fbpx

(トップ写真:藤巻翔)

富士山の周りをぐるりと一周する100マイル(約160km)のトレイルランニンングレースUTMF(ウルトラトレイル・マウント・フジ 161.0km)とSTY(静岡から山梨 84.7km)。昨年の第一回大会は大きな盛り上がりを見せ、世界でスタンダードとなった100マイルレースを日本に定着させる大事な役割を果たしました。今年もいくつかの100マイルレースが国内で開かれる中で、その規模と盛り上がりは頭ひとつ抜けている印象。トレイルランニングにおける年に一度の祭典として、多くの人々が心待ちにする大会に育っています。

名実ともにインターナショナルな大会に

さて二年目を迎えたUTMF/STYの会場に足を運んで誰もが感じたであろう第一印象は、海外からの参加者がとても増えたということでしょう。それもそのはず、今年は世界40ヶ国から選手が参加、エントリー会場ではヨーロッパ(昨年ジュリアン・ショリエが優勝した影響かフランスからの参加者が目立ちました)、アジアを中心に海外選手が記念撮影に興じる姿がそこかしこで見られました。

一般参加者だけでなく、レース前日に行われたプレスカンファレンスでも海外からの招待選手が数多く参加、豪華な顔ぶれが揃いました。特に男子では昨年のUTMF優勝者のジュリアン・ショリエ Julien Chorier (フランス)を始め、UTMB2009(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)での2位入賞という活躍が記憶に残るセバスチャン・シェニョー Sebastien Chaigneau (フランス) が参戦。そして女子では同じくUTMB2009女子優勝者であるクリッシー・モールKristin Moehl (アメリカ)が来日し、UTMBの姉妹レースであるUTMFが、名実共にインターナショナルレースとして世界に認知されたことを肌で感じました。

前日に行われたプレスカンファレンスでは各国の有力ランナーが顔を揃えた(写真:松田正臣)

こうした選手たちの来日は、大会委員長の鏑木毅選手を始めとしたトレイルランニンングと関わる人々が、これまでこのスポーツを通じて世界と関わってきた成果といえるでしょう。セバスチャンはUTMB2009でデッドヒートを繰り広げた鏑木選手との友情の証としての来日ということを強く感じましたし、クリッシーは2010年の信越五岳トレイルランニングレースでペーサーを務めたアドベンチャーレーサー和木香織さんと、終始一緒に過ごしている姿が印象的でした。

また、海外のトップ選手の参戦は、他の日本人選手にとっても大きな意味のあること。有力な日本人選手は口を揃えて「ホームとなる日本で海外の主力選手と競うことのできる機会は得難いもの」と語っています。

変更されたコースは

161kmを48時間に以内に走りきるUTMF、二年目を迎えたこの大会はコースに大きな変更がありました。ひとつは進行方向が昨年と逆方向の反時計回りとなったこと。つまり昨年の登りは下りに、下りは登りとなります。昨年最大の山場となった天子山地は、前半で対峙することになり、ここでどれだけ脚を残し、消耗を抑えることができるかがレースのカギを握ることになりそうです。後半の山場は聳える岩場をよじ上ることになる杓子山の登りとなることが予想されています。

また、天子山地縦走ではいくつかの山頂をパスすることになったり、富士山に最も近づく富士山こどもの国から四辻の間に美しいトレイル部分が増えるなど、運営本部が本来繋ぎたかったコースが徐々に実現しており、富士山周辺の自然を深く理解することのできるレースとなりました。

昨年の優勝タイムはジュリアンの18時間53分12秒。対して今年の優勝想定タイムは18時間7分となっています。想定タイムを見ると今年の逆回りコースは、かなり高速化が予想されますが、結果はどうなるのでしょう。スタート前の河口湖八木崎公園では小雨がパラついたりはするものの、レースを通しての天候、コンディションは良好のようです。スタートラインに豪華な顔ぶれが並び、いよいよ4月26日午後3時、UTMF2013がスタートしました。

スタートラインの顔ぶれを見るだけでもUTMFが国際レースとして確立したことを感じさせる(写真:藤巻翔)

昨年同様ハードなレース展開に

スタート後は昨年度のチャンピオン、ジュリアンが引っ張る展開。天子山地の手前、 A2本栖湖のエイド(24km地点)までは緩やかな下り基調で、先頭集団は早くも16時58分に到着。想定タイムよりも20分も早かったため、誘導スタッフが間にあわず、若干のコースロストがありました。後続のセバスチャンがリードする集団には、昨年大会3位の山本健一、TJAR(トランスジャパンアルプスレース)の覇者である望月将吾、昨年6位の山屋光司が含まれています。

