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前回までは、トレーニングを強度によって幾つかのカテゴリーに分類することが出来ること、それらをバランス良く組み合わせることで相乗効果を発揮出来る、というお話をしました。一つ一つのトレーニング・メニューは、パズルのピースのようなもの。それをいかに組み合わせ、トレーニング全体をデザインしていくのか、というのを今回からのテーマにしてきます。

トレーニングのデザインって何?

トレーニングのデザインとは、トレーニングを計画すること。トレーニング経験者には、プログラミング、期分け、ピリオダイゼーションと言ったほうが具体的で分かりやすいかも知れません。しかしここでは、ビギナーにも分かりやすいようにするためと、自分でもプログラムを作成したり、アレンジしたり出来るように、あえてクリエイティブな意味を持つデザインという言葉を使っています。

トレーニングは自己流でもうまくいく場合がありますが、ほとんど場合はパフォーマンスが頭打ちになってしまったり、怪我や故障を起こしてトレーニングを中止せざるを得なくなってしまったりします。しかし、運動生理学の基礎的な知識や、基本的なトレーニング・メソッドさえ押さえておけば、後は想像力と工夫で、トレーニングをより安全で効果的なものにデザインしていくことが出来ます。身体だけでなく頭もフル活用して、スマートにトレーニングをしていきましょう。

レースに向けたピーキング

目標とするレースや試合がある場合、トレーニングは、その大会当日に調子の波のピークが来るように行わなければなりません。目標レースの2ヶ月前にスーパーアスリートのような気分になっていたのに、レース当日に疲労が抜けていなかった、不調で全然動けなかった、というのでは、せっかく行ったトレーニングの成果が発揮できません。トレーニングのデザインというのは、レース当日にピーキングを迎えるための青写真なのです。

レース当日を最高のコンディションで迎えるためには、強度と時間の違う様々なトレーニングをうまく組み合わせ、回復の時間を作りながら、ゆっくりと大会に向けて調子の波を高めていきます。大会に向けて強度やトレーニング時間が増えてくると、身体は強いストレスを感じるようになりますが、必ず回復しようとする力が働きます。この超回復を利用して、休養、栄養、メンタルと、様々な面からコンディショニングを高めていきます。

トレーニングの周期

トレーニングのデザインに欠かせないのは、時間的な経過です。目標レースまでの日数から逆算していくのが一般的ですが、準備にどれくらいの期間が必要か、または試合の期間がどれくらい続くのか、種目によっても、競技者のレベルによっても全く異なるので一概には言えません。ここでは、年に2回、4月と11月に目標レースがあると仮定して持久的スポーツ(市民マラソンなど)を例に上げて考えていきたいと思います。

4月と11月にコンディションのピークを作るために、まず1年を2つの周期に分けます。そして、その1つの大きな周期の中には、目的の異なる小さなサイクルをレイアウトしていきます。例えば、

・基礎的な体力を養うベース・トレーニングの期間
・スピードやパワーなどのパフォーマンスをビルドアップさせる期間
・より実戦的なトレーニングを行う期間
・疲労を抜きながらコンディションを高めるための期間

などです。これらの期間はそれぞれおよそ4週間〜12週間ほどで、レースまでに時間の余裕があれば、必要な分だけ期間を設けます。準備期間としてのベース・トレーニングの時期を長く取ることは、高強度トレーニングを始めたときの怪我・故障のリスクを減らし、疲労からの回復を早めるので、トレーニングの質を高めることにも繋がります。

大きな周期は目標レースでフィニッシュします。この間、時間の経過とともに、トレーニングの強度と時間を変化させていくのです(これがポイントです)。

4週間〜12週間ほどの小さなサイクルの中には、1週間毎のメニューをレイアウトしていきます。1週間のメニューの中にも、強度の高いメニューの日と、回復の日を作らなければいけません。そして、一週一週を独立したデザインにするのではなく、隣り合った週のメニューを関連づけ、4週間で1つのサイクルになるようにレイアウトしていきます。1週目→2週目→3週目と徐々に強度か時間を増やし、4週目は強度・時間ともにやや減らします。これは回復のための週という位置づけなので、休養と栄養をしっかりととります。

回復の重要性

4週目に回復の週を入れていても、それだけでは長期間に及ぶ高強度トレーニングの疲れは完全には抜けきることはないのが普通です。そのため、レースの前は徐々に強度も時間も減らす、あるいは時間だけ減らすなどして、さらに疲労を抜いていきます。これがテーパーリングと言われる期間です。

またレース・試合の後にもしっかりと回復の期間を設け、休養と栄養をしっかりととり、マッサージを受けるなどして疲れを取り除きます。身体も心も十分に回復すれば、また次のレース・試合に向けて意欲も高まっていきます。このように、トレーニングのデザインは、トレーニングのメニューそのものや、並び順といったことだけでなく、回復の期間も計画的にレイアウトする、ということがポイントになっていきます。

次回は、実際にトレーニングのデザインをしてみましょう。最初に週毎のデザインについて、その次に全体の大きなデザインについてお話したいと思います。ちなみに、onyourmark running clubのメニューも、そうしたデザインの1例ですので、参考にしてみてください。

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT
#08 トレーニングの原理と原則
#09 トレーニングの頻度と超回復
#10 トレーニング強度 ベースとエンデュランス
#11 トレーニング強度 スピードトレーニング

監修者:肥後徳浩

元自転車競技選手。自転車選手時代にコーチから学んだトレーニング理論をベースに、方法よりも目的を生理学的、力学的に「理解する」ことと、体の反応を「感じる」ことを大切に、日々トレーニングに取り組んでいる。音楽レーベル「Mary Joy Recordings」主宰。
www.maryjoy.net