10月20日(土)・21日(日)に開催される「ROCK&RUN RETREAT CAMP」に向け、クライミング未経験の信太美月さんが実践を通じてクライミングの魅力を探る本企画。
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これまでボルダリングジムで練習を積んできた信太さんが、いよいよ外岩に挑戦! アドバイザーとして今回も同行してくれた永山貴博さん(THE NORTH FACEのプロモーション担当)に、ロッククライミングの基本ルールを教わるところからこの日はスタートした。

日本有数のロッククライミングエリア・小川山
東京から車でおよそ3時間、長野県・川上村にある「廻り目平キャンプ場」に到着した一行。花崗岩の立ち並ぶ金峰渓谷のなかにあるここは、クライミングのメッカとして知られている。
「キャンプ場の周辺にはボルダリングに適した岩がいくつもあり、さらに奥に進めばリードクライミングやマルチピッチが可能な壁もある。とにかく課題が豊富で、初心者から上級者まで楽しめます。一日中遊びつくした後はキャンプをして、また翌日課題に挑む。そんな贅沢な遊びができる場所です」(永山さん)
この日の東京都心の気温は39.0℃、一方の川上村は29℃。10℃違うとさすがに肌に当たる風は心地よく、木陰に入るとなお涼しい。絶好のアウトドアアクティビティ日和に、自然と気持ちが高まる。

「ROCK&RUN RETREAT CAMP」の会場でもある廻り目平キャンプ場
キャンプ場には、ボルダリングマットを背負って山の方へと歩く何人ものクライマーの姿が。「ロッククライミングにはあのマットが必須なんですね」と、信太さん。
「ロッククライミングで最低限必要なのは、マット、シューズ、チョーク、ブラシの4つ。ジムとは違いどれもレンタルすることができないので、自分で用意します。ファーストシューズを購入するときのポイントは、ソールの形状がフラットで硬めのものを選ぶこと。ホールドを踏む際に硬いソールは変形しにくく、体重を支えやすいためです。そうはいっても自分の足に合う形状やブランドは人によって違うので、お店で実際に試着して適切なものを選ぶのが理想。シューズの販売を行っているクライミングジムで店員さんのアドバイスを受けながら選ぶのもいいと思います。マイシューズを一つ持っていれば外岩でもジムでも同じものを使うことができ、よりクライミングが身近な存在になりますよ」(永山さん)

ソールがカギ型に成形されている「ダウントウ」、オーソドックスな「フラット」、ダウントウと逆に反っている「船底型」とシューズの種類はさまざま。初心者はフラットを選ぶとよい。

「ウォーミングアップに」と永山さんが選んだ最初の岩は、おにぎりの形をした2.5mほどの岩。これから登るラインの下にマットを敷き、レクチャーを受ける
「ホールドもラインもジムのように明確に設定されているわけではないので、手足の位置は基本的に自由です。注意点は、同じ岩で登っている人がいる場合はその人のラインと被らないようにすること。そして、登っている人の真下に入らないこと。ただし、登っている人が不意に落ちた際にマットから飛び出ると大変危険なので、仲間は下でサポートしてあげる(これをスポットという)ことも大切。周りの人は、その人が落ちてくるポイントを見極めてマットの位置を移動させましょう」(永山さん)

永山さんが指示するホールドの小ささを見て「ここに足を乗せる!? どうやって?」と困惑する信太さん。恐る恐る手足をかけ、次に掴む場所を確認しながらゆっくりと登っていく。当然だが、足場がしっかりしたインドアボルダリングのようにスムーズにはいかない。何度も落ちる。が、逆にそれが負けん気魂に火をつけたのか、いつもに増して笑顔の信太さん。登りきると、達成感に満ち溢れた清々しい表情を見せてくれた。

ウォーミングアップ後は2つの課題にトライし、この日最後の4つ目の岩へ。『親指岩下ボルダー』の「露岩」という、8級相当のグレードの課題に挑戦する。「露岩」はこれまでの岩とは異なり、手前に倒れている壁でホールドの凹凸も少ない。両手とかかとを岩のトップに掛け、手の引く力とかかとの踏み込む力を利用して岩上に乗り上がる技術も必要になる。
「ホールドに爪先を引っ掛けるイメージで足を置き、足先に体重を乗せて一気に踏み込むのがポイントです。それが垂壁であっても、多少の凹凸さえ見つければ乗り込むことはできます。靴のソールが硬くグリップが効くようになっているので、思っているよりも滑り落ちません。最初は怖いかもしれないけれど、躊躇していると腕の力も消耗してしまうので、思い切って体重を乗せましょう」(永山さん)