ここから最初の山場である天子山地へ。トップ集団はまだ陽のあるうちに最初の竜ヶ岳をクリアしてから一度山を降り、ウォーターエイドであるW1麓へ。しかし、再び雪見岳へのキツい登りを経て天子山地へと選手たちは消えて行きます。この厳しいパートを終えて最初にA3西富士中学校(55km地点)へ到着したのは変わらずジュリアン。山岳部分を得意とする彼は、後続との差をさらに広げました。

女子選手トップとしてこのエイドに到着したのは米国の女王クリッシー・モール。上手に箸を使って焼きそばを頬張る様子は、SNSなどでシェアされ、世界のトレイルランナーの間でも話題となりました。彼女に続くのはオーストラリアから参戦のショーナ・ステファンソン。オーストラリアは地理的な制約から、これまで米国や欧州のレースで目立つことは少なかったのですが、距離的に近く時差の少ない日本でのレースに照準を定め練習してきた成果が出ているようです。

笑顔で竜ヶ岳を駆け抜けるクリッシー・モール(写真:藤巻翔)

そして夜を迎えレースが動きます。緩やかな登りが続くA4こどもの国までの間の区間でジュリアンを抜き首位に躍り出たのは今回のダークホースともいえる原良和。日本トレイルランニング界の有力選手が名を連ねる中、彼の名前が浮上して来た時には驚きの声があがりました。しかし、ロードのウルトラマラソンで日本屈指の実力を持った上、昨年のOSJおんたけウルトラトレイル100km優勝、信越五岳トレイルランニングレース優勝という実績を積み重ねてきたことを考えれば順当な展開といえたのかも知れません。

ロードで培った走力を活かして、比較的フラットなこのエリアで勝負を掛けたのは彼にとって狙い通りのレースプラン。こどもの国(79km地点)に着く頃にはジュリアンとの差を8分としていました。その後は扚子山などの山岳部分でジュリアンが詰め寄り、林道などのフラット部分で原が引き離すというお互いの持ち味をぶつけ合う展開となりました。

恵まれた天候と明るい月のお陰で、選手は夜間も富士山を眺めながらのレースを楽しんだ(写真:藤巻翔)

A3西富士中学校を出発するジュリアン・ショリエ この後レースが動いた(写真:亀田正人)

ロードで磨いたスピードを活かしトップに立った原良和(写真:亀田正人)

そして27日午前10時49分、スタート地点と同じ、八木崎公園のゴールゲートを最初にくぐったのは、自身初の100マイルレースを走りきった原良和だったのです。大会2回目にして初めての日本人選手の優勝。昨年は遠く思えたこの大会での日本人優勝が2回目で叶ったのでした。そして2位には昨年の優勝者ジュリアン・ショリエ、3位にはセバスチャン・シェニョーがその強さをしっかりと見せつけ、女子ではクリッシー・モールが終始レースをリードして優勝、2位にはオーストラリアのショーナ・ステファンソンが入りました。そして小川比登美が3位と、ここでも日本人選手の健闘が光りました。

初めての100マイルレースで見事優勝した原良和 次の目標はUTBMだと語った(写真:藤巻翔)

トップ選手がゴールした後も多くのランナーは走り続ける 最後のA10富士小学校で満身創痍のランナーたち(写真:藤巻翔)

月明かりに照らされたトレイルを多くの選手が堪能した(写真:永易量行)

ボランティアの胴上げで終幕

レースそのものもさることながらUTMF/STYの魅力は、困難なレースを実現へと導いた鏑木毅委員長をはじめとした運営チームの物語を参加者が共有していることにあるのではないでしょうか。閉会式の鏑木委員長の挨拶にはその場にいるだれもが心を動かされ、今年もこのレースが無事開催され、成功のうちに終わったことに喜びを感じていました。そして、大会を締めくくったのはMCの呼びかけで舞台へと登壇した多くのボランティアの方たちを讃えるシーン。レースの何ヶ月も前からトレイルを整備し、気温零度近くまで下がる山の中で選手を導き、エイドで様々な仕事をこなしたボランティアへの感謝の気持ちはこのレースを走った選手ならだれもが持っているはずです。選手、サポート、応援、運営スタッフ、ボランティアが一体になって作り上げた夢のような3日間が今年も成功のうちに幕を下ろしたのでした。

大会を締めくくったボランティアの登壇 多くの人に支えられたレースが今年も終わった(写真:松田正臣)

(文 onyourmark編集部 / 写真協力 富士トレイルランナーズ倶楽部)