コロナ禍での営業スタイルを模索する様々なサービス業。ランニングステーションも例外ではなく、この状況下で新たな事業展開がみられます。2021年1月に「ランナーの聖地」皇居でオープンしたRe. Ra. Ku PROランニングは、ボディケアブランドが手がける新しい業態。その勝機と展望を取材しました。
2007年に初めて開催された東京マラソンをきっかけに訪れた第二次ランニングブーム(第一次は高度成長期に当たる1977年から1980年頃)。ランニング人口は急激に増え、2010年代後半には1000万人を超えたということです。それとともに快適に走ることができる皇居周辺は「ランナーの聖地」となり、同時にランニングステーションへのニーズが高まりました。
今では関東圏のほか大阪や名古屋、福岡などの都市を中心に増加したランステですが、ブームに火が点いた当時から10年以上が経った現在も求められるものは変わらないのでしょうか。
今回は「健康を、もっと、新しく」を標榜するヘルスケア総合商社のメディロムが「ランステ×ボディケア」をコンセプトに2021年1月にオープンしたRe.Ra.Ku PRO(リラク プロ)ランニング竹橋皇居前店を取材。マネージャーを務める永島寛明さんにお話を伺いました。
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Re.Ra.Ku PRO ランニングが掲げる2つのミッション
onyourmark(以下OYM):KDDIと毎日新聞社が運営していたRun Pit by au Smart Sportsのスペースを再活用する形でのスタートとなりましたが、率直になぜランステに参入することにしたのでしょうか? 新型コロナウイルスの影響もある中で、どこに勝機を見出したのですか?
永島寛明(以下永島):まず、私たちはRe.Ra.Ku(リラク)を中心に全国で302店舗(2021年1月現在)のスタジオを展開しています。コンセプトは健康の「管理」「維持」「増進」をサポートすること。ユーザーの健康状態に関するデータをまとめたものがあるのですが、そのデータを見ると、日本人成人の20%が慢性的な「不眠」であることが分かりました。
不眠を改善するには「リラックス」と「適度な運動」が必要です。そこで、リラクゼーションによって心体を整えるとともに、運動習慣を改善する方法を探っていました。ランニングは最も身近な、すぐ始めることができる運動です。健康維持のひとつの方法としてランステを拠点に、心身に悩みを抱えている方の改善をサポートできるのではと思い当たりました。

そこにRun Pitさんが撤退される話があり、幸運にも事業譲渡を受けることになりました。引き継ぐ形でスタートできたことには感謝しかありません。
OYM:オープンして利用者の反応はいかがでしょうか?
永島:「この場所を再開してくれて嬉しい」という声を多くいただいています。オペレーションに工夫は必要ですが、現状は目算通りですね。緊急事態宣言に入ってからは流石に昨年比を(Run Pitが運営していた当時と比較して)下回っていますが、コロナ禍でもお客様は来店してくれています。「ランニングファンの想いは根強い」。その言葉に尽きます。
また、以前と比べ高齢の方が増えているのも特徴です。オフィスワーカーがリモートワーク中心の生活になり、利用率が下がるとみていましたが、入れ替わる形で50代、60代の方がよく来てくれています。遠方から来られる方が多いことに驚かされていますね。身体を動かす場として皇居の注目度が上がっているのかもしれません。
この場所からは皇居の周りを走るランナーの方を観察できますが、週末は朝から夜までランナーが絶えることはありません。リモートワークが普通になり出勤を控える状況になっても、それがイコール趣味も自粛することには繋がらない。趣味へのモチベーションは抑えることができないことがよく分かりました。こうした状況だからこそランステはなおのこと求められる場所であるのだなと。
僕らが考えるべきは、健康であるために運動を続けてもらうにはどうしたらよいかです。予防対策を徹底し、いつでも利用してもらえる環境を作り続けたいと思っています。
OYM:Re.Ra.Ku PROとして新規ユーザーを取り込むために考えているプランはありますか?