『親指岩下ボルダー』の「露岩」にあるマントル課題。右の隅に手を掛け、左足のかかとを岩のトップに載せ、かかとに体重をかけて乗り上がる
足首と手の皮が剥けるまで挑戦するも、最後の課題とあって疲労も蓄積し、クリアはならず。「コツは掴めたし、体力さえ残っていれば登れる自信もあった。今はこの課題を絶対落としたいという気持ちでいっぱいです。また絶対リベンジする」と悔しそうな表情を見せつつも、「ROCK&RUN RETREAT CAMP」に向けて確かな手応えを掴んだようだ。

登った後は、ブラッシングでチョーク跡を落とすのがマナー。
「外岩では、松ヤニが含まれる液体チョークの使用は禁止されています。というのも松ヤニは落とさずに放置してしまうと固まってしまい磨いても落ちず、岩本来のフリクションがなくなってしまうため。液体チョークを使うなら炭酸マグネシウム100%のものを使って、登った後は必ずチョークを落として帰りましょう」(永山さん)

外岩ボルダリングを終えて
信太 登り始める前に永山さんが「インドアクライミングとアウトドアクライミングは、まったくの別物」と言っていた理由がよくわかりました。ボルダリングジムで“壁をよじ登る感覚”みたいなものは掴めていたけど、外岩は身体の使い方や意識するポイントが全然違った。
永山 クライミングの基本姿勢は両足を底辺部分とした「三点支持」だとインドアクライミングの回で話しましたが、それは外岩でも同じ。ただ外岩はジムのような明確なホールドがなく、三点支持のバランスがとれる位置を自分で見極めなければならない難しさがあります。

信太 確かにジムでは登りながら次に使うホールドの確認ができていたけど、外岩は体勢をキープするのに精一杯でその余裕がなかった。はじめにオブザベーションはしたものの、足を置く場所が「えっこれ?」って思うぐらい小さかったり、実際に置いてみるとほぼフラットで足がかけられなかったりして、イメージ通りには進みませんでした。ジムでは8級をすんなりクリアできたからもっと簡単に登れると思っていたのに、こんなに苦戦するとは……。
永山 そもそも外岩のグレードは最初にその課題を登った人につける権利があって、その人の感覚で設定されているので登る人によって感じ方が全然違うんです。今回挑戦した岩も初登者にとっては8級レベルというだけで、今日初めて登った信太さんが難しいと感じるのは当然。
信太 そうだったんですね。難しく感じたのは、恐怖心もあったかもしれません。ジムの方が壁の高さは高かったけど、全面にマットが敷かれている安心感があった。でも外岩はとにかく足場が不安定で。「ここに足を置いたら踏み外すかな…だけどここに乗らないと進めないし…」という葛藤が常にありました。
永山 外岩を経験すると足の大切さがわかりますよね。きっと今の状態でジムに行くと、成長を感じられると思いますよ。外岩のシビアな足場で身体を操作する感覚を覚えたので、ジムではよりしっかりとホールドを踏むことができるはずです。

「親指岩下ボルダーの“露岩”」に挑戦。足を擦りむいても果敢にチャレンジする信太さん。
信太 外岩は難しかったけど、課題をクリアした時は今までにないぐらい嬉しかったです。ジムではホールドを掴んでゴールだけど、岩は乗り上がって立てるじゃないですか。そこから見る景色は最高でした。
永山 岩に乗り上がることを「マントル」といって、外岩特有のムーブになんです。失敗を繰り返しながら何度もトライして、最終的に得られる達成感こそが外岩の魅力だと思います。それに、自然の中は単純に気持ちがいい。廻り目平のように緑に囲われている場所もあれば、海に面している場所もある。ロケーションもさまざまで飽きないんですよね。

信太 今回は永山さんに連れてきてもらいましたけど、まだ慣れていない人はどうやって全国の課題を探せばいいのでしょう?
永山 クライマーは、ルート名や場所、難易度が書かれた「トポ」と呼ばれる岩場ガイドを見て挑戦する課題を決めています。とはいえ初心者がトポから課題を選びその場所に行くとなるとハードルが高いので、初めは経験者と一緒に行くのがオススメ。そういう意味では、「ROCK&RUN RETREAT CAMP」は経験者が同行するので、安心して外岩に挑戦できるまたとないチャンスだと思います。
信太 キャンプ当日は外岩でトップロープですよね。楽しみです!
最終回は「ROCK&RUN RETREAT CAMP」の様子をレポートします!

THE NORTH FACEとonyourmarkがアテンドする『ROCK&RUN RETREAT CAMP』では、本連載でクライミングに挑戦している信太美月さんがスペシャルアンバサダーとして登場します。