先日、ニューイングランド医療ジャーナルにマラソンと心停止の関係に関する研究結果が発表されました。研究によると、米国では2000年から2010年にかけて、1090万人に及ぶフルマラソンとハーフマラソン参加者のうち、59人のランナーに心停止の事例があったそうです(そのうち42人は致命的な心停止)。
ほんとうに痛ましい結果ですが、その確率という部分に注目してみると、25万9千人の参加者につき1人の死亡事故が起こった計算になります。これは一般集団における心停止による死亡率=1/12万5千と比較して半分程度に留まっていたのです。
研究チームは、心臓に問題があった31人(死亡した23人を含む)の詳細な医療情報を追跡することができました。それによると24人には、心臓の異常、主に心筋症(心臓の筋肉の肥厚)があったことがわかりました。残りは、アテローム性動脈硬化症(動脈の内側に粥状[アテローム性]の隆起[プラーク]が発生する状態)がありました。心停止に陥ったランナーの平均年齢は42歳で、ほとんどが男性(59人中51人)でした。また、40件がフルマラソンで、19件がハーフマラソンで起こっています。
研究者は、10年間にわたる調査期間中に、長距離走のイベントへの参加者が急増していることも指摘しています。 昨年米国では200万人以上の人がフルとハーフのマラソンを走っており、これは2000年の倍以上の数だといいます。新規参入者の多くは中高年で、高血圧、高コレステロール、肥満などといった心臓病への多くの危険因子を抱えた人たちですから心停止のリスクが高まることが懸念されます。
また、この研究の注目すべきポイントはマラソン中に心停止となった人たちの生存率が29%と、一般的な病院外での生存率=8%を大きく上回っていたことです。研究者はこの理由を、レース中に倒れたほとんどの人が、バイスタンダー(救急現場に居合わせた人)や医療関係者によって心肺蘇生の措置を受けることができたからだといいます。こうしたことから、レースや練習におけるバイスタンダーの役割(心肺蘇生の技術を習得しておくこと)の重要性も垣間見えます。
今回の研究では、マラソンが直接的に心停止に結びつく訳ではないということが明らかになりましたが、普段の健康管理と危機管理の重要性を肝に命じつつ、楽しく運動やレースを楽しみたいものですね。
(THE GLOBE AND MAIL より / リサーチ 松田正臣)