(写真 飯坂大 / 動画 井上典慎 / 文 倉石綾子 / Promoted by 三菱自動車工業)
川の激流、ホワイトウォーターと呼ばれるポイントで、小型のカヤックはくるくると回転し、アグレッシブに宙を舞う。その名の通り、自由なスタイルで立体的なトリックを決める「フリースタイルカヤック」。
競技歴20年以上を誇るフリースタイルカヤッカー、八木達也選手は、競技を黎明期から支えるパイオニアである。現在も第一線で活躍するアスリートでありながら、10年前からは日本フリースタイルカヤック協会の会長も務め、競技の普及と後進の育成に勤しんでいる。
水流が岩にぶつかり生じるウェーブやホール(川床の落差などによって生まれる巻き返し波)など水のパワーを利用して、ポリエチレン製の軽量なカヤックを水車のように回転させたり、立たせたり。45秒という競技時間のなかで繰り出される技の巧みさを競うフリースタイルカヤックは、比較的歴史の浅い競技ではあるがその立体的かつ躍動感あふれるパフォーマンスで人々を惹きつけてきた。東北で育ち、幼い頃からスキーに明け暮れていた八木さんが、はじめてカヤックに触れたのは福島の湖でのこと。当時はスキーが大本命、カヤックはあくまでもオフシーズンの遊びの一環として経験したのだが、キラキラと輝く水面での経験は鮮烈な記憶を残したとか。
「ウォータースポーツは初めてだったんですが、その水との距離感や水の上を滑るように進む清々しさ、水面から見上げる景色、全てが新鮮だった。スキーではレースにも出ていたんですが、スタート地点での凍てつくような緊張感に比べると、水の上の解放感は爽快でした」
数年後、上京して社会人となり雪山とは縁遠い生活を送るようになると、いよいよカヤックに真剣に取り組むようになる。新たな拠点は東京都西多摩郡奥多摩町、「カヌーイスト&カヤッカーの聖地」と謳われる多摩川のほとりだったのだ。
「どうせ多摩川沿いに住むのだったら、リバーカヤックでもやってみようか。初めはそんな軽い気持ちだったんです」
激流を五感で感じ、水のパワーと一体になる
八木さんの誤算は、思いがけずこのウォータースポーツにすっかりハマってしまったこと。仕事もそこそこに切り上げては川に向かい、日が暮れたら車のヘッドランプを灯してカヌーの練習をする。そんな日々が数年も続いた。ただただ楽しくて川に通っているうちにメキメキと腕を上げた八木さんは、いつしかレースという目標を見据えて練習に励むように。そんな、より高みを目指すなかで出合ったのがフリースタイルカヤックだった。
「初めは川を下るだけで楽しかったのに、川下りが上手くなってくると、『もっと違った形で、川で遊べるんじゃないか』って思うようになってしまって」
上流からの流れや巻き返し波など、水中ではさまざまな水のパワーがぶつかりあう。そうして生まれる激流は、川床の地形や水量によって刻々と形を変えていく。フリースタイルカヤックでは、カヤックを扱う技術だけではなく、川の状況、水のパワーを読むスキルが多いに問われる。
「目で見た流れだけでなく、カヤックのボトムから伝わってくる流れの速さや水の硬さ、パドルから感じるパワー。体のセンサーを駆使して川を感じ、自然の力を利用してうまくトリックを決めた時の『自然と一体になっている』という感覚こそ、この競技の醍醐味ですね」
いつまでも第一線で、若手を苦しめる存在でありたい
こうしてフリースタイルカヤックに魅せられて20年。競技をさらに盛り上げるべく、現在は<日本フリースタイルカヤック協会>会長としてさまざまな試みに取り組んでいる。年間5戦が設定されている競技会の運営にも中心となって携わり、もっと多くの人に門戸を広げようと、2010年からはビギナー向けのカテゴリーを新設、新たなルールも設けた。そうした取り組みが功を奏したか、競技の認知度も少しずつ高まってきている。