優勝は別の選手に譲り、ゲブレセラシェは世界記録を破られてしまいました(同じくエチオピアのパトリック・マカウが2時間3分38秒の世界新で優勝)が、両者ともロンドン・オリンピックを視野に入れて現役続行を表明しています。
現役のトップ・アスリートとしては2人とも"高齢"。ランニングにメンタルが重要で年齢を重ねるほどに有利、とはいえ、身体能力の高さは歳とともに衰えていくはず。ところが、そこに年齢は関係ない、もしくはさほど影響しない、という科学的根拠があるのです。
数年前、ドイツの体育大学で、40万レースに及ぶマラソンとハーフ・マラソンの20歳から79歳までの完走タイムを調べました。その結果、20歳と50歳の間に、タイムの違いはなかったのです。50歳から69歳でも10年あたりで2.6~4.4%の違いしかなかったと言います。研究者たちは「高齢のアスリートは、人生を重ねるほど高度な整理学的適応性を保つことができる」と記しています。
これはランニング人口が増えていること、もっと言えば高齢化していることの一部を説明しているともとれるでしょう。ランニング人口の平均年齢は、1980年には男性34歳、女性31歳だったのに対し、去年は男性40歳、女性35歳に上昇。現在はマラソン大会の完走者中、46%が40歳以上(1980年では26%だった)となっています。
エリートランナーか初心者かにかかわらず、マラソンやトライアスロン、もっといえばどんな長距離レースでもそのための日常的なトレーニングは厳しくつらいものです。シン・スプリント、アキレス腱やじん帯を痛めるなどのケガのリスクもあります。
どのようにすれば歳を重ねてからでも長くスポーツを楽しむことができるのでしょうか。
63歳からシリアスランナーとなったある退役軍人は、食事がキーだと言います。63歳当時、高血圧で理想体重より11キロほど太っていた彼は、全ての食事を記録するようになりました。その結果、ポテトチップス、ハンバーガー、フレンチフライなどを多く食べていたことに気づき、減塩にし、加工食品、赤肉、ピザを食べなくなりました。じゃがいもですら少量をたまに食べる程度にしたと言います。現在75歳のこの男性は、今年の2月に最高齢で南極マラソンに出場し、世界七大陸すべてのマラソン大会への出場経験を持っています。
デンマーク北部に住む52歳の男性は、かつて厳寒の真冬だけは走っていませんでした。しかし、いまは一年中、週5~6回必ず走っています。ポイントは20km以上走らないこと。コンスタントに短い距離を走り続けるだけで十分な準備になると彼は言い、すでに127のフルマラソンを、昨年だけで21大会に出場していることを知れば、十分効果的なのかもしれません。
最適なシューズを履くことも大切です。ベルギーのランニングシューズ・ラボでは、室内のトラックをランナーに走らせ、その時の地面につく足をスキャンすることで最適なシューズを提案しています。あのラドクリフ選手も通っているそうです。経営者によれば、50~60%の人がフィットしていないシューズを履いていると言います。
かつて競技選手で現在はマラソン・ツアー&トラベルという世界中のマラソン大会へのパックツアー会社を経営するトム・ギリガン(62歳)にとって一番大変なのはいかにパッションを保ち続けるかだそうです。彼はこれまで34回行われたバミューダ・トライアングル・チャレンジに33回参加していて、この大会への参加が彼のモチベーションとなっています。
あるいは、"成功"が長年の経験の結果となる人もいます。72歳のオーストラリア在住の男性は21年にわたり、ランニングを楽しんできました。2000年にはランニング・クラブに入り、その数日後シドニー・オリンピックのためにデザインされたコースを走るホスト・シティー・マラソンに参加したことで、ランニングの虜となります。その後、チームメイトから様々なことを教わり、あらゆるランニングに関する書籍を読み漁りました。今年の4月にはキャンベラ・ハーフマラソンの70歳以上部門で、1時間47分32秒のタイムを記録し優勝。表彰式ではメダルやトロフィーではなく、ラドクリフ選手の著書『How to Run』を賞品として授与されました。様々な文献や選手の声で学んで来た彼は、「僕の知らないことは何も書かれてないんだよね」と苦笑まじりのジョークを放ったそうです。
食事、頻度と強度、シューズ、モチベーション、そしてこうしたすべてを包括する知識。onyourmarkユーザーのみなさんなら、すでにご存じのポイントばかりだと思いますが、年齢を重ねれば重ねるほど、これらの蓄積は増えていきます。
長く走り続けるための最大のポイントは、歳を重ねることに集約されるのかもしれませんね。
(NY Timesより/リサーチ 坂野晴彦)