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3月10日に幕を閉じた名古屋ウィメンズマラソン2013。

この大会のオフィシャルサポートランナーである安田美沙子さんとトレーナーのMIDORIさんのトレーニングを追いかけてきた連載Road to Nagoyaも、今回で最終回。ラストとなる今回は本番の模様、そして、レース直後に行ったふたりへのインタビュー、さらにレース前日に個別で実施したインタビューと、盛りだくさんでお届けします。

それぞれの想い
レース前日の心境

安田 去年と今年の違いはやっぱりタイムですね。去年は自己新を狙って挑みました。でも今年は、私自身も正直、分からない。この身体でどこまでいけるのか。でもすごいリラックスしていて、そのリラックスを今は楽しめています。この落ち着いたテンションでレース最後まで行けたらなと思いますね。絶対後半、辛いと思うんです。それをちゃんと受け止めて、ネガティブな気持ちにならないようにしたい。あとはゴールは絶対笑顔で、って。

年があけてから1ヶ月間、仕事でどうしても身動きがとれなくて、練習ができなくて。その事実を受け止められなくて、練習後に一度、MIDORIさんの前で泣きました。前回も話しましたよね? (笑)。受け入れること、それをしなきゃいけないんだってずっと思っていました。今はきっと、それができてるんじゃないかな。フルマラソンに挑戦するようになって、2回目や3回目のレースでは、メンタルで負けてしまってました。仲間の応援さえも受け入れられなくて、そっとして欲しいって。今はそれをパワーに変える余裕がでてきた。練習で毎回、その日の自分に勝つ!って決めてから、それを繰り返すようになって。本番でも負けそうな瞬間、勝つ癖がつくんです。これは、きっと習得したかなって思います。きっと明日のレースでは、“勝つ”っていう意味がこれまでとは違うものになるのかなって思ってます。

MIDORI 私にも状況はどうなるか分からないんですね。キロ5分45からスタートして、もしかしたらペースダウンしてしまうしれないですし、逆に調子が良くてペースアップできるかもしれない。でもどんな状況でも、落ち着いて、彼女自身が判断できたらいいなって思ってます。もちろん、私はサポートするためにいます。でも最低限というか、彼女自身が考えながら走れることができたらいいなって思ってます。そんな走りをできたら、私は誰よりも彼女を褒めてあげたい。

記録と違って、それはみんなに分かりやすく見えないかもしれない、伝わらないかもしれない。でもそれができたら、確実に大きな成長だなって思うんです。この距離で走ってきたからこそ、「あっ、今ちゃんと考えてるな」って、私には分かる。今回はそんなに練習がうまくできなかったから。だからこそ、タイムだけじゃない、マラソンの違う側面に触れる機会になった。マラソンって、記録更新だけが楽しみではないので。それをもっと彼女には分かって欲しい。彼女はすごく負けず嫌いなので。最後の最後で結果が出なかったとしても、ちゃんと受け止めてもらえたらいいなって。それっていくら私が言っても、彼女の中で納得できないと意味がないと思うので。

3月10日(日)
レース当日の天候は曇り

それぞれの想いを抱きながら、スタートを待つふたり。リラックスした安田さんの表情が印象的だった。

ふたりはBグループからスタート。ゼッケンについたICチップのおかげで、5キロ毎にネット上でレースを確認できた。

レースを振り返る
良いレースだった、と心底思える

MIDORI  今回私は、基本的に彼女に付いていくようにしていました。引っ張ったり、押さえたりは極力しないように。だから後半、「あ、疲れてるな」っていうのは分かってたんですけど、基本、任せていました。「早すぎる早すぎる」で落としたり、「ちょっとゆっくりすぎた」で上げてみたり、結果として後半はゆっくりになっちゃったんですけど、走力を維持できるかどうかは、練習量とその時の体力の問題。むしろ彼女ができる範囲内でペースを守ろうとしていたことに意味があった。自分で調整ができていた、ということが価値だと思いますね。

前半戦はほぼプラン通りのタイム。15キロ地点で編集部のカメラを見つけると、彼女は大きく手を振った。

安田  実はスタートしてすぐに、左足を挫いてしまったんです。一時はそれを忘れてたんですけど、25キロくらいから痛くなってきて「あれ!?どうしよう。もしかしたら疲労骨折!?」って。それでMIDORIさんにも伝えて。沿道でストレッチをしました。そうしたら「パキっ」って音がして治ったんですね。正直、私も一瞬よぎりました。「もしこれで棄権したらどうなっちゃうんだろう」って。

27キロ地点で立ち止まり、ストレッチをはじめた。偶然、居合わせた僕らは「故障か」「リタイヤか」と一瞬ひやっとした。

MIDORI  レース中に遭遇する悪い流れは、できれば一回止めて、やりなおした方がいいんです。頑に「止まらない」「ペースが守れないから」ってやってしまう人もいます。でもレース中に気になった「痛い」とか「気持ち的に嫌になった」とかって場面では、あえて一回止まっちゃった方がいいときもあるんです。

安田  あそこから30キロを越えて。毎回味わっているはずなのに、30キロ以降はやっぱり、めっちゃきつかった。「なんでこんなにキツいのに毎回忘れて、毎回やるんだろう」って(笑)。

MIDORI  でも、もう忘れてるでしょう?

