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(文 中島英摩 / 協力 MAGMA

PRプランナーの中島英摩さんがチャレンジするビッグレース「UTMB」のレースレポート続編です。(過去の記事はこちらから)走行距離100kmを乗り超え、その先に待ち構えていたものとは?

スタートから丸一日経ち、110km地点にあるLa Foulyエイド(ラ・フーリー/110km地点)に到着。ザックには大量のジェルに混じって、前のエイドで水を入れておいたアルファ米のおにぎり。水の量を間違えて少し柔らかかったけれど、スープ用の温かいお湯をもらってそこへごはんと乾燥味噌汁を投入。つまり、薄めのねこまんまにして目を瞑って流し込む。これならかろうじて胃に入るかもしれない! それに早く気付いたことが幸いで、結局最後まで“米”に助けられることになりました。

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エイドの食べ物は主にチーズ、サラミ、バケット、クッキー、ビスケット、甘いケーキのほか、バナナやオレンジなど。

トイレに座り溢れそうな涙を拭っていると、隣から嗚咽が聞こえる。みんな暑さにやられて気持ち悪くなってしまっているのでしょう。まだ関門に余裕があったけれど、ここから二晩目の暗闇に挑まなければならないからか、選手達は次々にリタイアを申し出ていました。

Facebookに日射病になって食べられない、と投稿するとすでにリタイアした仲間が心配して連絡をくれました。”暖かくして横になって”、というアドバイスをもらうと、先のことを考えられる心の余裕が出ました。まずは関門がタイトなここをすぐ出れば、次のエイドChampex Lac(シャンペ湖/124km地点)で余裕ができるから、這いつくばって次まで行って、そこで寝よう。よし! と出発しようとした瞬間、座っていたお尻に冷たい水がじんわり浸みてきて、ゴォォォォという凄い音と共にみるみるうちにエイドの中に大量の水が流れ込んできました。

突然の雷雨。雪崩の音だと思っていた轟音はフランス側で発達した雲の下の雷で、モンブランを越えてイタリア側まで迫ってきて、あっという間に大雨を降らせ始めたのです。エイドの中で良かった! 慌ててレインウエアを着こんで、出口付近で空を見上げる。全く止む様子もなく、ため息交じりに周りの選手と目を合わせ、肩をすくませて、外に出る。ドーン! ドーン! という聞いたこともない大きな音と雷光。正面にはまるでCGのような稲妻が走る度にくっきりと浮き上がる山の大きな影が、悪魔のような存在感を放っていました。

雷の中、エイドを後にして2晩目の夜を走る
次にやってきたトラブルは、なぜかわたしはそんな恐ろしい状況下で急に眠気に襲われたのです。下り基調の林道、たぶんその後は比較的根っこの多いシングルトラックの下り、そしてシャンペの街……だと思うのですが、2時間近く“居眠り運転”でした。UTMBに出た仲間は雷が怖かった、と言うけれど正直なところ覚えているのはエイドを出た最初の数分。幸いだったのは、どうやらわたしは眠くても走り続けられる(?)タイプらしく、シングルトラックで周りに挟まれてなんとなくたまに目を開けて見える光景に合わせて体を動かしていたのです。よく転ばなかったと今や笑い話ですが、必死だったのでしょう。それがトレイルから街に入ると道幅が広がって選手が散って、途端に置いていかれてしまう。あぁ、どうしよう。顔をひっぱたいても手足をつねってみても、目が閉じる。

