サステナブルという言葉は今や、多くの意味を負わされている。正義、理想、大義、偽善、利権。その触れ幅に戸惑うばかりだが、気候変動と本気で向かい行動を起こす若い世代が率直に語るサステナブルには、希望もある。口だけのサステナブルのその先を、19歳の二人の言葉をきっかけに見出したい。
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19歳が気候変動を意識するワケ
OYM
まずは、おふたりが気候変動を問題として意識するようになったきっかけを。
黒部
高校1年生の時に訪れたスウェーデンで環境問題を訴える同世代の子たちに偶然出会ったんです。その子たちはFridays For Futureの活動をしていたんですけど、同世代の子がそんな風に学校を休んで声を挙げていることを知って。私は何もしなくていいのかなって思い、日本に帰ってきてから色々調べたり、自分にできることを考えるようになりました。
冨永
将来水が無くなるとか、二酸化炭素が増えて酸素が減るという話を小学校の時に聞いて、漠然と怖くなったんです。色々勉強してそこまで極端な話ではないことを知った後でも、漠然と怖さは残っていて。コロナの時期に勉強から距離を取った時に環境問題が目について、そこでグレタさんやセヴァン・スズキさんを知ったのがきっかけですね。
正義、貧困、平等、気候変動
OYM
お二人は気候変動に対するアクションをとられていますが、いろいろな切り口やアプローチ、考え方があると思います。お二人の興味関心領域は?
冨永
僕は難しいと思われがちですが、法律を通じて、正義とは何か? 平等とは何か? ということを考えています。それを環境問題にしてみると気候変動だなと。僕たちみたいな先進国に住んでる人たちがCO2とかプラスチックを出し、それが途上国で大きな被害を産んでいるってのが正しくないという感覚があって、それを直していきたい、どうしたら直せるのかが問題意識です。
黒部
私は、あまり難しいことはわからないんですけど、でも気候変動が起こることで苦しんでいる人がいることが嫌で。今までは貧困問題に興味があったんです。日本や世界の社会システムだと、私が普通に生きているだけで誰かを苦しめてしまっている。そういうところを変えていきたいと思ったんです。気候変動に取り組むのは人権問題に取り組むことだと考えていて、みんなが幸せに暮らせる世の中になるためには、気候変動を無視できないのでこういう活動をしているんです。
いまを生きる人と同じ幸せを分かち合いたい
OYM
お二人の世代は気候変動の影響を直接に受ける世代と言われていますし、さらにその子どもの世代はなおさらです。そういった「自分ごと」としての危機感があるのでしょうか?
黒部
あんまり自分のためとか、自分の子どものためとかではなくて、いま一緒に生きている人のことを考えているというか。世界中に生きている人の中で、私は特別に何でも揃っているし、気候変動が悪化してすごく暑くなってもクーラーを入れられるし、台風が来ても家の中にいられるし。でも世界中にはそんな状況でない人がいるなと思ったときに、私はいま自分が感じている幸せを分けなければいけないんだって。これ色んな取材のときによく言うんですけど、私、頭の中がファンタジーなんです(笑)。
『最後の変えたい人』は……
OYM
みなさんがそうした活動を通じてメッセージを届けたい相手って誰なんでしょう。同世代なのか、話の通じない大人なのか。
黒部
時期によります。G7とかCOPのような大きな会議があればそれに向けてアクションを考えますし、同じ日に世界で同時にアクションしようという時は政府ではなく、同世代に届けたいのでインフルエンサーに拡散をお願いしたりとか。どこかだけにアプローチしても、社会を変えられないので、割とフレキシブルにやっている感じがありますね。
冨永
『最後の変えたい人』は、総理大臣とか経済産業大臣とか外務大臣。日本の権力を持っている何人かが変わったら、社会は変わるんですよ。なので、最終目的はそこを変えることで、そのために世論を変える必要がある、そういう風に考えています。
音楽の力を信じる
OYM
黒部さんは大学で音楽を学ばれている表現者ですが、なぜ音楽を選んだのですか?