永島:この場所は立地もよく、Run Pitさんがしていたことをなぞるだけでも成功することは見えていました。昼間の時間帯の利用率を上げることが改善点でしたが、運営を始めてみると、朝・夜をランステユーザーに、昼間をボディケアユーザーに利用してもらう、効率の良いサイクルが少しずつできてきました。今後についてのミッションであり改善点は、やはり私たちの軸である「健康」の価値を高めることにあると、改めて感じています。
はじめにお伝えした通り、睡眠障害や運動不足といった悩みをもって各地のRe.Ra.Ku を利用されている方に、ランニングであり運動が、健康につながることを知ってもらう場にしたいと考えています。
一方で「ランニングはケアも含めてランニングである」と、ランナーにボディケアのカルチャーを根付かせる場にすることもミッションです。この場所を日常的なケアの必要性を実感してもらう拠点にしたいと考えています。そのため施設内に芝生エリアを設けました。ボディケアを受けずとも、ストレッチするスペースとして活用してもらいたいです。
その際、イベント告知をすることでランナーの利用を増やすことはできると思います。逆に既存のRe.Ra.Ku ユーザーは運動が苦手な人や、走ることに興味がない人が多いんですね。その人たちの行動をどう変容させるか。そのために全国のRe.Ra.Ku ユーザー向けにRe.Ra.Ku PROで行うイベントやスクール、講座などの開催を予定しています。
ランニングは簡単にできる運動ですが、続けていくハードルは高いです。達成する喜びやランニングへの理解を深め、継続できるようにするために各地のRe.Ra.Kuスタッフにも一緒に参加してもらったり、どんなアプローチが必要か検討を重ねているところですね。
大迫傑選手監修! 下半身の筋肉のケアを重視したSuguru Osako ランニングボディケア
OYM:Re.Ra.Ku PRO ランニングのみで受けられるサ―ビスとしてプロランナー大迫選手監修の「Suguru Osako ランニングボディケア」を始めるそうですが、このプロジェクトが生まれた経緯を教えてください。
永島:大迫選手とは一緒に何かできないか、前々から話し合いをさせていただいていました。大迫選手自身、新しい大会の開催や、プロとしての活動の幅を広げていくとともに、人の健康をテーマにできることを考えていたようです。そこで弊社の代表と意見が合致して今回ランナーに特化したケアサービスを始めることになりました。
OYM:具体的にはどういった内容になるのでしょうか。
永島:Re.Ra.Ku で提供しているのは肩甲骨を中心とした全身のトータルボディケアであり、ストレッチです。それに対しRe.Ra.Ku PROで用意する「Suguru Osako ランニングボディケア」は、下半身に特化したメニュー。大迫選手とともに、五味宏生さん(日本陸上競技連盟医事委員会トレーナー部委員・日本スポーツ協会公認アスレチックトレーナー)に加わっていただき、走る動きで使われる下半身の筋肉を、ひとつひとつじっくりと、もみほぐしとストレッチでケアする内容のプロクラムを共同開発していただきました。
筋肉のアプローチとともに腱や筋肉と骨のつなぎ目、ランニング時に負荷のかかりやすい部位へアプローチする、関節の柔軟性を高めるケアがメインのメニューです。ランナーが走った後に効果的に疲労を取り除けるように、また、より良いフォームで走れるようなボディケアとなっています。目下社内でトレーニング中ですが、3月からサービスを提供できる目処が立ちました。五味さんは超一流のトレーナーなので、理論から施述内容までスタッフがものにするのに時間が必要でした。
デジタルツールを活用して「健康」へアプローチ
OYM:先ほど不眠に関するデータの話がありましたが、運営会社のメディロムさんはビッグデータを基にしたサービスに長けています。パーソナルデータを集めたサービスなど、今後の展望をお聞かせください。
永島:私たちには医師が監修したオンデマンド型のヘルスケアアプリLav(ラブ)があります。食事・運動・睡眠をベースに健康をサポートするためのものですが、現在は特定保健指導をメインに使用をしています。これからはLavとRe.Ra.Ku PROの連携や、発売を控えているMOTHER(マザー)*との連携を強めて、リモートで利用できるコンテンツを用意していく予定です。Re.Ra.Ku PROに足を運んでもらえればフィジカル的なケアを行うことができますが、物理的に離れた場所にいる方々に対して、健康管理の手助けをしていきたいと考えています。
*MOTHER(マザー) = メディロムがアメリカのスタートアップ企業 MATRIX INDUSTRIESと共同開発したウェアラブルトラッカー。トラッカーとしては世界初、体温を動力源とし、24時間365日止まることなくユーザーの活動量、睡眠、消費カロリーを測定する。
OYM:最後に、コロナ禍の現在、そして未来のランステに求められるのはどのようなことだとお考えですか?
永島:日本のランニング文化が定着したのは東京マラソン以降です。その後市民マラソンが全国各地で行われるようになり、日常的に走る人が増えました。誰でも気軽に皇居でランニングができるほど、今では市民権を得て文化として根付いています。
ランステはその一端を担うものですが、以前は「荷物を預ける場所」であり、「シャワーを浴びることができる場所」としての需用が高かった。すでにそのフェーズは終わったと感じています。
これからはより気軽に、好きな場所でランニングができる仕組みが求められると思います。言い方を変えれば、誰かが「走ろう」としている場所は、どこであれランステが求められている可能性があるということ。そのニーズに応えるためには提携店を増やすことが必要です。また、先ほどお伝えしたように、離れた場所にいる方にも、アプリを活用して健康の維持、管理、増進にアクセスしやすくすることが鍵になると考えています。
例えば、出張で訪れた場所で「景色がいいし、ちょっと走りたいな」とふと思った人が、気軽に汗を流せる環境をすぐに見つけられるように。Re.Ra.Ku PRO ランニングは今後全国展開も考えています。フィジカルとデジタルの両軸から利用者の健康をサポートしていきたいですね。
あとがき
この1年でクローズする店舗が目立っていたこともあり、ランステも新型コロナウイルスの影響を受けていると推察しましたが、取材してみると、致命的なダメージを受けていないことが見えてきました。永島さんが話す通り「趣味へのモチベーションは抑えることができない」ことが大きな要因であることは間違いありません。しかし、ユーザーのモチベーションだけで今後も安定した運営ができるかは分かりません。Re. Ra. Ku プロのようにランステ「+α」の形は今後のランステの指針になると予想されます。すなわちランステにもオリジナリティが求められる時代が来たということでしょう。これから新規オープンするランステに注目です。