100mileには悪魔もいるけど神様もいるのかもしれません。2時間近くほぼ眠っている状態が続いていた時、ぼんやりと見える視線の先に、夜0時近いというのに子供達がいて、なんと温かいコーヒーと紅茶を振る舞っているのです。コーヒーはお腹を下すから普段飲まないけど一口だけ……。保温ポットにたっぷりお砂糖の入ったあま~いレモンティーを入れてもらい、紙コップに入ったコーヒーを一口。ゴクリと飲んだその瞬間、電撃が走ったようにシャキーンと目が冴え、急に視界が広くなったのです。作り話のようだけど、本当のこと。
次々にやってくるトラブルと奇跡がなんだか可笑しくなって、いままさに憧れのレースの真っ最中だったと思い出しました。そうだ、これが楽しいんだった。これがロングレースの醍醐味だった! さっきまで酔っ払いのような千鳥足で歩いていた人間が急に笑いながら走り出したもんだから周りの選手が気持ち悪がっていて、その様子が伝わってきてますます可笑しい。これは面白い展開になってきたなぁ。自らレースを面白くするべく、そこからまた巻き返しを図り、30分の遅れを取り戻して124km地点のシャンペ湖のエイドに到着しました。

またお湯に浸したひとにぎりのごはんを胃に流し込み、ボトルには水とMAGMA、片方は保温ボトルに替えてお砂糖たっぷりのレモンティーを補充。これがまたわたしの救世主で、何を食べても飲んでも気持ち悪いのに、MAGMAに加え、温かいレモンティーだけは気持ちよく喉を通りました。携帯で目覚ましを5分かけて長椅子にバランスよく横になってみる。5分なんて体感では3秒くらいのあっという間で、もういちど5分後にアラームを設定して合計10分休みました。レースで睡眠を取るのは初めてのこと。そわそわしてあまり眠れなかったけれど、いくぶんか体が楽になったような気がしました。雨はいつの間にかすっかり止んでいました。

残るはあと山が3つ。登りに平均して2~3時間かかる難所とも言える山が最後の約50kmに集約されているUTMB。さて、この慢性的なエネルギー不足で一体どうやって大きな壁3つを越えていこうか。まずはとにかく荷物を軽くする。ほとんど食べられないのであれば持っていても負荷になるだけです。ごみ箱に捨てようかと悩んでいたところ、選手のサポートをしていた日本人を見つけて思い切って声をかけ、ジェルを預かって欲しいと伝えると快諾してくれたので、最低限の量だけ残してすべて預けました。それから、できるだけ胃を楽にするために補給食用のウエストベルトは外し、タイツのウエスト部分を腰まで折り返し、ランパンのウエストも下げました。お腹を冷やさないようにレインシェルを前向きに腰巻きし、Tシャツの裏にカイロを貼って胃を温める。あとはせっかく流し込んだねこまんまを吐き戻さずに我慢し続けること、気持ち悪いと思ったら少しずつでも温かいレモンティーを口にする。

なんとか少ない補給でも進み続ける方法を見出したものの、1つめの山La Giete(ラ・ジエット/135km地点 ※チェックポイントはピークを過ぎた後)までは、吐き気と眠気が交互に訪れるようになり、眠くて崖から落ちそうになれば道端に座り込んで、膝にiphoneを置いた状態で1分アラームをかけて眠る。起きたらまた登り、眠気が来たら1分眠る。ピークに到着する頃にやっとねこまんまが消化してエネルギーが充填されて下りを走れるようになりました。

よかった……なんとかなりそうだ。と思った時にトラブルはやってくる。地面を照らしていたヘッドライトが突然消えたのです。何事? と思って見てみるものの、原因が判らない。バッテリーはすでに2本目で、もう替えがない。仕方なく弱々しい明かりのサブライトに替え、ここからは走りやすい下りだから少しペースを上げて早めに次のエイドに行ってしまおう! と、思ったら、こんどはズルッと滑って尻もちをつきました。前夜の雷雨で走りやすいはずのトレイルがまるで田んぼのようにドロドロ。まともに走れず、足元も良く見えない。サブライトももっと強力なものにしておくべきだったと反省してももう遅い。何度もずっこけながら、なんとか下りきった頃には夜が明けていて、ギリギリ難を逃れました。