黒部
音楽の力はすごいと思ったことが何回かあって。海外のアーティストはチャリティーに積極的で、中学生のときに好きだった歌手は、その人が病院に行くだけで、子どもたちが何人もすっごく大喜びして泣いてたりとか、ライブ開くだけで何万人の人が喜んで、CDを出すだけで何十万人が喜んで。音楽とかアーティストの力ってすごい、たくさんの人に幸せをあげられるし、すごく影響力があるなって。今は音楽の力で少しでも多くの人を幸せにできるエンターテイナーになれたらいいなーって、漠然と目指しながらやっています。
OYM
専門は楽器ですか?
黒部
歌です。声楽で、イタリア歌曲をずっと歌っています。
OYM
歌でそれこそ、同世代の世界中の活動家には詩を読んだりとか、ラップをやったり*なんて才能もいますが、気になったりしますか?
*人種差別問題を詩で訴えるアマンダ・ゴーマン(23歳)は先のアメリカ大統領就任式の朗読で話題に。コロラド州の先住民であるラッパーのシューテスカット・マルティネス(21歳)は若干6歳のときに環境問題に関するスピーチを行っている。
黒部
気になります。日本はあまりアーティストで発信する方ってあまり多くない。批判されるし、あなたは歌だけうたっていればいいとか言われちゃう傾向が強いんですけど、海外だと、例えばビリー・アイリッシュが発信しているのをみると、わたしもそういう人になりたい、そういうかっこいい人になりたいと思います。あんなに影響力ある人になるのはめちゃめちゃ大変ですけど。
ふたりのロールモデル
OYM
気候変動とかSDGsといったところで、お二人が注目している人はいますか?
黒部
私はマイリー・サイラスという歌手に影響を受けたんです。彼女は気候変動も発信しますし、病気で苦しんでいる人の支援にも声を挙げている。そういう社会問題を、みんなを巻き込んでカッコよく発信するスタイルに、そんなことできるんだって意味で影響を受けましたね。
冨永
環境問題ではありませんが、Twitterで大坂なおみさんをフォローしてます。日本の文化とは合っていないのかもしれませんが、昔から自分の芯がしっかりしていて。なんでこうじゃないの? というスタンス。自分もそうありたいなってすごい思います。
グレタさんは身近に感じられなかった
OYM
気候変動問題に声を挙げる世界的なアイコンは、グレタ・トゥーンベリさんです。スウェーデンの話もありましたが、お二人にとってもやっぱりアイコンなんでしょうか?
黒部
グレタさんのスピーチを見てこの活動を知ったという人はやっぱり多いし、Fridays For Futureも彼女のスピーチを定期的に見るようにしています。私はメディアにたくさん取り上げられているすごい子、だなとむしろ最初は身近に感じられませんでした。でも、自分もこういう活動をするようになってから、彼女のスピーチや意見のすごさを知りました。難しいことは言わず、正しいことを言っている。わたしより年下で、たくさんの批判を受けても、ずっと声を挙げ続ける姿勢は本当にすごいなと思います。私が影響を受けた人は、それこそグレタさんの影響で活動を始めたんです。彼女から輪が広がって、それがさらに大きくなっていると感じることはあります。
冨永
グレタさんが最初に国連に出たのが15歳くらいのとき。なんで頭のいいおじさんたちがそんな若い人の話を聞くんだろうと思ってました。僕が15歳の時に大人に対して何を言えただろうと考えて。それで彼女は何を言ったのか。激昂しながら排出量が多すぎるって。確かにそれは15歳ができる精一杯で、でもできることを全部やっているんだなって。確かに大人の学者の方が、たくさんのことを知っている。でも、若いグレタさんの方が世の中でいま大事な一番根幹の部分を伝えている。そういうことができる人なんだなと。
「好きなブランドは?」の答え
OYM
好きなブランドは? って聞かれたときに、なんて答えますか?