安田  はい。もう忘れてます(笑)。人間ってすごい不思議ですけど、ハマってしまう魅力もすごく分かります。やっぱり、フルマラソンは30キロでも、きっと42キロでもダメなんです。「42.195キロ」だからいい。本当に人間が限界まで追い込まれる距離なんだと思いますね。普段生活していて、そんなに限界なんて感じないじゃないですか。「すごい数字だな」って思いますね。

30キロ目前、徐々に安田さんの表情に疲れが見え始めた頃だ。

安田  実は、後半戦にさしかかったときにMIDORIさんに「すいません。ペースを上げられなくて」と伝えました。そこで無理に上げても、結果、最後には笑えないレースになってしまうと思えたので。「今回は絶対に笑おう」って思ってましたから。もちろん、悔しい気持ちはありました。でも仕方ないなって。だから今は、結構スッキリしています。前にサブ4をきれなかったレースを終えて、すごく落ち込んだことがあるんです。でもそんなんだったら、時間がもったいないし、自分が好きでやってるのに落ち込んでどうするんだろうって。そのときに「受け止める」っていうことをMIDORIさんに教わったんです。

「これができたら終わり」ではない
終わりがないなら楽しんだ方がいい

MIDORI  今回私たちふたりは、キロ5分45で入って、後半あげていくレースに挑みました。結果、後半ペースを上げていくことが難しくて、ペースは落ちてしまった。でも、毎回レースを完璧にすることなんて不可能なんですね。「入りがちょっと早かったな」とか「もうちょっと落としていけば、後半もったかな」とか。いくつかのパターンをやってみないと分からない。効率良くやろうと思ったら、やっぱり何がいけなかったのか、それを洗いなおして、次はパターン変えてやってみるんです。このパターンを意識的に変えられるようになると、もっともっとマラソンが深くて面白くなる。毎年、毎年、何度もレースはあるんです。「安田美沙子はあと3年で引退なのであと3回しかないです」ってわけではないじゃないですか。だから一生かけて、走り続けることができるし、マラソンは「これができたら終わり」っていうものでもないので。何をやっても終わりにならない。だったら楽しんだらいいじゃないかって思うんです。

レースを通じて、笑顔で走り抜ける姿が最も印象に残ったのは言うまでもなかった。

MIDORI  今回も私自身、彼女と走れてすごい楽しかったんです。途中で、「あ~あ、またもう終わっちゃうな」って寂しい気持ちでゴールに戻ってきました。

安田  毎回ハーフくらいからそうなっちゃいます。環状線に戻って来たときに「ああ、もう本当に着いちゃうな」って。

MIDORI  なんだかあっという間でしたよね、今回はとくに。今年のレースは、彼女の中ですごく大きくて、苦しいものだった。でも、出走した1万5千人の女性たちも、それぞれがさまざまな立場できっと苦しさを抱えている。同じように練習できなくて悔しい気持ちで走っている人もいれば、人生の大きな何かをかけている人もいるかもしれない。「完走したら男の子に告白する」そんな願掛けをしていた女子大生が去年のレースではいましたから(笑)。すべてのランナーに小さなドラマがあって、走るエネルギーだけではなくて、そういう気持ちもプラスされて1万5千人の女性ランナーが走ってるんです。さらっと走ってる人なんて少ないと思うんですね。

安田  「タイムを狙う=マラソン」ではない。私は今回のレースで、それが分かった気がするんです。これまでのレースでは、常にストイックになってました。サングラスもとらず、一直線に走ってた。でも今日はサングラス取って、笑顔で応えたり、「わー!」って手を振ったり。悔しいですけど、それが今の私ができるオフィシャルサポートランナーとしての役割でもあると思ったので。それでみんなが少しでも元気になったら嬉しいじゃないですか。

ゴール目前。自己新には至らなかったものの、穏やかな表情で、歩調を合わせるように走るふたり。

MIDORI  もっと上手に「割り切るレース」と「狙うレース」そのスイッチを切り替えられたらいいのになって思いますね。それができたら本当に楽になるとは思います。「今日は狙わない」と思ったら狙わない。「今日は狙う」と言ったら狙う。それでいいと思うんですね。

安田  きっと少しは受け入れて、割り切れてたんだと思います。だから楽しかったんです。本当の意味で楽しめた。こんなにリラックスしてレースに望めたのは、私にとって初めてだったんです。

ゴール直後、叫びながら手を取り合って歓喜する。ふたりだけの時間。しばらく誰も寄っていこうとはしなかった。

オフィシャルで発表された安田さんのネットタイムは、4:13:24。自己新には及ばなかったものの、彼女は笑顔でゴールラインを踏んだ。MIDORIさんと手を取り合って喜び、仲間たちに笑顔でこたえ、それでも、控え室へ向かう途中、彼女は大きなタオルで顔をおおった。悔しくないわけがなかった。でも、悔しさだけでもなかった。

きっと次回のレースで、またひとつ成長したランナー安田美沙子に出会えるはずだ。

安田美沙子(やすだ・みさこ)
タレント、女優。「名古屋ウィメンズマラソン2012」では自己最速タイムの3時間44分56秒(ネットタイム)を記録。3月10日に開催された「名古屋ウィメンズマラソン2013」では、前回同様、大会を応援するオフィシャルサポートランナーに就任。新たな目標を掲げ、Nike+ Runningを駆使したトレーニングに取り組んでいた。

MIDORI(みどり)
ナイキランニングアドバイザー。国際大会等での豊富な実績を背景に、的確で親しみやすいランニングスタイルを指導。フルマラソンのベストタイムは2時間59分。また、100キロウルトラマラソンでの優勝経験をもつ。 管理栄養士の資格を活かし、栄養面におけるサポートも行っている。ナイキランニングアドバイザーとして全国でランナーをサポート。タレント・女優の安田美沙子をはじめ、著名人のランニングトレーナーも務め、的確な指導で完走・記録更新へ導いている。

【Road to Nagoyaアーカイヴ】
♯01 脳と体に長距離を覚えさせる
♯02 ハートを強くするために
♯03 一歩先へ ランニングとどうつき合っていくか
♯04 かならず笑顔でゴールする

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(文 村松亮 / 写真 村松賢一)