(写真 nowri / 文 村岡俊也)
NYのブルックリンに1号店を、同じくNYのアマガンセットに2号店を持つセレクトショップ〈Pilgrim Surf+Supply〉が、ビームスとのコネクションから3号店の場所として選んだのは東京、渋谷だった。サーフィンに影響を色濃く受けるブランドでありながら、都会に店を持つのはなぜなのか? オーナーでありファウンダーのクリス・ジェンティールに、その考え方の背景、あるいはライフスタイルについて聞いた。
「都会にもサーファーはたくさんいるだろう? 自然と繋がったカルチャーが好きな人は都会にもたくさんいるから、むしろそういう人たちに向けて、様々な経験ができる場所としてこのショップがあると思っている」
ショップについて語るときに、クリスは「エクスペリエンス」という言葉を何度も用いていた。もちろん買い物もひとつの経験だが、それだけではなく、むしろ空間に立つこと、その場の雰囲気を感じることにこそ意味があると考えているよう。
「東京はとてもハードワークをする場所で、すべてに対してテンションの高い街。NYもそうだけど、よりタイトだよね。だから、このショップは、できるだけ空気が流れるように、窓を大きく、空間を贅沢に広く使おうと思ったんだ。時間によって流れる風も差し込む光も変わっていく。建物の中にいることで、逆に自然に対して敏感になるような店にしたかったんだ」
では、なぜ自然を感じる店にしようと思ったのかといえば、やはりクリスの背景にはサーフィンがある。海に入り、自然から得たものを還元する。その循環の中から、渋谷の店も生まれているのかもしれない。サーフィンをすることも、働くことも、アートピースを自身で作り出すことも、クリスにとっては等価値のこと。あらゆる物事に対するバランス感覚の良さ、その素晴らしさこそが、人々が〈Pilgrim Surf+Supply〉に惹かれるもっとも大きな理由だろう。
「サーファーならわかってもらえると思うけれど、サーフィンの99%は波が来るのを待っている時間。でも、その待っている時間こそが、私にとっては自然を自分の中に取り込んで、“reflect”するための時間なんだ。iPhoneやPCから身体的な意味で遠ざかる、“unplugged”できるのは、サーフィンをしている時とトレイルをハイクしている間だけ。その時間こそがとても重要で、“五感”であらゆるものを考える。頭で考えるよりもはるかに大きなことがわかるときもあるからね。自然が自分の体に問いかけることに従えば、サーフィンはうまくいくんだ。サーフィンで重要な、身体で思考するっていう感覚は、都会においても価値がある。
五感で得たものを、店として実現していく
実際に、渋谷の店を作るときには、とても長い時間、店を作ろうとする場所に座って、それからビジュアライズしていったんだ。もしも、通りをひとつ渡っていたら、全然違う店になっていたと思う。その土地に個性があるように、コミュニティにもパーソナリティがあるでしょう? そこで何を感じるのか。まずはそれを認識することが、すべてのスタートだと思う。その“今”“ここ”が大事だという感覚もサーフィンで培ったものだと思うよ」
ショップとは、その場の環境への回答であると同時に、カルチャーやそこに集う人々への回答でもあると、クリスは言う。都会も人間も自然の一部であるという視座に立って、俯瞰するような目線で店作りをしているのかもしれない。それはまさしく、海から陸を眺めるような、独特な視線。
混雑したショッピングエリアという第一印象だった渋谷が、今では光の美しい、風の抜ける谷として捉えることができているというクリス。その印象の変化は、しっかりとショップに落とし込まれていて、東京らしい洗練も、自然へ繋がる気持ちよさも、どちらも内包した空間になっている。
「マインドをオープンにして、学び続けること。自分がいかに何も知らないかっていうことを知り続ける。それはとてもアメージングなことだと思っているよ」
思考を体現する場所として〈Pilgrim Surf+Supply〉はある。
「ピルグリム サーフ+サプライ」