3日目の最終日、無事に日中を迎える

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141km地点の街のエイド、Trient(トリアン)着。偶然にもエイドで知り合いの日本人に会い、豚汁を用意してくれるというので、そこにまた半分くらいのごはんを入れて飲みこみました。人間とは不思議なもので、明るくなったらもうすっかり眠気は無くなり、徹夜続きの時のような体のだるさはあるものの、長かった二晩目の苦しみからやっと解放されました。前半79kmまでのハンガーノック、中盤から110kmまでの日射病、二晩目の9時間にも渡る眠気。三度目の復活です。自分を信じてよかった。山はあと2つ。

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最後から2つ目の山は勢いよくエイドを飛び出して登り、再びの暑さのなかでピークまでまっしぐら。想像していたよりも長かった登りで調子に乗って足を使ってしまい、下りは飛ばさず軽く走りながら、気持ちよく下って最後のエイドVallorcine(ヴァロルシーヌ/151km地点)へ。

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相変わらず気持ち悪かったけれど、残りのわずかなごはんをたまごスープに入れて食べ、少しだけオレンジをかじりました。飲み物は保温ボトルから再びMAGMA水と麦茶に戻し、有難いはずの青空に嫌な予感がして、予備の1Lのボトルに800mlだけ水を入れて出発しました。

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最後の山La Tete aux Vents(テット・オ・ヴァン/158km地点)は、「登りきったと思ったらもうひと山あるから気をつけて」と言われていた場所。林道を抜けた最後の登りが始まるトレイルヘッドに大量にペットボトルの水が置いてあったけれど、余分に持っているから大丈夫だろうとそのまま通過しました。周りの選手誰もが見向きもしていなかった水。それがすごく重要だったと後に後悔したのです。
最後の登りは日陰がなく、嬉しいやら悲しいやら、三日目の晴天。お昼に向けて暑くなる一方で、最後だというのにもうだめだと行列からポツポツと道を外れていく選手達。どんどん水を消費していて、言葉はわからないけれど、周りも確かに口々に水が足りないと言い始めています。日射病にならないように、予備のボトルの水を頭や首にかけてアイシングしながら、あともう少し、もう少しで山頂だからと唱えて進む。ニセピークからもうひと山越えて、やった!着いた!

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と、思ったところから本当のピークは1時間も後でした。歩いても歩いても先に続いて行く稜線。水が、あと、500、400、300……200……。ここまでどんなに気持ち悪くても脱水だけは避けてきて、一度たりとも足が攣ったりしなかった今回のレース。最後の最後で脱水状態になり、どんどん体がむくんでいくのがわかる、だめだ、もう舐めるだけしかできない……!

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ようやく山頂に着いたのは13:40頃。あれ? 最後の関門って、14時45分じゃなかったっけ。ここから3.6km。トレイルの3.6kmを約1時間。下りといっても、走りやすいとは限らない。大変、ぼーっとしていると間に合わない!

最後までこんなに厳しいなんて……。のんびり完走モードで歩く選手を次々に抜いて、とにかく今出せるすべての力で走る、走る、走る。3.6kmをなんとか走り切って、最終関門La Flegere(ラ・フレジェール/161km地点)に到着したのは、関門15分前。たった15分。山頂で座っていた彼は? のんびり歩いていた彼女は? まだまだ多くの選手が私の後ろにいるのです。これが最終関門だというのに、必死で走ってもわずか15分しか余裕ができなかった。クールマイユールの関門さえ超えられれば大丈夫、というのはあくまで良いコンディションと元気な状態であることが前提で、このレースは絶対に最後まで気を抜いちゃいけないのだと痛感しました。うっかりは許されない、ゴールへの執念が必要なのだと。結局、全体を通して長く休んだエイドは3カ所のみ。最後のウォーターエイドも3分程度で済ませました。もうあとは下るだけ。

フィニッシュゲートまで7.2km。こうなったら少しでも早くゴールしてやろう。46時間台よりもせめて45時間台がいい。ちょっとでも選手が少ない方が写真も撮りやすいしな。そんなことを考えながら、何も補給せずまま水分だけ摂り、ザブザブと頭から水を被ってエイドを出ました。