冨永
僕はジャケットを買うなら、ECOALF(エコアルフ)かな。海にあるプラスチックゴミを拾ってきて服を作っているんです。スペインのファッションデザイナーが、ファッションは環境に負荷がかかりすぎるからって始めたんですよ。でも服に関しては自分は未使用の古着を選ぶことが多いです。あとはThe North FaceとかKEENといったアウトドア系のブランドは環境配慮がしっかりしているので、名前を挙げたいです。
黒部
パタゴニアとかね。
冨永
そうそう。
黒部
いろんな会社の理念とかを聞くことが多くて、真剣に取り組んでいるところは本当に毎回かっこいいと思うんですね。でも好きなブランドか……。ここがすごく好きっていうのはあんまり無いかもしれません。
SUNSKIというブランド
OYM
SUNSKIもサステナブルを前面に掲げたサングラスのブランドです。第一印象はいかがですか?
冨永
デザインが良くて、黄色とか明るい色が使われているのが楽しいなと感じます。「サンスキー」って名前もかわいいなと思いました。
黒部
一回買ったら、生涯保証がつくというシステムがあるのがいいなと思って。たくさん作りたくさん売ってお金を稼ぎたいという企業が多い中で、ひとつのものを大切に、資源を大切にしているのがすごく素敵だと思いました。スウェーデンではそういうお店が多かったことを思い出します。
長く使っているもの
OYM
ひとつのものを使い続けることは、結果的にサステナブルですよね。お二人には長く使い続けているものってありますか?
黒部
わたし、今使っているお弁当のお箸は幼稚園のときのやつです。すっごく短いんです。
OYM
ええ!
黒部
きりんぐみって書いてあります。使えるなら使えばよくない? って。あとは性格的に、一周まわってむしろそれ可愛くない? とも思っています。今日も親が私くらいのときに着ていた服を着ていますし。遊びに行って友達を撮るのは親が40年くらい前に使っていたカメラだったり。リュックも中学生から変えてなかったりとか、けっこう物が壊れるまで、長く使うことが多いですね。
サステナブルはファッションの一部
OYM
SUNSKIのサステナビリティはどう感じますか?
冨永
サステナブルだというのは目に見えませんが、超かっこいいと思います。自分の中ではそれがファッションの一部っていうか、かっこよさの一部っていう感覚はありますね。
黒部
おっしゃるとおりで。自分が身につけている時に気持ち悪いものはいやなので、背景のあるブランドなら身につけているときにワクワクして、楽しい気持ちでいられるもんね。
サステナブル=いい商品じゃない
OYM
サステナブルをうたうブランドは増えていますが、口だけのところとそうでないところをどう見極めていますか。
冨永
その会社が社会に対してどんな影響を与えているか、という観点を持つと、けっこう見えてくると思います。服ではありませんが、プラスチックボトルを使い続けている大手飲料メーカーから、Fridays For Futureと一緒に何かやりたいと言われたことがあったのですが、それは違うよなと。「サステナブルなものです、買ってください」ってそもそも買って使うことは持続可能ではない。だから消費するのものを作っている時点で、その会社はどちらかというとサステナブルではないと考えます。
黒部
難しいなと思います。問題に取り組むことは悪いことではないし、取り組みたいと思う企業が増えてることはいいと思いますが、「取り組まなきゃいけないから何かやります」じゃダメ。地球を守りたいとか、住み続けられる環境や人間を守りたいから取り組むという考えを持つことが、最低限の条件だと思います。圧力というか、社会の中でやってないとマズいからやっておこう、SDGsって言っておこう、なんて態度だとウォッシュになりがちなのかなって思います。
OYM
メーカーがどこもサステナブルと言い出すと、消費者側の積極的な情報獲得への態度が必要になるということですね。
黒部
それはすごく感じています。私も最初の頃はサステナブルって書いてあるだけで買いたくなってました。今も多くの人が「サステナブル=いい商品」って思って買いがち。でもいろんな商品や他の人の発信をよく見ていくと、それだけでいいものだと考えるのは早計かなと感じています。そのあたりは自分自身の感じ方も変わってきました。
冨永
