尾﨑里紗、加藤未唯選手ら、粒そろいのプレーヤーが揃う「94年組」の一人として、シングルス・ダブルス両軸で活躍する穂積絵莉選手。昨年は年明け早々に行われる全豪オープンにて、シングルスで本戦初出場、ダブルスではベスト4進出と、最高のスタートを切った。続く全仏には出場できず悔しい思いをしたといい、気持ちとテニスがうまく噛み合わない日々が続いたが、後半はそれを発奮材料にいい練習ができたと振り返る。
「シーズンのラストを飾る『ハワイ・オープン』ではダブルスで準優勝。シングルスは2回戦で敗退しましたが、トップ選手を相手にいい内容の試合を行うことができました。波はあったけれど確かな手応えを感じられた、いいシーズンだったと思います」
インタビューを行ったのはテニスプレーヤーが束の間のオフを楽しむ12月半ばのこと。毎年、完全オフとなる12月の10日間だけはトレーニングもテニスも忘れ、20代の女性らしい休日を満喫する。ツアー中は世界を転戦していても観光する時間もない。だから、普段できないことを目一杯楽しむ。たった数日だが友人と会い、大阪に観光に出かけ、普段は飲めないアルコールを口にした。プロとしてキャリアを重ねる中で、短期間のオフでも気分転換を図ることが上手になったという。
「そうした気分転換方法はツアー中にも役立っています。以前は試合に負けたらどこにも行きたくなくてまっすぐにホテルに帰っていましたが、最近はふらっと近所を散歩して観光気分を味わってみるんです。一瞬でもテニスから離れることで気持ちをリフレッシュできるから。その日をリセットする時間を設けることで、翌日の試合に新鮮な気分で挑めるんです」
高校生の時に訪れた全豪の本戦会場が、人生を変えた
穂積選手がテニスを始めたのはテニス好きの両親や祖父母の影響だという。そうした環境から、ごく幼い頃から身近にテニスがあった。
「家族みんなでテニスコートに通うことが日課になっていて、小学校に上がって本格的にテニスを習う前からラケットやボールで遊んでいました。小学校、中学校とテニスを続けているうち、ある程度の成績を収められるようになって、このままいくと将来もずっとテニスをすることになるのかな?なんて漠然と思うように」
そんな穂積選手が真剣に「プロ」を意識したのは、高校1年生の時のこと。ジュニアのグランドスラムに出場することになり、全豪の本戦会場に初めて足を踏み入れた。
「テレビで見るものとはまるで別物で、外から会場を眺めただけで興奮して鳥肌が立ちました。いつか、ジュニアではなくシニアのカテゴリーで出場して、ここのコートに立ちたい。心の底からそう思わせられた。それがプロへのきっかけとなりました」
ジュニア時代から実績を積み重ね、2012年にプロに転向。2013年には全日本を制するなど着実に進化を遂げている。武器は安定感のあるストローク。硬軟自在に仕掛ける展開力にも定評がある。現在はダブルス、シングルスの両軸で活躍する。特にダブルスでの躍進が顕著だ。昨年の全豪オープンでは、2002年の全仏オープンでの杉山愛/藤原里華組以来、15年ぶりとなる日本人女子ダブルスのグランドスラムベスト4入りを果たした。
「シングルスとダブルスではそれぞれ面白さが違います。シングルスは自分でゲームを組み立てるところが楽しい。1から10まで自分で考え、その通りに運ぶ。試合の行方は自分の肩にかかっている。面白い反面、孤独との戦いです。
一方、ダブルスの魅力はオンコートに味方がいること。パートナーとお互いを叱咤激励してプレーをするうち、コンビネーションや経験値、そういったものがあいまって個々の力以上のものが発揮されることもある。何が起こるかわからないところもダブルスの魅力だと思います。
いまはプロとして勝負の世界に身を置いているので試合に勝つことが前提になりますが、シングルス、ダブルスいずれにしろ、自分で積極的に仕掛けていく試合内容が理想。そして、見ている人に『面白かった!』『見応えがあった』と思ってもらいたい。そういう試合ができる魅力的なプレーヤーになることが目標です」
特に全豪オープンではそうしたプレーを貫いた末に、ジュニアの時に心で誓った本戦会場でベスト4を果たした。穂積選手のテニス人生で、最も心が震えた瞬間だった。
