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前回はマラソンランナーを例に、エネルギーとLTの関係をご紹介しました。私たち市民スポーツのトレーニングにおいて、どうしたら怪我や故障のリスクを減らし、効率良くレベルアップしていくことが出来るのでしょうか? 今回は、そのヒントとなるトレーニングの原理と原則というものを紹介します。

かつてドイツの発生学者、ウィルヘルム・ルーは「筋肉は適度に使うと発達し、使わなければ細くなり、過度に使えば障害を起こす」という法則を提唱しました。この<ルーの法則>を発展させたのが<トレーニングの原理と原則>です。怪我や故障のリスクを減らし、効率良く行っていくための原理・原則として、多くの運動指導者やアスリートがトレーニングに応用しています。

まずは<ルーの法則>を元にしたトレーニングの三大原理です。

過負荷の原理

人間の体は一定の負荷をかけ続けるとそれに慣れて適応していきます。つまり、筋力や持久力などといった体力を向上させるためには、日常生活よりも高い負荷でトレーニングを行わなければなりません。

特異性の原理

トレーニングの効果は、行ったトレーニングの通りにしか向上しません。ランのトレーニングをすればランの能力が、野球のバッティング練習をすればバッティングの技術が向上します。しかし、マラソンランナーが野球の素振りをいくら練習してもランの速さは変わらないように、トレーニングが自分の種目や目的にあったものでなければ求める効果は得られません。

可逆性の原理

トレーニングによって得られた効果はトレーニングを続けている間は継続されますが、止めてしまうと徐々に失われていきます。トレーニングの期間が長いほど失われる速度は遅くなり、期間が短ければ効果は速く失われます。

次に<ルーの法則>をさらに発展させたトレーニングの五大原則です。こちらもとても重要な内容です。

継続性の原則

トレーニングは継続的に長い期間行うことで筋力や持久力が向上していき、1〜3ヶ月続けると効果が現れてきます。正しいフォームで繰り返し行うことで無意識に反射的に体を動かせるようになり、滑らかで効率の良い動きになって技術が向上します。

漸増性の原則

トレーニングの効果は、強度や量を徐々に高めていくことで得られます。しかし、急激に強度や量を増やし過ぎると、オーバーワークによってトレーニング効果を減少させたり、障害や怪我を引き起こす原因になったりします。ですから強度も量も少しずつ増やさなければなりません。

意識性の原則

トレーニングは、指導者に指示された内容や、専門書に記述されていた方法であっても、何を目的としているのか、どんな効果があるのかを、運動生理学的、力学的に理解して行うことで効果が高まります。また、自分の弱点や強化すべきポイントを客観的に分析し、それを意識しながら行うことも必要です。

全面性の原則

体力は、筋力・スピード・パワー・筋持久力・敏捷性・持久力・柔軟性など様々な要素で構成されています。トレーニングを行う際には、これら全ての要素を行うことで効果が高まります。持久系スポーツであっても、スピードトレーニングや筋力トレーニング、柔軟性を高めるストレッチなどをバランス良く行うことで故障や怪我のリスクを減らし、全体のパフォーマンスを高めることが出来ます。

個別性の原則

先天的・後天的なものを含めて、各個人の年齢・性別・健康状態・運動経験・競技レベル・トレーニングの目的などの違いを考慮した上で、トレーニングは個人に合ったものでなければなりません。グループでトレーニングするときでも、各個人に合わせて強度も量もアレンジされなければなりません。

以上がトレーニングの原理と原則です。一つ一つが個別の法則というよりも相互に関係があり、全体で一つの考え方になっています。専門用語はさておき、内容を大まかに理解すれば自分のトレーニングに活かすことが出来ると思います。

トレーニングは、健康のため、競技レベル向上のため、ストレス解消のため、体を鍛えるため、いろいろな目的で行われると思いますが、いずれにしても怪我をしてしまえば逆効果になってしまいます。トレーニングの効果を活かすためには、休養と栄養とのバランスが大切になってきます。

次回のテーマは「休養」、トレーニングによる超回復とレストの関係を紹介します。

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT

監修者:肥後徳浩

元自転車競技選手。自転車選手時代にコーチから学んだトレーニング理論をベースに、方法よりも目的を生理学的、力学的に「理解する」ことと、体の反応を「感じる」ことを大切に、日々トレーニングに取り組んでいる。音楽レーベル「Mary Joy Recordings」主宰。
www.maryjoy.net