友人と企業や商品について話していて、納得したのが、自然を守ることを手段として捉えている企業と、目的として捉えてる企業があるということ。さっき挙げたアウトドア系のブランドやSUNSKIのように元々理念を持って活動しているところは信頼できることが多いです。気候変動やプラスチック問題が深刻化したら、アウトドアブランドはその目的であるアクティビティ環境を失うわけですから。どう自然を保護しているとか、どうサステナブルを考えているかとか、どこで製品が作られているかとかを見るよりも早くそのブランドを判断できる。
SUNSKIのぐっときたポイント
OYM
SUNSKIでここがいいなと思うポイントがあれば教えてください。
冨永
ちゃんと作られていることがわかる質感がすごく好きです。持っていてテンションが上がるし、背後にあるストーリーを聞くと、製品そのものにそういう考えが染み込んでいるような気がするんです。
黒部
1度買ったら、長く使えるようにフレームに生涯保証がつくのは、新しい社会のシステムを取り入れている感じがしていいですよね。他のファッションブランドの話になっちゃいますが、店員さんがそのブランドの今売っている新商品じゃなくて、古着を見て嬉しいんですって言ってるのを聞いたときにすごくびっくりしました。新しい商品を買っていない人に対しても、嬉しいって感情が生まれるんだって。そういう考え方ができる人が増えたらいいなと思っていたので、その会社のものをいっぱい買うんじゃなくて、ひとつのものを長く使ってもらうことに価値を置いているSUNSKIは、すごく素敵だなと思いました。
「買い物は投票」の意味するところ
OYM
アパレル産業はCO2の排出が多いという現状があります。お二人の活動は、ブランドや製造業に対してどういうインスピレーションを与えられると思いますか?
黒部
「買い物は投票」と最近よく言われるようになりました。これをレジ袋を断るとか、良くない素材のものは買わないとか、CO2の排出量を減らすためだと思っている人も多いと思いますが、そうじゃない。自分がそれを買わなくても、他の人が大量に買ったら意味がないわけで。この行動の意味は、その商品に需要があるかないかを伝えることが大事なんです。ちゃんと環境問題に取り組んでいる商品を購入することで、その会社にこういう商品が求められているよって伝えることになるし、選ばないのはこの商品に問題があるから嫌だと思っていると伝えることになる。でも、買わないだけでは普通に目に入らなかった人と同じになってしまうので、そういう意味ではちゃんと企業に声を届けることも大事だなと思って。銀行にはそういう声を送ったりするんですが、ブランドのカスタマーサービスにも声を届けるのが大事だなと思います。
冨永
だいたい製造業は掘り下げていくと、どこかで人権的なものにぶつかるんですね。素材はいいけど、それを縫い合わせている人のことを考えると、支持できないことがある。お金を儲けることが大事な企業は、仕事だと割り切って考えてるところも多いと思います。それでもあなたの仕事は、誰かの生活に直接関わっていて、それはお金儲けが大事でも絶対忘れてはいけないことだし、会社としてそういう考えを持たないといけないのではと伝え続け続けたい。
「おかしい」と思っているだけじゃ社会は変わらない
OYM
最後に、これからのお二人が目指す方向を教えてください。
冨永
これから資本主義をどうするのか、続けるのか、続けるにはどうすべきかという話をする時代になると思います。資本主義の起点にあるのが今まで当たり前にしていた消費して捨てるという行動原理です。お金稼ぎだけじゃない幸せを大事にしたいけれど、そういった考え方を持てるのはどんな社会かと考えています。そこには経済に詳しい人が必要で、自然に精通している人も必要で、法律の専門家も必要。「平等」のような一番最初に目指すものをみんなが共通で持つことが大事だと思っていて、その目指すものをこれからも勉強し続ける中で探したいし、学んだことをどんどんアウトプットしていきたいと思っています。
黒部
わたしは、この活動を何年かやって声を挙げることが大事だと感じています。さっきも言いましたが、おかしいなって思っているだけじゃ社会は変わらない。地球を壊したい人はいないと思いますが、壊したくないって心の中で思ってるだけじゃ壊したいと思っている人と変わりません。だからやっぱり声を挙げないと、おかしいとか何か意見があったらちゃんと声に出すか、行動に移さないといけないと思っています。それをみんながやりやすい環境を作っていくために、自分ももっと発信をしていきたいですし、表現する手段として音楽を楽しく使っていけるように、しっかり勉強していきたいと思っています。