強さを求める一方で、「カワイイ」を忘れない独自のスタイル
そんな穂積選手といえば、女子選手らしいカラフルなスタイルが持ち味。例えば、ジュニア時代からプレー中もピアスやネックレス、ブレスレットなどキラキラしたアクセサリーを欠かさない。ウエアやラケットなど、身に付けるものはいずれも自身の「カワイイ」観を表現するものばかり。こうしたものが穂積選手らしいスタイルを形作る。
「自分の気に入ったものを身の回りにおいておくとテンションが上がりますよね。必ず身につけるアクセサリーは、シンプルでどこかにワンポイントのあるデザインを。日々のトレーニングで身につけるウエアなら、パキッとしたビタミンカラーのものを選べば気分転換もできます。試合で新しいギアを使えると、それだけでモチベーションがアップするから不思議」
最近、穂積選手のお気に入りリストに加わったのが、HEADから新たに発売されたばかりのラケット、INSTINCT Hawaii 。進化したグラフィン・テクノロジーと新しいフレーム構成により使い勝手が格段に高まり、パワフルさと扱いやすさのどちらをも叶えたINSTINCT。日本限定カラーであるHawaiiはブルーと白の爽やかなカラーリングが目を引く女性用モデルである。
「出身が神奈川県なので、ホームタウンを思わせるマリン・テイストの色味が好み。実際にボールを打ったインプレッションや手に持った際の感触も私にぴったり合っています。しっかりスピンがかかって振り抜きやすく、かつボールの飛びもいい」
穂積選手にとって、ラケットはギアというより身体の一部。身体の一部と思えばこそ、バランスや重さ、手への馴染み方など細かなディテールまでチェックを重ね、自分にぴったりくる一本を求める。プレーヤーによってそこに求める機能はさまざまだが、穂積選手は持った時のバランスの良さを重視する。「ラケット=身体の一部」というフィーリングを持てるようになったのは、実はここ数年のことで、昨年の全豪オープンの予選決勝、あるいは一昨年のオリンピックのダブルス一回戦のように、異次元の身体感覚——いわゆる“ゾーン”——を経験する過程で、身体や意識への感覚がより研ぎすまされて結果だという。そんな中、自身と共に試合を戦うラケットへの審美眼もさらにシビアになっている。
「自分の身体に100パーセントの自身を持てるように、ラケットを信頼したい。自分の身体のようにしっくりとなじむラケットがあれば、練習も試合ももっと前向きな気持ちで臨める。そのくらい大切な存在なんです」
勝ち負けの前に、ただ、テニスが好きだから
今年の目標として、ダブルスで昨年以上の成績を上げること、シングルスでは100位以内にランクインすることを掲げる穂積選手。
「あまりレベルの高くない試合に負けてしまったり、落ち込んでいる暇もないくらいツアーの日程に追われたり。テニスを続けていて辛いことはたくさんあるけれど、SNSでファンの人とつながって温かな応援をしてもらったり、試合を見たという方から『感動した』というコメントをもらったり、そういう瞬間があるから続けていける。どんなにトレーニングが辛くて、負けが続いて追い込まれた時も、そういう言葉が私のモチベーションになっています。だからもっといい内容の試合を重ねて、たくさんの人に喜んでもらいたいな」
勝ち負けの前に「ただ、テニスが好き」と語る一途さ。自分のテニスを貫くことで観客に感動や元気をもたらしたいというポジティブなマインド。テニスプレーヤー穂積絵莉の「強い」と「カワイイ」は、こうしたものでできている。
穂積絵莉(ほずみ えり)
1994年生まれ、神奈川県平塚市出身。8歳で本格的にテニスを始める。2006年、全日本ジュニア女子シングルスで優勝、2009年湘南工科大附属高校に進学後はインターハイ史上初めて1年生ペアで女子ダブルス優勝を果たす。2011年、全豪オープンジュニア女子ダブルスで加藤未唯とペアを組み準優勝。2012年プロに転向、2013年全日本テニス選手権優勝、2014年アジア競技大会ではシングルス及び団体で銅メダルを獲得。2017年全豪オープンではシングルスで初めてグランドスラム本戦出場、ダブルスではベスト4を果たした。