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前回は、どんなレベルでスポーツしていても無理しないで楽しみながら続けることと、体の中の反応を感じることが大切という話をしました。スポーツしているときに体の中で何が起こっているのか理解することで、トレーニングの質を高めるだけでなく、休養や栄養の取り方についても関心が深まってくると思います。

エネルギーの正体はATP

車の燃料がガソリンや電気なら、私たちの燃料は食べ物です。食事から栄養素を体内に取り込んで蓄え、「代謝」という幾つもの反応を通してエネルギーを作り出し使っています。食事から摂る栄養素のうちエネルギーの源となるのは、糖(糖質)、脂肪(脂質)、タンパク質の三つです。糖というのは炭水化物や砂糖、食物繊維など、脂肪は油やバター、そしてタンパク質は肉や魚、豆腐、卵などに多く含まれています。

私たちのエネルギーというのは、糖、脂肪、タンパク質を、酸素と反応させて作る「ATP」という化学物質から産まれます。主に細胞内の「ミトコンドリア」という器官で、沢山のATPが作られています。(→ATPについて)

糖は素早くエネルギーを生み出す

一方で、糖だけは酸素がなくても少量ですが素早くATPを作り出すことができます。これがスポーツする上でとても重要なのです。このときに副産物として産まれるのが「乳酸」という物質です。乳酸は酸ですからこれが溜まると筋肉は酸性になってしまい、長く運動を続けることが出来なくなってしまいます。

そのことから、乳酸は代謝によって出来てしまう老廃物であり、疲労物質であると考えられていました。しかし乳酸も、最終的にはミトコンドリアで酸化されATPになるのです。乳酸を酸化して再びエネルギーを取り出す能力には個人差がありますが、トレーニングによって向上させることが出来ます。そういったお話を何回かに渡ってしていくつもりです。

糖と脂肪はどちらも使われている

人は寝ているときも、考え事をしているときも、運動しているときも、糖と脂肪の両方からエネルギーを作り出しています。人間の脳には糖からしかエネルギーを供給することができないことが知られていますし、心臓を動かす筋肉である心筋は脂肪をエネルギーの材料に使います。ですから糖と脂肪のどちらがなくても生きていくことは出来ませんし、どちらかのみを使って運動することは出来ません。

ですが、運動強度の低いときと高いときでは、動員される筋線維の違いから、脂肪と糖の使われる割合が変化します。運動強度が低ければ脂肪の割合が多く、運動強度が高くなるほど糖の割合が増えていきます。運動強度がかなり高くなると脂肪の利用は一気に減って、殆ど糖からしかエネルギーを取り出すことが出来なくなります。

脂肪だけを使って運動することはできないけれど

シェイプアップやダイエットが目的であれば、糖と脂肪の利用度を考えるよりも消費するカロリーの総量を増やすことが必要になってきます。具体的には、低めの強度(会話が出来るくらい。最大心拍数の50〜65%程度)で時間と頻度が多い方が良いということです。息が乱れてフォームが崩れるまできつく感じていれば、脂肪よりも糖を多く利用していることになるし、長い時間続けられないので、そこまで強度を上げる必要はないでしょう。

一方でマラソンの記録を伸ばしたい人や、競技レベルの向上を目指している人にとっては、糖と脂肪の利用度を考えることはとても重要になってきます。

次回は糖と脂肪の特徴の違いや、フルマラソンやトライアスロンなど、エンデュランス・スポーツのエネルギーについてお話ししたいと思います。

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ

脚注:
ATP(アデノシン三リン酸)は、アデノシンにリン酸が三つくっついた形の化合物です。エネルギーはリン酸の方に蓄えられています。リン酸は磁石の同じ極同士のように反発し合うものですが、それを無理矢理テープのようなもので縛り付けている状態です。
このATPからリン酸が一つ外れ、ADP(アデノシン二リン酸)とリン酸になるときにリン酸が貯め込んでいたエネルギーが放出します。これが私たちのエネルギーなのです。
ATPを作る主な材料は糖と脂肪です。タンパク質(アミノ酸)からもATPを作ることが出来ますが予備的なものと考えられています。それよりもタンパク質は酵素として代謝反応を仲介する役割を担っています。ビタミンとミネラルからはATPを作ることが出来ませんが、ビタミンも酵素の働きを助けることで代謝に関わっています。
ATPを作る主要な代謝経路がクエン酸回路(TCA回路)であり、細胞のミトコンドリアで行われています。糖と脂肪、タンパク質は細胞のミトコンドリアで酸素を媒介にして水と二酸化炭素になるときに、沢山のATP(エネルギー)が抜き出されます。これを酸化系と呼びます。
一方で糖から酸素を使わずにATPを作り出す反応を解糖系と呼びます。スポーツする上で重要なのは解糖系の反応です。
またATPはエネルギーを放出するとADPとリン酸に分かれますが、ADPにリン酸を合成させることにより、再びATPになることが出来ます。つまりATPは再生が可能と言うことです。
ATPはスポーツしていれば2秒で無くなってしまうほどの量しか蓄えておけないので、生きている限り常に作り続けなければならないのです。
(本文へ)

監修者:肥後徳浩

元自転車競技選手。自転車選手時代にコーチから学んだトレーニング理論をベースに、方法よりも目的を生理学的、力学的に「理解する」ことと、体の反応を「感じる」ことを大切に、日々トレーニングに取り組んでいる。音楽レーベル「Mary Joy Recordings」主宰。
www.maryjoy.net