もうこの際胃が気持ち悪かろうが、脚が痛かろうがどうでもいい。でも、最後の最後で明らかに脱水になってしまった体は水を飲んでも手遅れで、脚も顔も手もパンパンにむくんでいました。膝はお皿が見えないほどに丸くなって曲げられず、手はストックが握りにくいくらいに腫れていて、それでも走るもんだから余計にダメージを与えたのか、最後4kmほどの林道に差し掛かる頃には足の裏が膨れ上がり踏み込むたびに激痛がはしりました。「あ~しが~~~~!いたい~~~~~!」大声で叫んだ私に前を走っていた日本人がギョッとして振り返り、しまったと苦笑い。恥などどうでもいい。叫びながらでも走りたかった。

そして、シャモニーへたどり着く

シャモニーの街に帰ってくると、多くの仲間が1人、2人と次々に出迎えてくれて、「よくがんばったね!」「おかえり!」「すごいよ!」と声をかけながらわたしの横を併走します。夢にまでみたゴールまでの花道を1歩、1歩味わいながら駆け抜けました。

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最後のゲートへの1本道。湧き上がる歓声。両サイドには溢れんばかりの人々が。みんながわたしを見ていて、この戦いを称え、拍手喝采で迎えてくれている。どんなに感動して泣きじゃくってゴールするものかと思っていたけれど、意外にも泣き虫のわたしはそこにはおらず、溢れたのは「安堵」でした。しっかりとゴールの景色を目に焼き付けながらゆっくりと歩いてフィニッシュのタイム計測のゴムを踏みしめました。やっとここにたどり着いた、やっと掴み取った。胸を撫で下ろしました。やっと100マイラ―になれた。やっと、100マイラ―のスタートラインに立てた。楽しかった。最高に幸せ。最高に贅沢。よかった、自分を信じて。

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170km 累積標高10,000m、45時間43分59秒。3日間に渡る旅が終わりました。2500人を超えるUTMBの出走者のうち、完走したのは786人で完走率は30.76%。女性の完走者は59名、完走率はわずか22.87%でした。完走率が50~60%と言われるUTMB。天候に左右されやすいものの例年に比べて記録的な完走率の低さで、久しぶりに過酷な年となったのかもしれません。

100mileには、100個くらいの止めたい理由があって、100個くらいのトラブルがあって、100個くらいの奇跡と100回くらいの復活がありました。わずかな経験ながらもロングレースに慣れてきてしまい、どう戦うべきなのか、自分の実力がわからない、そんなフワフワした状態での挑戦でした。けれど、壮大な山々の自然は想像以上に厳しく、その自然の中でどんな環境にも自身の判断で乗り越えていくのが100mileであり、甘く見てはいけないということを改めて思い知らされました。けれど同時に、自分が思っていた体の限界をはるかに超えて、ゴールへの執念だけでパワーを発揮できたことは、まだまだ自分自身を知らないのだと、新たな可能性を感じることができました。きっと、もっと、できる。知らない自分を知るってなんて楽しいんだろう。

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ゴールした数日後にパラグライダーで空からモンブランとシャモニーの街並みを望んだ。

だからこれがきっとスタートライン。ただがむしゃらにゴールを目指した初めての100mile。この初心を忘れずに、次はどんな旅に出ようかな。

「中島英摩さんの挑戦を支えた自然素材サプリMAGMA」
MAGMA
ATHLETE BARLEY

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”抹茶のような味のMAGMAだけは気持ち悪くても飲み続けられた”
”日射病にはなったけれど、一度も脚が攣らなかった”
”むくみ以外は怪我なく脚の痛みも全くない”
”レース後にはたくさん飲んで回復に努め、3日くらいでむくみが取れて現地でトレランした”
など、今回のレースでも大きな役割を果たしてくれたMAGMAは、700名を超えるランナーとプロトレイルランナーの石川弘樹さんの協力のもと開発された香料・甘味料・保存料・酸味料・着色料などを使用しない100%自然素材のスポーツサプリ。運動前後はもちろん、日々の身体のコンディショニングとして飲むのもオススメ。
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