サステナブルなシューズ作りとブランディングで知られるAllbirdsが初めてのランニングシューズ〈Tree Dashers〉を発表した。環境問題や走ることに日々前向きなランナーが、注目のこのシューズを「自撮り」写真とともにインプレッション。
今回、〈Tree Dashers〉を履いて走ってもらったのは、トレイルランナーの矢崎智也さん。初めての100マイルレースで好成績を残し有力ランナーの仲間入りを果たした彼は、シューズにもこだわりがある。シリアスランナーから見た〈Tree Dashers〉のポテンシャルを見ていこう。
コーヒー業界でセールスやマーケティングに従事している矢崎さんは、もともとはブランドと消費者が直接につながるD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の文脈で、Allbirdsのことを知っていたそう。そして消費者とブランドの最初のコンタクトポイントとなる購入体験が重要であることも。
「3クリックくらいで購入が完了するスムーズさにびっくりしました。もともとECシステムのアカウントを持っていたこともあって住所入力の必要すらなく、あまりにサクサクと進むので一度『戻る』を押してしまったぐらいでした(笑)」
伝票が直接シューズボックスに貼られ、そのままの状態で届いたことは矢崎さんも驚いたという。「マジか!? と思いました。良い意味で。無駄な梱包が無く、ボックスを開けたらいきなりシューズが出てくるのも面白いですね」
シリアスランナーが実感したシューズのスイートスポット
矢崎さんはとにかくよく走るシリアスランナーだ。そのメインは通勤ラン。片道14kmの往復、それを平日5日間、ほぼ毎日(!)走っている。雨が降っても、必ず走るのだそうだ。
「トレイルランニングだと雨も珍しくありませんし、そもそも雨の中を走るのは苦じゃないですね。勤務先に着いてからの支度が大変なくらいで。行きと帰りではスピードに変化をつけています。この通勤ランが僕のトレーニングなので、乳酸値レベルの速いペースと、エアロビックペースを切り替えています」
矢崎さんの通勤ランは、自宅から職場までの都内を走る14km。信号や曲がり角そして人通りが少ない、走ることに集中できるコースを選んでいる。速いペースで1時間ほど、エアロビックペースでは1時間半ほどのランとなる。ちなみに速いペースの時は、ウォーミングアップを除いて4’00/kmというスピードで14kmを走り切ってしまう。
〈Tree Dashers〉を履いて50kmほど走ってみて、このシューズに合う走り方が見えてきた。
「速いペースというよりは、マフェトンのペース、エアロビック心拍のペースで気持ちよく走れるいいシューズだと思いました。僕はそこまで柔らかいシューズだとは感じなかったですね。ソールは反発感というよりも密度を感じて、剛性を感じました。母子球のあたりで着地して前進していく走り方で、テンポよく走れましたよ」
エアロビック心拍ペースとは言え、矢崎さんのそれは5’00/kmを切ってくるいいペース。シューズのフィット感もおろそかにはできない。
「僕の足は幅が狭めなんですが、アッパーは甲をしっかりと包んでくれて、ワイズ方向にブレる感覚はありせんでした。ヒモをぎゅうぎゅうに締めなくて良いところも気に入りました。シューズそのものが靴下みたいな、そんなフィット感です」
普段からアッパーにニット素材を採用したシューズを愛用しているという矢崎さん。ユーカリとメリノウールという自然素材から作られる〈Tree Dashers〉のアッパーにも、それに近しいものを感じたようだ。“靴下のようなフィット感”なんて言葉は、このシューズに対しての最大級の賛辞かもしれない。
レイドバックな雰囲気を持ちつつも、高いフィット感と走行性能を併せ持つこのシューズ。矢崎さんは「リラックスした日常履きからランニングにシームレスにこなせる」魅力を感じている。実際に通勤ランで走り、そのまま履いて仕事をしてみても良い感触を得たという。接客を伴う職場でもそのまま仕事に出ていけるのは、履き心地はもちろんのこと、デザインの良さによるところも大きい。
ライフスタイルとサステナビリティ
コーヒーとトレイルランニング。矢崎さんが情熱を燃やす2つの対象は、それぞれサステナビリティを考えさせる。コーヒーはそもそもが農作物で、気候変動の影響を直に受けるものだ。だから、コーヒー業界はサステナブルであることに意識的だ。カフェでストローが紙製になったり、マグカップでの提供を勧められることも増えてきた。矢崎さん自身は、ペットボトルの飲料を買わないというマイルールを課している。
「ペットボトルが嫌だ! というよりも、単純に体に良い、美味しい飲み物を口にしたいというのがその動機ですが、飲み物はタンブラーに入れて持ち運び、飲むようにしています。」
矢崎さんは目下、2021年のUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)に向けて走っている。まだ1年近く先のレースに向けて、着実にランニングを積み上げるのは、やはりトレイルランが好きだからだ。
「自由で、解放されるような魅力があります。季節の変化を感じたり、例えば台風の影響を目の当たりにする中で、自然への帰属意識が強まります。ゴミが落ちていたら拾いたいですよね」
普段は淡々とロードの通勤ランを積み上げている矢崎さんだが、心の奥にはトレイルへの情熱がある。たまに近所の公園を走る時などは、自然と横道のトレイルルートへ足が向く。そんな走り方にも、〈Tree Dashers〉は応えてくれた。
「ソールが厚すぎないので、土の上を走ることとの相性の良さを感じました。厚底のシューズだとサーフェスがつかみづらいんですが、〈Tree Dashers〉は適度なソールの厚みで走りやすいです」
未来を共に創り出すシューズ
先日、お子さんと山に登った時には新たな発見をした。
「子どもと山を登る時はゆっくりですが、そのペースのおかげでランだと見逃してしまうゴミによく気付けるんです。それに、子どももただ山に登らせると大変そうですが、『ゴミを拾いながら登ろう』と働きかけると一生懸命になって、しかも拾うことを楽しみながら登るんですよね」
ちょっとリズムと視点を変えてみること。それで物の見方や捉え方が変わることがある。天然素材から作られる〈Tree Dashers〉も、ハイテク素材がしのぎを削るランニングシューズの世界にあっては、リズムや視点の異なる一足と言えるかもしれない。このシューズを履いて走った矢崎さんは、さらに先の未来に期待を込める。
「ブランドとユーザーが直接につながるD2Cのコミュニケーションでは、ユーザーの声がどんどん製品に反映されていくと思います。そういった関わりをいちランナーとして持てることは楽しいですし、一緒に進化していけるような、そんなワクワク感もありますよね」
走ることに真摯な矢崎さんがこのシューズに投げかける視線は、単に履き捨てる対象としてではなく、共に成長していく仲間へのそれだった。Allbirdsはブランドの目標として製品のカーボンフットプリントをゼロにすることを据えている。それが実現すれば、ランニングはより人にも環境にもヘルシーなアクティビティとなる。
カッコ良くて走りがいい、それが〈Tree Dashers〉を選ぶ理由でいい。しかし、このシューズで走ることは、ランニングシューズの、ひいてはランニングの未来にコミットするということなのかもしれない。